第53話 錬金術大会ではなく、これじゃあ武闘大会だよ配信
『では、冬ブロック決勝戦! 最終決戦は、武闘戦! 4人で戦い合い、最後まで立っていた者が優勝です!
----冬ブロック決勝まで勝ち進んだ4人、果たして優勝するのは誰なのかぁ!!』
----どうも、錬金術師のための大会に出ているはずなのに、対人戦をさせられようとしている錬金術師のススリアです。
私と同じように勝ち進んだ3人と、お互いに睨み合っている状態である。
黒い毛むくじゃらの大男、弓を構えるダークエルフの女、下半身が馬のケンタウロス----。
私個人の意見で申し訳ないが、この"1回戦・2回戦共に魔物討伐"という冬ブロックでなければ勝てないメンツに見える。
どう見ても、錬金術師としての器用さよりも、魔物を討伐するという戦闘能力重視の人々にしか見えないんだけれども。
----そして、そんな冬ブロックに当てはめられた私も、そういう風に見られてるって事?
「(……この大会、本当にダメすぎでしょ)」
春ブロックは、『春の芽吹き』----春の植物に関する、魔道具の作成。
夏ブロックは、『快適な夏』----夏の暑さを対処する、魔道具の作成。
秋ブロックは、『豊富な秋』----秋の美しさを味わう、魔道具の作成。
そういう風に、その季節に関する魔道具作成の大会かと思いきや、まさかの冬ブロックは『冬の厳しさ』ということで、魔物討伐って……。
でもって、最終の決勝戦は、勝ち上がった4人による対人戦でしょ?
----こんな3人よりも、冬ブロックでなければ勝ち上がったであろう錬金術師が大勢いたのに。
----討伐大会でなければ勝てただろうに、可哀想……。
「ウィーハッハハハハァ! この羊の獣人族一の色男、【イボーク】様が優勝してやるぜ!」
「----【スルーヨ】が弓で勝利を射抜く」
「いやいや! この【スグハ】の健脚で、ぶっちぎりで優勝するぞ!」
全員勝利する気満々のようだが、お前ら、武闘大会と間違えてないか?
『----では、武闘戦、スタート!!』
司会の人の掛け声とともに、一斉に3人が大技を放ってくる。
「ウィーハッハハハハァ! 【暴れ羊の激突】!」
「----【一点突き・嵐】」
「健脚! 健脚! 健脚ぅぅぅ!!」
黒い羊獣人のイボークが、その大柄な身体を利用してタックルを仕掛け----。
褐色肌のダークエルフであるスルーヨが、連なる弓矢を一斉に放って、まるで嵐のように浴びせて来て----。
イボークよりも大柄なケンタウロスのスグハが、大きく笑いながら、両手で槍をしっかり握りしめて突進して来て----。
「----ふんっ!!」
私は剣で風圧を起こして、吹き飛ばしたのだった。
『きっ、決まったぁあああああ!! 一撃、たった一撃で決まったぁああああ!!
錬金術師ススリアの放った剣の一撃が嵐のように3人に襲い掛かり、3人を吹き飛ばしたあああああ!!』
一撃----そう、たった一撃である。
ただステージから下ろすだけなら、風圧で吹き飛ばすに限る。
『さぁ、それでは冬ブロックの勝者たるススリアさんに、一言いただきましょう!
ススリアさん、ではどうぞ!』
なんか司会者の人が降りて来て、魔道具【音波増幅器】を向けて来たので、私なりの意見を述べさせてもらう。
「こんな武闘大会で、錬金術師としてのスペックが分かる訳ないだろ」
----ただ力任せに、タックルするだけの羊獣人族。
----なんの変哲もない弓矢を、凄腕の技で放ってるだけのダークエルフ。
----槍を持って、逃げられない速度で走って来るだけのケンタウロス。
種族としての特徴を、フルに活かしただけ。
自分よりも上位の種族が出てきたら、終わりのそれだけ。
「仮にも錬金術師の大会に出てるんだったら、種族としての力を埋めるための魔道具を使ったりしてよ」
----"羊獣人族"は、相手の攻撃を防ぐ鎧とか、作っておこうよ。
----"ダークエルフ"は、弓矢を放つのを防ぐ魔道具とか、作っておこうよ。
----"ケンタウロス"は、相手に必中する攻撃用の槍を、作っておこうよ。
種族としての力だけでは勝てない相手なんて、普通にゴロゴロ居るでしょう。
それを補う、それを負かすための魔道具を作って、使うのが錬金術師でしょうに。
「あなた達が本当に錬金術師と言うのなら、種族としての特徴、そしてそれをさらに活かす魔道具で立ち向かって欲しかったです」
魔道具【音波増幅器】を司会に返して、私は帰るのでした。
……あぁ、ほんと、明日の、各ブロックの優勝者同士による決勝戦は、ちゃんと錬金術師として戦えることを祈りたい。
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・イボーク
:羊の獣人族
:黒い毛むくじゃらの羊獣人族の大男。主な攻撃方法はタックルを始めとした肉体攻撃。ふわふわの羊獣人族の特徴たる毛を、敢えて汚すことで鋼よりも硬い硬度の毛にして、2mを越える巨体で近接戦を好む。予選課題の成績は20個中7個ミスとギリギリで、それも自分の毛を加工する事で硬さを維持してただけの事
:今回の決勝戦を終え、ススリアの言葉にいたく感動し、錬金術を学びたいと志す
・スルーヨ
:ダークエルフ族
:褐色の肌が特徴のエルフ、ダークエルフ族の女性。主な攻撃方法は弓矢による遠距離攻撃。部族一の器用さにより、多くの射術を持っており、狩人としての腕は確かなもの。予選課題の成績は20個中3個ミスであり、器用さもかなり高いが、錬金術としての技術はほとんど会得していない
:今回の決勝戦を終え、ススリアの言葉にいたく感動し、錬金術を学びたいと志す
・スグハ
:ケンタウロス族
:下半身が馬という、特殊な獣人族の男。主な攻撃方法は槍による突撃。馬の下半身もあってイボークよりも大柄だが、ケンタウロス族の中ではごく平均的な体格。王都の騎士団所属で、自慢の脚力を磨いて一気に突進する攻撃が得意。予選課題の成績は20個中6個ミスで、騎士団の友達と一緒に作った合作である事が後に判明する
:今回の決勝戦を終え、ススリアの言葉にいたく感動し、錬金術を学びたいと志す
体格順
ケンタウロスの"スグハ">羊獣人族の"イボーク">ダークエルフの"スルーヨ"




