第44話 教会と私に激震走っちゃうぞ配信
カーラ法皇の名において、教会の各支部にすぐさま情報が伝達された。
その理由は、教会の各支部に『配信器材』があったからだ。
それらは、魔王ユギーに関するモノを監視する委員会、通称『娯楽取り締まり委員会』が、配信で魔王ユギー復活に繋がる兆候がないかを監視するために、各支部に置かれたモノだった。
しかしながら、いま現在まで、配信器材はあれども、それは配信を監視するために用いられるだけで、今回のように各支部に速やかに情報を通達、伝達するために用いられたのは、これが初めてであった。
『『教会の諸君、我々が天使である』』
はじめて使った、通信機能で映しだされた、”天使”という神々しい姿。
教会の各支部はその光景に涙し、この光景を見られたことを配信器材に感謝する者さえ居た。
『私の名は、サラダ。君達に我が主、つまりは神から伝達がある』
『私の名は、ラード。神は仰っておられる。カーラ法皇、そして我らを召喚せし聖職者タメリックの指示に従って、次の行動をせよ』
天使の言葉、それはすなわち神の言葉。
配信を見る人々は、その天使の言葉を一言一句、聞き逃さないべく、緊張しきっていた。
そして、2人の天使は告げた。
『『----配信者『あるけみぃ』。かの配信者と配信器材を用いた会議をせよ。これは我が教会の教えを揺るがす、重要な行為である!』』
こうして、教会に絶対に関わりたくなかった、錬金術師ススリア。
彼女の配信者としての名前が、教会の人々に強く認知されてしまったのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「----こちら、追加分の"魔導式泡立て器"になります」
教会でそんな扱いになっているなんて露知らず、私はいつものように日常を過ごしていた。
今日は、ドラスト商会のスコティッシュさんからの頼みで、魔導式泡立て器----つまりは、電気の代わりに魔力で動く泡だて器の納品日である。
「魔導式泡立て器10箱、合計1000個。つつがなく、完了済みです」
「ありがとうございます、ニャア! こちら、代金になりますです、ニャア!」
----ずっしり!!
辺境イスウッドでは到底使いきれないほどの、金貨いっぱいの袋を受け取りつつ。
私は、スコティッシュさんが1000個の魔導式泡立て器が入った箱を、ドラゴンに詰め込んでいるのを見ていた。
----テキパキと箱を詰め込みつつ。
----"それまでに運んでいた大量の木材を下ろす様子も"。
「しっかし、1000個も1人で納品できるだなんて、凄いです、ニャア! 工場でも建てようかと思っていたのに、それは必要なかったです、ニャアね」
「自分が作れる限界は、知っているので大丈夫です。まぁ、ちょっときついのは確かですけど」
「おぉっ、限界を言わなかったのは良い判断だと思います、ニャア! 言ってしまうと、その9割くらいなら大丈夫ですと、盟主様に報告する所だった、ニャア」
「ニャハハ!」と豪快に笑いながら、スコティッシュさんは嬉しそうだった。
なんでも、私が作る魔導式泡立て器は、シュンカトウ共和国だけではなく、各国で大人気らしい。
なので1人で作るには、明らかに手が足りない。
そのため、魔導式泡立て器は私が、魔導式ではないただの泡立て器は作り方などをドラスト商会などで買い取って、工場で委託するという形を取っている。
工場で大量生産した泡立て器は、家庭でもお手軽な値段として販売しており、ベータちゃんの配信のおかげで生産が間に合わないくらい、売れているのだそう。
そして私の魔導式泡立て器は、普通の泡立て器では出せないキメや細かさなどが出せるように改良しており、今ではレストランなどで必要不可欠な代物になっているらしい。
魔導式泡立て器は現在、多少高くても売れる魔道具になっているらしく、いまドラスト商会は、めちゃくちゃ忙しい繁忙期なのだそうだ。
