第408話 催し物ならスワロウ商工組合配信
「今日は、いきなりの訪問をお許しください、ニャア。どうしても、この料理大会を成功させるためには、ススリアさんの協力が必要不可欠なの、ニャア!」
フルーレティのための素体を作っていた、翌日。
ドラスト商会の商人であるスコティッシュさんが、料理大会を開くための協力を要請してきた。
「うちのジュールちゃんと、ワットちゃんの対決をするための料理大会を開きたい、ですか」
「えぇ、そうです。大会の運営はこの私、【スワロウ商工組合】の【エコロ】にお任せくださいませ。必ずや、お2人の対決を、商売として成功させて見せます」
うちに来たのは、スコティッシュさんだけではない。彼女が連れて来たのは、白いスーツ姿のイルカであった。
イルカの魚人族であるエコロと名乗るこの人物は、ジュールちゃんとワットちゃん、2人の料理対決の全てを取り仕切る【スワロウ商工組合】の商人さんなのだそうだ。
ドラスト商会が、ドラゴン。ハンドラ商会が、虎と来て、その次はスワロウ商工組合。燕の"swallow"ですか。
確か、燕の英語である"swallow"には、嚥下、つまりは何かを飲み込むというのが由来とされているが、私の大切なジュールちゃんとワットちゃんでお金稼ぎをしようと思っているという事?
あの2人は、ドラスト商会の食堂を立て直すために依頼されたため、作ったゴーレムだ。そのゴーレム2人が、別の用途で、しかも別のスワロウ商工組合とやらのお金稼ぎをするために、大会という見世物に駆り出されるのでしたら、作者としては断固拒否するんですが? こちらは何の会社も、工房にも入っていないから、自分の意思だけで拒否する事も出来るんですけれども?
「まっ、待って欲しい、ニャア! なにも、このエコロは、2人を見せ物にするつもりはない、ニャアよ!」
私が凄い顔をしていたのか、それとも何か武器を持ちだして脅そうとしていたのかは分からないが、焦った様子で、仲介役のスコティッシュさんが止めに入る。
「スワロウ商工組合は、こういう催し物があった際に運営を一手に引き受けてくれるベテラン! だからこそ、2人の対決を一番、美しく魅せられるのはここだと思って、来て貰っただけ、ニャア!」
「すっ、すいません! 言葉が正しく伝わってないようです! "商売として成功して見せる"というのは、大盛り上がりにしてみせるという表現です! お2人の対決を企画されたため、私達はその対決を多くの人に見てもらいたい! ただ、それだけです!」
2人の言い分によると、初めはお客様からの、素朴な疑問だったのだそうだ。
――――ジュールと、ワット。どちらが料理人として優れているのか、知りたい。
当然ながら、2人とも、そんな事はどうでも良い問題として処理していた。
ラーメン至上主義のジュール、様々な洋食料理を振舞うワット。どちらが上か下か以前に、2人とも争うジャンルがあまりにも違いすぎるため、勝負にならなかったのだ。
結果として、"どちらも良い"。それが2人の、そしてお客様達の共通認識だったそうだ。
「私達スワロウ商工組合としても、世間の声が"どちらも良い"という時点では、大会を開こうとは思いませんでした。どちらが勝っても、どちらかが傷つくだけ、もしくは大会の結果に納得できないからと、運営したこちらに問題が行くだけ。勝った方が得をしないのだったら、大会なんか開くべきではない、と」
「けど、今は、勝敗を付けた方が良い事情が出来た。そういう事?」
「そうです、ニャア! 2人とも、勝負できる料理が見つかったの、ニャア!」
……そんな料理、あったかな?
中華と、洋食。
似て非なるこの2つで、お客様が納得できるような、勝負が出来る料理なんて、あったでしょうか?
「それが、オムライスです!」
エコロは、そう強く宣言したのである。
「――――え? オムライス? オムライスって、あの卵で包む?」
「はい! 2つの料理店で共通して載っているメニュー! それが、オムライスなんです!」
……おかしいな。オムライスって、私の中では、完全に洋食のイメージなんだけど。
もしかして、過去の配信でより分けている際に、『町中華には、絶品のオムライスがある』という動画を見た覚えがある。その動画を【アルファ・ゴーレムサポートシステム】が『オムライス=中華』として認識されてしまったとか?
……十分、あり得るな。
「だからこそ、今ならば十分に、大会運営をしても、お客様に納得できるだけの対決が出来ると確信しているのです! 共通テーマは"オムライス"! それを『毎日食べても飽きない味』、『特別な日に食べる味』、『今までにない新概念のオムライス』というテーマで、戦いましょうという話です!」
「いかがでしょう!」と、まるで決定事項のようにエコロは伝えて来る。スコティッシュさんの表情も、それで行くつもりが伝わってきている。
だからこそ私は、スコティッシュさんにこう提案した。
「……スコティッシュさん。一度、ジュールに会わせてくれませんか?」
(※)スワロウ商工組合
シュンカトウ共和国にある、"休憩する燕"を紋章として掲げる、催し物運営を専門にやっている商工組合。主な利益としては、大会の協賛スポンサーや、大会内の出店の土地代・借地料などで利益を上げている
大きな催し物があった際に、その大会の準備、運営、撤収を一気に引き受ける、催し物開催のスペシャリスト企業。『催し物を企画したい際はスワロウ商工組合に任せれば、全て解決する』と言われるほど、業界内での信頼度は高い
企業理念は、"開催して、皆が幸せになるか"。大会などの場合、勝敗がついても勝った側にメリットがない以上は、どれだけのお金を積まれようが絶対にやらないという事を誇りにしている
商会の中には、大会運営などを専門に行う
そういう商工組合があっても、変ではないと思います
燕の英単語であるスワローという言葉、
「座ろう」に聞こえて、面白いですよね(^o^)/
 




