第45話 商売の基本は相手に考えさせないこと配信
商売の基本は、"相手に考えさせないこと"である。
値段で、考えさせない。
趣味に合わないなんて、考えさせない。
後悔するかもなんて、考えさせない。
その時買う事が、もっとも良い事だと、相手に思わせる。
それこそが、商売である。
『----という訳で、我がシュンカトウ共和国は、あなたの指導を行う事こそ、もっとも良い。そういう考えに行きつきました。なので、あなたの道場を建てる事になったのです』
いっ、意味が分からない……!!
どうも、シュンカトウ共和国の国家プロジェクトという、なんだか大規模すぎて意味不明な事に抗議している最中の、ススリアです。
現在はその国家プロジェクト発案者にして、プロジェクトリーダーである人と交渉中です。
交渉相手の名は、【ネゴシィ】。
シュンカトウ共和国の騎士団長を勤める人物らしく、うちの姫様の成長具合の凄さから、この国家プロジェクトを発案したらしい。
灰色の髪をポニーテールかと思うくらいに伸ばした壮年のおっさんみたいな、優男みたいな顔をしている。
なのに、言っている事は、『我が国が強くなるには、あなたが必要!』という強い一点のみ……。
というか----国力増強を、他国の錬金術師に託さないでくれますかね?
『あなた様の力で、うちの姫様はとても強くなられた。その手腕を、是非ともうちの兵士達にも振るって欲しいのです』
「振るいたくないのですよ。本当はあなた達の姫様にも」
というか、そんなに強くなりたいなら、自分達の国でやってくれない?
配信っていう、距離関係なく情報を伝達できる文明があるのだから、姫様に頼んで教えて貰えば良いじゃん。
わざわざ、うちの近くに道場を作る意味がまるで分からん。
「この木材の山は、持って帰ってください。道場を作るならそっちの国で、そして師匠役は姫様に配信でやって貰えば良いのでは?」
そうだ、それが定石だ。
わざわざ、うちで作ろうとするから、おかしくなるのだ。
私はそう思って、提案したのだが----ネゴシィの反応は、違った。
『確かに、その方が良いのだろう。それが、国家としては最適解に違いない』
「だったら、その最適解で----」
『----しかしその法案では、私達が何も考えていない』
「えっ……? 考えていない?」
さっき、商売の基本は"相手に考えさせないこと"とか言ってませんでしたっけ?
そんな人が、「考えていない」って指摘するの……?
『そうだ、商売の基本は相手に値段や趣味嗜好など関係なく、考えてもらうことなく、直感で、その商品を良いモノとして思ってもらう事が理想である。
----だがしかし、商売を行う者が、同じように何も考えないのはいけない。相手に考えさせないためには、それではダメだ。相手に考えさせないように、商売人こそが考えに考え抜いて、相手に考えさせないように考え尽くして最善を尽くすのだ』
良い心構えだとは、思う。
だけど、それで私に頼るのは違うんじゃないかな?
『シュンカトウ共和国は、商売の国。だがしかし、国を名乗る以上は、国防もきちんとしておかなければならない』
「いや、だからって……」
『----そして、私の眼はこう言っている』
----あなたの指導こそが、我が国の兵士を成長させる、最適解である。
照れもせず、ネゴシィはそう言い切っていた。
『道場を作る資金や材料は、こちらで用意する。兵士達の指導も、毎日行かなくても良い。
----ただ近くに、頼れる師匠がいる道場。そういう感覚で作っているのだから』
その後も、ネゴシィは私に色々と告げて来る。
----基本的には、シュンカトウ共和国外にある訓練施設という名目。
----兵士達の訓練所として活動し、ススリアの出番は10日に1回程度。
----兵士達が直接聞きに行くなどはなし。必ずフランシア姫が間に入る。
----道場の使用料として、兵士達はデルタとの狩りに同行、あるいは同様の行為を行い、素材を集める。
----錬金術師をシュンカトウ共和国から派遣し、商品の作成を手伝う。
まぁ、他にも私に有利な条件を提示されまくって、「これで、どうして文句があるんでしょうか?」状態にされてしまった。
逆に「他に条件があるなら、どうぞ」という始末で、私はそのまま押し切られるようにして、道場建設、そして道場の名誉師匠という不名誉な肩書きを手に入れてしまったのだった。
……前々から思ってたけど、私って、押しに弱いな。
いや、だって無理でしょ!
既に工事とか始まってて、私が中止を申し込みに行った時には、既に半分以上建設が終わってるんだから。
あの段階で中止と言えない、私の精神の弱さが原因だよ……。
そうこうしているうちに、教会とのリモート会議配信の日も近付いていた。
「(せめて……せめて、こっちは私がいっぱい言いまくってやる!)」
そう思って、会議配信を始めたところ----
「なっ、なにこれ?!」
----画面いっぱいに映し出される、教会の人達の土下座姿に、私は度肝を抜かされるのでした。
 