「仕事ってのは、寂しがり屋です、ニャア。仕事がある所に、仕事はやって来る……つまり、いっぱい仕事をしているところに、大口契約は舞い込んでくるのです、ニャア!」
「楽しそうだね……」
まぁ、私は忙しくない方が嬉しい派なんですが。
こんな大金もらっても、使う所がないので……まぁ、最近はスコティッシュさんのカタログとかで、使う機会がないって訳でもないけど。
「ところで、その木材は何用ですか?」
私はドラゴン達がバッタバッタと置いて行く、木材に注目する。
とっても良い木材で、確かこれはシュンカトウ共和国にしかない高級品だったはずだ。
防水性、防火性にも優れているが、この木材が持つ真の特性は----『修復性』。
周囲の魔力を吸い取って、どんな傷がつこうが一定時間で直るという、そういう修復性が売りの木材だ。
けっこういい値段をする、そんな木材が、私の目の前で山のように積み上がって行く。
私がいま貰った金貨の袋、それを何十、いや何百と積み上げても買えない代物だ。
「私、こんな木材を買った覚えはないんですけど?」
「あぁ、大丈夫です、ニャア。これは、こちらのお金で買っているので」
いや、大丈夫じゃない具合が上がったんですが?
なんで、そんなモノをここに山のように積み上げていくのか、疑問が積み上がって行くんだけど。
「実はこれは、シュンカトウ共和国の国家プロジェクト----」
「国家プロジェクトは、自分達の国内でやってください」
「そう! 錬金術師ススリアさんが教える、道場を作るという、国家プロジェクトなのです、ニャア!!」
いや、知らないんだけど……勝手に、国家プロジェクトに私を巻き込まないでくれない?
「ススリアさん、あなたはうちの姫様----フランシアさんの師匠である事は知っているか、ニャア?」
「知ってるも何も、今日も指導してきたところですよ」
毎日のようにフランシアさんとは(無理やり)修行に付き合わされている。
今朝に至っては、彼女は体中剣に『自動反撃』の片りんを見せ始めたところだ。
まぁ、無理やり修行に付き合わされているという点では、もう1人の弟子を名乗るタラタちゃんも、同じだけど。
「そう、うちの姫様は順調に強くなられている、ニャア! それはもう、多分王宮に1人で居ようとも、暗殺者の集団相手でも生き残れるくらいに!」
「強いなら、強いで良いじゃない」
弱いよりも、強い方が良い。
強すぎて、嫁の貰い手が心配という話なら、盟主様の娘というお姫様なら引く手あまただろう。
もしくは、それこそ文句があるなら、彼女に直接言って欲しい。
「そう、強い! 強すぎるから、いけない!」
「……はい?」
えっ、どういう事?
「兵士が強くなれば、兵士が守る貴族や王族などを守る力が付く! それなら良い!
しかし、お姫様が強くなるとまずい! それでは、兵士がいる意味がなくなる!」
あー、察した。
なるほど、姫様が強すぎれば、周りにいる兵士が弱すぎて、立つ瀬がない。
守るべき相手よりも兵士が弱すぎてしまうと、兵士が居る意味がないという事ね。
「という訳で、今回、盟主様に頼まれました案件は、そんな姫様と同等くらいに兵士達を強くするための道場! それを作る許可を得て来いと、私は頼まれたのです!」
「うん、それなら山を作る前に相談して欲しいな」
断り辛いじゃん……どうするのよ、この高級木材の山。
というか、もしかして私が受けようと、受けまいと、建てるつもりで置いているんじゃないでしょうね、これ?
「いや、断るよ。私、弟子とか居ないのんびりスローライフを送りたい勢なんだから」
「そう来ると思っていました。しかしお姫様を弟子入りするために頼み込んだり、盟主様の欲しい品を買い取っていただくのとは、はっきり言って問題の大きさが違います」
「という訳で、共和国の皆様とリモート会議配信、しませんか? ススリアさん?」
いや、なんでそうなる?




