第412話 2つの喧嘩しがちな料理店配信(2)
~~ワット店 レガリス~~
本質というモノは、得てして、単純なモノである。
鳥は翼を持って空を飛ぶように、魚がヒレを使って川を泳ぐように、妾が働く店の店主、ワットさんを作ったという錬金術師ススリアが語った「料理経営における極意」というのも、至極単純なモノであった。
――――株分け。
「料理経営における極意」というのを、ジュールとワットの2人に対して、ススリアはそう語った。
彼女が言うには、どれだけ2人が優秀であったとしても、全てのお客様に料理を提供するのは、時間的にも、スペース的にも不可能である。だからこそ、"自分の意思を継ぐ二代目"を作るのが、料理経営における極意であると、ススリアはそう語った。
それを聞いて、ジュールとワットの2人の反応はと言うと、キョトンとしていた。
当たり前である。いくら2人が、自分の作成者であるススリアの事を信頼しているとは言っても、妄信している訳ではない。そんな事、誰もが知っていた。
妾だってそう思って、師匠が経営する洋食料理店に、弟子になりたいと直談判していた。
たとえ師匠がワットというゴーレムであり、寿命なんかない存在だとしても、彼女の料理の腕は自分達の手で広めたいと思った。彼女の料理を、妾達の手で再現して、多くの人に広めたい。
だからこそ、妾は彼女の弟子になったのだから。
「はいそこ。そういう思考、良くないよ」
そんな妾の想いに水を差すかのように、ススリアはそう言った。実際には、「私は、大将の味を再現して、多くの人に広めたいのです!」と言っていた、向こうの店のアオギにであったが。
「ジュールちゃんの料理は凄い。ワットちゃんの料理は凄い。だけれども、弟子だからと言って、全てを再現する必要はない。2号店に、本店の味を引き継ぐ店を出す必要はないのだよ」
ススリアはそう、妾とアオギの夢を――――2号店を作るという夢を、一瞬にして破壊した。
「ジュールちゃんには、ジュールちゃんの良さがある。ワットちゃんには、ワットちゃんの良さがある。
――――だったら、一番弟子の君達にも、君達にしか出せない良さがある」
ススリアは、妾、そしてアオギを見ながらそう言った。
「ラーメン店のジュールちゃんの弟子たちに、私から敢えて言いましょう。こってりラーメン専門店にしても良い。魚介ラーメン専門店にしても良い。なんなら、サイドメニューの餃子専門店にしても良い。
洋食店のワットちゃんの弟子たちに、またまた私から敢えて伝えましょう。全ての洋食を作らなくても良い。1種類に絞っても良い。高級路線に変えても良い。なんなら、コース料理のお店にしても良い。
大切なのは、ジュールちゃん、そしてワットちゃんの店に入った時の感動。その料理を美味しいと思った時の興奮を、自分達も料理を作りたいと思った情熱を、皆に伝えられる立場になって欲しい。
そのためには、二番煎じではダメでしょ。弟子である自分達が店長になるのなら、なんなら師匠である2人に負けないお店を目指しましょう。その準備を、2人はしているはずです」
妾は、ハッとした。
自分達が、師匠のお店を良くするために行っていた、新メニューの開発。あれを丸々、さっきススリアが語っていた『自分達のためのお店』のメニューに使えば良いじゃないか。
しかし、それと同時に、それは裏切りだと思った。
師匠から技術を盗むだけ盗んでおいて、その技術を使って自分達が荒稼ぎするのは違うじゃないかと。
アオギも、「大将には世話になってる恩があります。それを裏切る事は出来ません」と、妾が思っていた通りの事を、ススリアにぶつけていた。
「そりゃあもちろん、自分達の店を持つためだけに、仕事をするのはいけない事だよ。あくまでもそれは夢であって、仕事中はきちんとお店のために働かないとね。
大切なのは、いつまでも2人のお店で働き続ける、しがみついてはいけないという事。弟子と言うのは、いつか立派な姿となって、独り立ちして、立派に働いている姿を見せないとね」
ススリアの考え方は、妾達商人にはない考え方であった。
妾達商人にとって、商売と言うのは、勿論お客様第一ではあるが、同時にお店を大きくするというのも大事であった。小さなお店には小さなお店なりの良さがあるとは思うが、多くのお客様に接する事は出来ないから。
だから、商会の代表となった後は、その技術を子飼いの商人に伝え、2号店、3号店と、チェーン展開していくのが通常の商売人としての、シュンカトウ共和国の商人としての考え方である。
一方で、ススリアの考え方は、業界全体を見ておる。
洋食店である師匠の店を増やして、洋食業界の一大巨塔になるのではなく、あくまでも洋食というジャンルを取り扱っている店が増える事を優先している。チェーン展開と違って規模は小さくなるが、ジャンルを増やすという取り組みは、業界全体からしてみれば、色々な視点で作られた洋食を食べられるという事となり、お客様の喜びにも繋がって来る。
「(凄いのぅ、ススリア殿は)」
流石は、師匠を作った錬金術師であると感心している最中、ススリア殿は妾、そしてアオギにこう伝えた。
「だからまずは、ジュールちゃんのお店の一番弟子であるアオギくん。それとワットちゃんのお店の一番弟子であるレガリスさん。
2人で、料理対決を開いてみないかい?」
(※)シュンカトウ共和国商売人としての考え方
自分のお店こそ、最高
だからこそ、自分達のお店を増やそう
自分達以外のお店は取引先か、敵!!
(※)ススリアの考え方
自分達のお店に感動、してくれたら嬉しい
その想いを持って、新たな店が増えてくれたら嬉しい
自分達以外のお店は取引先か、自分達と同じモノに感動して店を開いた同胞
シュンカトウ共和国としては、
商店を大きくするのが普通のこと
一方で、ススリアとしては、
商売業界が広まればそれで良いという事です
ススリアは商売人ではなく、錬金術師ですからね(*^▽^*)




