第46話 研鑽の神アカデミアについて、リモート会議配信するぞ配信(1)
----土下座。
地面や床の上に座って、平伏してお辞儀をする、教会に伝わる最大限の敬礼。
深い謝罪、相手に対しての服従を示す姿勢であり、前世と同じく、これをするという事は相手に対して最大限の謝礼を意味する。
それが故に、この世界においても、大多数の人間が土下座するという光景は、滅多に見える光景ではない。
----そんな土下座をしている人間が大勢、配信画面上を埋め尽くすほどいるという光景。
その光景に、私は、驚いてしまったのだ。
『錬金術師のススリアさんですね。この度は、会議をしてくださり、ありがとうございます』
『『『ありがとうございます!!』』』
なにこれ?! ノリが完全に体育会系なんだけど?!
着ている服は修道服で厳かな雰囲気を出しているのに、ノリが完全に暑苦しい体育会系なんだけど!?
「あっ、あぁ……よろしくお願いします」
『『『『よろしくお願いしやーす!!』』』』
"よろしくお願いしやーす!!"とか言ってるよ?!
これ完全に、教会とは別組織でしょ?!
私が完全に驚いていると、1人の銀髪エルフが前に出て来る。
そのエルフは豪華そうな修道服に身を包み、同じくらい豪華そうな錫杖を手にしていた。
『錬金術師ススリアさん、皆さんが好き勝手に喋ると混乱するかもしれませんので、代表として私が話させていただきます。私の名前はカーラ・スパイシィ。この教会の法王を勤めております』
「法王様?!」
『どうぞ、気軽にカーラとお呼びください』
呼べないよ! 法王って、教会のトップじゃんか!
そんな近所の人を呼ぶみたいな感じで、法王様を呼べるわけないじゃないですか!
「……カーラ法皇、と呼ばせてもらいますね」
『別にカーラでもよろしいのですが、確かにいきなり距離を詰めすぎたかもしれません』
全く持って、その通りですよ。
『では、ススリアさん。この配信ではカーラ法皇、そう呼んでください。皆様もそれで良いですね?』
『『『えぇ! 同感です!』』』
……いちいち、うるさいなぁ。
しかも、無駄にハモってるのが、ちょっとムカつくんだけど。
あと、『この配信では』とか言ってるけど、もう絡む事ないから、そんな事気にしなくて良いですよ!
いちいちツッコむのも面倒臭いですし、もうリモート会議配信の本題に入ろう。
「今日のリモート配信会議の議題は『研鑽の神アカデミア様は存在しているのか否か』、そして『そもそも研鑽の神アカデミア様とはなんなのか』。以上の2つで間違ってないですよね?」
『もちろんでございます。それではまず、『存在しているのか否か』を話したいのですが、よろしいでしょうか?』
「----あっ、はい。分かりました」
カーラ法皇に促されるようにして、私は自分の意見を話す事にしたのであった。
……まぁ、とはいっても、"研鑽の神アカデミアは存在するか否か"を話す事は、"研鑽の神アカデミアとはなんなのか"を話すのと一緒なんだけど。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
----研鑽の神アカデミアは、存在しない。
まず私は、配信画面に映る教会の皆にそう宣言した。
前世の知識だが、相手に信じてもらうには、結論から話すべきだというべき考え方がある。
『PREP法』と呼ばれる方法で、この方法を使えば自分の主張が、説得力があるモノとして、なおかつ短時間で伝わるのである。
----"結論"、"理由"、"具体例"、そして"結論"。
この順序に話すと、しっかりとした主張になるんだという事を覚えていたので、私はそのように主張していく。
「研鑽の神アカデミア様は、私が調査した結果、魔王ユギーが封印されるよりも前から、教会に神としてその名が伝わっているという事が分かっています」
「これが証拠です」と、ガンマちゃんに証拠を提示してもらう。
今回のリモート会議配信において、私はフォロー役としてガンマちゃんを相棒に選んだ。
相棒と言っても画面には登場させず、私が言った内容を画面内に投影する役割だけど。
ちなみになんでガンマちゃんを選んだかと言えば、うちのゴーレムだと、ガンマちゃんだけが配信中に画面に別の映像を投影できるという機能を有しているから、という理由での選出である。
ガンマちゃんが映し出したのは、王都の図書館で以前私が借りた『教会歴史全集』という本だ。
その最初の方のページに、"魔王ユギーを封印するため、研鑽の神アカデミア様を祀る教会の信徒達が王都の教会に集結した"という記述があり、ガンマちゃんに頼んで映し出してもらっている。
ちなみにこの本は、他ならぬ教会が発行している本なため、すぐさま配信内の教会の人達も『『『確認が取れました』』』と返答してくれた。
「このページを読めば、魔王ユギーを封印する時代には、既に研鑽の神アカデミア様の名があった事が分かります」
『確かに確認しました。しかしそうなると、"研鑽の神アカデミア様が存在しない"という、ススリアさんの意見に反するのではないでしょうか?』
カーラ法皇の言葉に、他の教会の人々も賛同し始める。
「えぇ、確かにこの本だけでは、そう読めるかもしれません。という訳で、続いて王国の歴史が描かれている『王国歴史全集』という本の1ページをご覧いただきましょう」
私がそう言うと、デルタちゃんは、続いて『王国歴史全集』----この王国の歴史が記された歴史書、その1ページを配信画面に表示する。
『----『魔王ユギーを封印すべく、王国の兵士約5万、帝国の兵士約4万、そして教会の信徒たる民衆約10万が、研鑽の神アカデミアの名のもとに、決戦の地に集まった』と書かれていますね』
「えぇ、この後、この『王国歴史全集』を読み進めていくと、20万近くになる魔王ユギー封印軍が、研鑽の神アカデミアの名の元、古代兵器『ウィッシュ』を使ったという記述があります」
魔王ユギーは、強力な魔王だ。
かの魔王を討伐する事は出来ないと判断した人々は、かの魔王を討伐ではなく封印する事にした。
その時世界にあった娯楽を一カ所に集める事で、魔王ユギーをその場所に誘導。
そして娯楽を爆破して、呆然自失して弱体化している魔王ユギーを、当時の人々は封印したのである。
その際に使われたと言われているのが古代兵器『ウイッシュ』。
「そして『王国歴史全集』には、その古代兵器『ウイッシュ』の事も記されています」
----古代兵器『ウイッシュ』。
----かの兵器は強力な封印性能を持つが、古代人が悪用できないようにすべく、大勢の人々の気持ちを1つにしなければ出来ない集団発動装置にした。
『王国歴史全集』には、そのように書かれている。
そして、これこそが"理由"----研鑽の神アカデミアが存在しない、そして研鑽のアカデミアの正体である。
「研鑽の神アカデミアとは、魔王ユギーを封印するために必要となったこの古代兵器『ウイッシュ』を作動するために、そのために人々の心を1つにするために作られた架空の神である」
 




