第406話 実りの秋、ジュールとワット配信
ジュールと、ワット。
2人はそれぞれ、商売の国シュンカトウ共和国のドラスト商会が導入した、料理店経営を基本として開発された料理店経営型ゴーレムである。
――――『ラーメン業務特化型アルファ・ゴーレムサポートシステム搭載型ゴーレム・モード"仕事"』、通称ジュール。
「安い・早い・美味しい」がコンセプトである、健康状態を確認してお客様に最適化したラーメンを提供する仕事重視の料理人であり、中華料理専門のゴーレム。
安定感重視のための4本足とチャイナドレスが特徴的な、看板娘。
――――『料理業務型アルファ・ゴーレムサポートシステム搭載型ゴーレム・モード"仕事率"』、通称ワット。
「○○です。〇〇ではない」という特徴的な喋り方をする、ゲンエインジウムを使った効率重視の料理人であり、洋食料理専門のゴーレム。
顔の左半分を藍色の髪で隠したセーラー服の少女のような姿をした、看板娘。
2人の店主は、同じドラスト商会に納品され、そして2人とも料理店経営を基にしているため、互いに刺激し合う良いライバルとして切磋琢磨してきた。
しかしそれは、あくまでも料理店としての工夫だ。
料理の提供スピード向上のための工夫、毎日綺麗なお店を維持するための工夫、お客様が料理を飽きないようにするための工夫など、料理の味とかではなく、あくまでも料理店として、さらに良いモノをお客様に提供しようと、2人は時には話し合い、時には相手を出し抜こうとしながら、切磋琢磨してきた。
だがしかし、こと料理に至っては、2人は争わなかった。
何故なら、2人とも戦うジャンルが違うのだから。
中華と、洋食。
至高の究極ラーメンを追い続けるジュールと、様々な料理でお客様を楽しませるワット。
2人は料理に関しては、完全に別ジャンルだと考えていたため、そこに関しては互いにライバルであると意識した事はなかった。
――――そう、この日までは。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
――――秋。
それは実りの季節。夏の暑さから得たエネルギーを、豊潤なる実りとして蓄えた食物が大量に収穫できる季節。
そして、それは商売の国シュンカトウ共和国にとっては、まさしく"書き入れ時"の繁忙期である。
普段から商売のために忙しく働いているこの国でも、秋の季節は特に忙しいのだ。
そんな彼らが求めるのは、"栄養"である。
サッと食べられて、なおかつ腹に溜まる、そういうスピーディー&パワフルな料理を求めていた。
当然ながら、そういう秋の季節にぴったりな料理店は、どちらかと言えばジュールの、中華料理店スタイルであり、ジュールの店には連日大盛況の、満員御礼状態であった。
お客様の栄養状態を把握する特殊な魔道具の瞳を持つジュールも、この書き入れ時の理由を把握していたため、普段よりもエネルギー満点の料理が提供できるように、配慮して料理を提供していた。
――――ラーメン大盛り、今だけ無料。
その言葉を魅力に感じた者達が、ラーメンを中心に提供を頼み、ジュールはそれを快く受け入れる。
ジュールも、お客様も、どちらも素晴らしい関係で、ジュールの店には幸せが溢れていた。
「(そうアルよ! これこそ、私が求めていた光景ネ!)」
皆が幸せそうに、自分の作ったラーメンを食べる。それ以上に、幸せな光景なんてない。
それに、ラーメン大盛りを無料にしたのだって、この秋という季節のみ収穫できる倍々小麦なる、小麦粉にした場合通常の小麦の倍の量になる特殊小麦を使っての宣伝。さほど、経営的に苦しくはなかった。
ジュールは嬉しそうに、次のお客様のための料理を作ろうとして――――
「え? これ、ですか?」
その注文に、面食らってしまう。
何故ならその注文はラーメンじゃなかったから。一応、ラーメン屋さんとして運営しているジュールであるが、彼女が代表として尊敬しているススリアから『餃子』や『春巻き』、『炒飯』など、ラーメン料理店、もとい中華料理店では定番メニューもおく事を提案されているため、一応メニューとしては載せている。載せてはいるが、ラーメン愛に溢れすぎているジュールとしては、ラーメン以外の注文は、あまり聞きたくはなかった。
「(けれども、これもお客様のため! そう、将来の顧客、もとい未来のラーメンユーザーのためなら!)」
ただラーメン以外の注文が入っただけなのに、凄く大きな覚悟を決めたジュールは、早速、調理に取り掛かる。
玉ねぎ、豚肉、お米……一般的に炒飯を作る材料として用いられるそれらの材料を、一気にフライパンで炒めると、そこに"ケチャップを投入。
ケチャップの水分を飛ばすように、お米などと絡ませながら、しっかりと焼く。炒め終えたら、中華だしを入れ、サッと炒めてお皿に盛りつける。
その上に、別のフライパンにて、卵を使って作ったモノを載せて、スーッと包丁で切れ目を入れ、最後にケチャップで波線模様を描いて、
「はい、ジュール特製オムライス! いっちょ、あがりアル!」
このオムライスが、ジュールとワットを戦わせるきっかけになるとは、その時は誰も思わなかった――――。
町中華に売っているオムライスって、
洋食店に売っているオムライスとはまた別の美味しさがありますし、
もはや、洋食とは別物と言っても良いですよね
だから、また別の料理と言っても
中華と言っても良いはず!!
いや、そうはならんやろ(>_<)




