第419話 VIPルームは見せられない非配信
肉料理大会――――司会の人の「入場!」という叫び声と共に、モニターに選手の紹介映像が流れ、それに合わせて選手が1人ずつ、会場内の試合会場へと入って行く。
その様子を私は、特別観客席とやらで見守っていた。ちなみに、ガンマちゃんはと言うと、「一般観客席で見てこそ、正しい評価が出来る!」とこちらに来る事は拒否された。確かに、ここだと客観的な評価は出来そうにないと思うので、私は商人シエムと合流して向こうで見る事を許可して、1人で入る。
部屋の中には既に、ジュールとワットの2人が待っていた。どうやらこの部屋は私達3人だけの特別製みたいだ。贅沢な仕様である。
ここは、いわゆるVIPルームという所であり、一部の選ばれた観客のみが入れており、なおかつ試合会場からはこの中は見れないというマジックミラーを採用している。
マジックミラーとは、明るい側からは鏡のようになっていて何も見えないが、暗いこちら側からは向こうが丸見えという用途に使われている、前世の知識にもあった特殊な鏡の事。まぁ、私が作り出す以前に、こちらの世界には魔法、魔道具によって既に実現されていたんだけれども。
そんな所で、ジュールとワットの2人は――――
「「あぁ、美味しい~」」
すごくゆったりとした表情で、ベータちゃんが作ってくれたお味噌汁を飲んでいた。ちなみにベータちゃんからはお味噌汁の他にも、焼き魚や味噌煮、貝の酒蒸しなどもある。
これらの海産料理はイプシロンちゃんの養殖によって出来たモノを使っており、「ハーハッハハ! 作りすぎ、それもまた良し!」と開き直っていたイプシロンちゃんから無償提供たモノをベータちゃんの手で美味しく調理されている。それを2人に提供しているという訳だ。いくらベータちゃんの料理が美味しいとは言っても、海産料理ばかりだと飽きちゃうから。
そこに居るのは、ラーメン店を店長として統率する大将ではなく、単に美味しいお味噌汁を飲んでゆったりしているジュールちゃんであった。
そこに居るのは、洋食店の店長として多くの料理を秒単位で完璧に仕上げる店主ではなく、単に私が箸で掴んだ食材をもぐもぐと食べる雛鳥のようなワットちゃんであった。
つまり、2人とも凄く緩んだ表情で、過ごしていた。ここが会場からは見えてなくて良かった、もし見れていたら皆が、こんな2人の姿を見て幻滅していたに違いない。こんなだらけ切った、2人の店主の姿を見たら、だ。
そもそも、この肉料理大会において、戦っているのはこの2人の一番弟子を中心とした2チームなのだ。対立している2人のチーム、その師匠がお互いに食べさせ合いっこしている姿は見せられない。
「(だから、このVIPルームという名の部屋で隔離している訳なんだけどね)」
ちなみに、このアイデアは私ではなく、スワロウ商工組合が考えた事なんだけど、ズバリ正解だと思う。
「そっちのレガリスって娘むしゃむしゃ、うちのチャイナドレスを着たらむしゃむしゃ、人気が取れそうアルむしゃむしゃ」
「むしゃむしゃアオギって子は、むしゃむしゃスムーズに運んでいて、むしゃむしゃ私はそっちの方が良いかもしれない、むしゃむしゃあるいは悪いのかもしれないむしゃむしゃ」
「2人とも、食べるか喋るか、どちらかにしたら?」
私がそう指摘すると、2人はお互いに顔を見つめ合って
「「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ――――」」
「あぁ、食事を選択したのね」
ただ一心不乱に、私が用意した海産料理を食べる2人。食べながらも、「これはラーメンの出汁に使えそう」「この魚はスープに? いや食感を大事にすると――――」など、2人とも本当に経営者らしい視点を交えつつ、食べていた。こういう場面なら映しても良いかもしれないが。
そんな事を考えているうちに、5人ずつ、計10人の料理人という代表選手の紹介が終わり、司会の人によって1回戦のお題が発表される。
「1回戦のお題は、確か――――"毎日食べても飽きない味"でしたか」
お肉料理に限らず、どの料理も大抵毎日続くと飽きて来る。そこをお客様の手によって味変したり出来るようにして、毎日食べても飽きさせない味にするのが、料理をお店として提供する者としての解答の一例ではあるが、果たしてこの2チームはどういう解答を出してくれるのだろうか?
同じ料理を出し続けるという点では、ラーメンを主軸に行っているジュール店の方が強そうな気がする。ワット店は、あくまでも洋食という幅広いジャンルで多くのメニューの中から選ぶスタイルだからね。
まぁ、この肉料理大会は先に2回勝利とかではなく、3回戦全てやるパターンだから、最悪この1回戦は捨てて、それどころか3回戦以外すべて捨てるという考え方もあるけれどもね。
とりあえず、お手並み拝見と参りましょうか。うん。
マジックミラーは、現実にもある概念
暗い方からは見えるけど、明るい方からは鏡のようにしか見えない
なので魔道具としては、魔術付与なしでも再現できます
魔道具としては、「一方向からしか見えない」という
そういう代物になっております(*^▽^*)




