第391話 配信者と共に殺人事件調査配信(1)
山村であるクリィム村で、人が死ぬのは良くある事だ。
病気だったり、転んでそのままぽっくりとなんてのも良くあるし、魔物に襲われてそのままなんてのも良くある。死が身近になっていると言っても過言ではないくらい。
しかし、その日、皆の前に現れた死体は、異様としか言いようがなかった。
「被害者はこの村の住人。子供達が遊ぶ川岸で発見された左半分のみの死体。その後、付近の捜索を行った際に残りの死体は見つからず、それから12時間後に、その住人の家の床下から残りの右半分の死体が見つかる。
----う~ん! 実に謎メックしていますなぁ!」
状況を端的にまとめたのは、推理系配信者の【ナゾメイク】という、コート姿の獣人族少女。謎めいた場所に行ってその謎を解き明かす配信と、ためになる女性向けのメイクアップ講座という、2つの大きな柱を持っている、話題の配信者である。ちなみに、イータちゃんのホテル・イスウッドの宿泊客にも居た人物だ。
「被害者は、この村で金貸しを行っている男性【イラキ】さん。正直、きな臭い噂まみれで、村からの評判はあまり良くないようですなぁ~。借金の取り立ても頻繁に行っており、払えなかったら奴隷のようにこき使われる事が盛んだったようで」
ナゾメイクの言葉に、集まっていた村人たちはいっせいに口を紡ぐ。
イラキは金貸しとして、嫌われていた。借金をしている人にとっては死んでほしいと思っていただろうし、借金関係としての付き合いはなくても横柄な態度で接する彼を嫌っていた人物は多い。
彼に死んでほしいと思っている犯人候補、被疑者は多いと言っても過言ではない。
「あんたは、どうなんだ?」
と、私----神社取材系カップル配信者として潜入中のススリアは、探偵気取りで話を進めるナゾメイクに、そう声をかける。神社取材系カップル配信者として、地道に神社とのコネを作っていた3日目に、このような事件に巻き込まれ、正直迷惑している。
せっかく、神社側から「ほんの少しくらいなら」と、譲歩を勝ち取って、さぁ今から取材だと張り切っていた所なのに!
「師匠、落ち着いてください。あの人は、自ら探偵役を引き受けているんですよ? 犯人な訳がないじゃないですか」
「……そういう風に見せかけて、実は別の人物を犯人だと名指しして混乱させるタイプの犯罪者だったらどうする?」
私のその言葉に、ナゾメイクも、そして周りの人達も「言われてみれば……」と私の言葉に乗ってくれていた。
そう、この事件は明らかに、人の手、それも事件を使って人々を困惑させたいという犯人の意図が明確に詰まっている。
左半分と右半分に、綺麗に半分に分けたのもそうだし、片方はその殺した相手の家の床下に埋めるというのも、どこか狂気じみていている。普通に雑に切って、魔物の仕業かなにかだと思わせた方が、犯人だとバレない確率が高いのに、わざわざこんな風にするなんて、人の仕業であると犯人がわざわざアピールしているようなモノじゃないか。
「それに、床下に死体があるかもと言い出したのも、ナゾメイクさんだったような?」
「ギクッ……! いっ、いや、あれはなんか死体がありそうな雰囲気が出ていたというか、なんというかその……」
----ジトーッと、全員の目がナゾメイクに向く。自分がめちゃくそ疑われていると悟ったナゾメイクは、「私には犯行は無理です!」と苦しい言い訳をしだした。
「この村の住人は、神様に守られています! 他の所から来た人が殺したとなると、神様による神隠しという天罰がくだっているはず! 少なくとも、死体を床下に隠すなんて事は出来ないんじゃないでしょうか!」
私の前世の知識的には苦しすぎる言い訳だと言いたい所ではあるが、このクリィム村に限っては、ナゾメイクの言葉は正しい。
このクリィム村は、神様による神隠しが有名だ。この村を売って更地にしてから別荘地にしようとしたり、あるいは人身売買として奴隷としてさらおうとしたりと、この村に悪さをしようとする者達は皆揃って、神様による神隠しによって消されてしまう。
ナゾメイクの言うように、この村の住人以外の犯行は難しいと言っても良い。
「あのぉ……」
と、そこでおずおずと手をあげたのは、幽霊動画配信者の【テラーテ】という魚人族の成人女性。彼女は心霊スポット、いわゆる幽霊系の魔物が出る場所に行って、ある時は野菜で、またある時は靴を手に持ってなど、変わった方法で幽霊系の魔物を除霊する事を売りにしている配信者である。
「私も調べたんですがぁ……神様って、この村の住人による悪事に関しては、寛容、ですよね」
「うむ、テラーテさんの言う通りだ。100ナゾメイクポイントを差し上げよう」
なんだ、その良く分からないポイント。
「でっ、ですから、住人であるイラキさんは、他の村人さんが嫌がる事をしていても、神隠しに合わなかった訳で。住人であれば守られる、そんな村だからこそ、イラキさんを殺したのが、村人でしかありえないという理屈は分かるんですけど……」
「何が言いたいんですか? 100ナゾメイクポイント、取り上げますよ?」
「でっ、ですから何が言いたいかと言うと……」と、テラーテさんはスッと、ナゾメイクの髪の毛を指差す。
「元村人なら、出来るんじゃないでしょうか……?」
ナゾメイクの髪は、この村の人達、それに魔物達と同じく、真っ白に染まっていた。
アルビノばかりの村で、アルビノの第一発見者
なおかつ探偵とか、めちゃくちゃ怪しいでしょ?
そう思いませんか( ・∇・)




