第377話 【暴力】と【無敵】が話し合うようです配信
~~魔王ユギーの五本槍 暴力のハルファス~~
「おぉ~!! 良い感じ、良い感じ、良い感じですね!」
ホテル・イスウッドの屋上にて、私は皆が権能【暴力犯罪空間】に囚われている様を見て、とても愉悦しいと感じていた。
世界をこの私に相応しい暴力に囚われた世界に染め上げる、【暴力犯罪空間】。
生物は貧相な姿になり、地位や金銭、そういった現代社会における肩書きの一切を消し去り、ただ単に力のみが支配する社会へと変える。昨日までの味方がいきなり信用できない敵となり、さらにモノは反抗して牙をむく。
まさしく、暴力が支配する社会! 力のみが優先される社会!
「人が殴られている様が面白いというのは、古来より明らか! 超古代技術となっている配信が全盛期の時代でも、神に捧げる神事として、裸で殴り合い、相手を蹴落とすモノがあったくらいですからね! 確か、名前は----」
「----相撲だろう、それは」
すっと、扉を開けて、1人の大男がそう回答しながら入って来る。
屈強な筋肉質な身体と、背中から巨大な龍の翼を生やしている大男。そして、背中には大きな荷物袋を背負っており、歴戦の戦士を思わせる佇まいである。
ハルファスはその人物が何者なのか、すぐに分かった。なにせ、顔につけている【無敵】という文字が書かれた仮面ですぐに想像がついた。
「【無敵】……ナタラさんですか?」
「そうだ、【暴力】。お前と同じ、五本槍の1人のナタラさんだ」
「近くまで寄ったから来た」と、軽いノリでナタラはそう語る。
「(無敵のナタラ……魔王ユギーの五本槍の中で最も強く、そして最も謎多き存在。魔王ユギー様の封印される前の全盛期時に、最も多くの敵を倒し、最も多くの信者を集め、そして突如として消えた存在)」
無敵のナタラ。魔王ユギーの五本槍の中でも別格の強さを持ち、その強さで多くの敵を倒して、そしてその強さにて多くの熱狂的な信者を集めた。その上で、魔王ユギーが封印される直前に、姿を消したと言われている。
もし仮に、魔王ユギーが封印される際に、ナタラが居たら、封印されなかったかもしれないと言われるほどキーマンの存在。
そんな彼が、なんで今ここに?
「なぁに、いきなり出て来て驚いてるんだろう。魔王ユギー様が封印される前、俺は魔王ユギー様に頼まれて単独行動してたからな」
「単独行動……?」
「なんだ、身体は魔王ユギー様のモノを使っているのに、記憶は継承されていないのか。それなら、話せないな」
ナタラはそう言うと、背負っていたリュックサックを地面に置くと、リュックサックを開けて中を探し始める。
「えっと、確かここに……あぁ、これだ」
ほいっと、私に向かってモノを投げて来るナタラ。私は思わずキャッチすると、身体の中をどっくんっと、大きく心臓が動くのを感じた。
キャッチしたのは、日本刀であった。刀身には【遊戯】という二文字が刻み込まれており、絶大な力が込められているのを感じた。
「それは昔、魔王ユギー様から預かっていた、魔王様の愛刀だ。魔王ユギー様が復活する気配を感じてここまで来たら、身体だけこの世界に戻って来たのだから渡すかどうかは悩んだが、俺が持っているよりも、ずっとそっちの方が良い」
「魔王様の愛刀……確か、銘は【娯楽刀アカツキ】でしたか」
「あぁ、そうだ。特殊能力はない代わりに、折れず、曲がらず、そして壊れない。武器の消耗を考えずに戦える刀として、魔王様が愛用していたモノだ」
特殊能力がないと、ナタラはそう言ったが、それこそが特殊能力ではないかと、私はそう思う。
刀は、武器と言うのは、消耗品だ。常に切れ味が良い刀なんてモノは存在せず、使用したらきちんとしたアフターメンテナンスを行っていなければ、どんな業物だろうとぽっきりと折れてしまう。武器と言うのは、どれもそういう宿命を背負っている。
そんな中、"折れない"、"曲がらない"、"壊れない"という、一切消耗を気にせずに戦えるというのは、こちらにとっては大きなアドバンテージに他ならない。
「ありがとうございます、大切に使わせていただきます」
「いや、むしろ雑に扱った方が良い。魔王様は、何も気にせず、ただ遊び惚けて使える、使い勝手のいい刀として重宝してたからな。同じ身体なのに、扱いが真逆だとアカツキも混乱するだろう」
「話は終わりだ」と、ナタラはそう言ってリュックサックを閉じて、再び背負う。
もしかして、魔王様が復活したかもしれないと思ってここまで来たって事?
「あの、ナタラさん!」
「なんだい、【暴力】」
「魔王様の復活を感じて、ここまで来たんですよね!」
「まぁ、そうだな。魔王ユギー様の五本槍の1人としては、馳せ参じない訳にはいかないからな。同じ五本槍のカナエマスには、そういう事は期待しない方が良いが」
やっぱり魔王様の復活を感じて、ここまで来たんだ。
だったら、丁度良い! 魔王様は復活した! そう、入っている魂こそこの私だが、身体だけとはいえ、確かにこの世界に帰って来たのだ! 復活したのだ!
「魔王様は復活しました! 魂も、身体がこちらにある以上、復活するのはそう難しくはありません! 身体と魂は惹かれ合う! こちらの世界に身体があるのなら、魂だって、すぐさまこちらへと引き寄せられるはずです!」
「……なるほど。そういう考え方か」
「はい! ですので、このままここで私と、魔王ユギー様の完全復活に向けて協力を----」
その時である。
無粋にも、入り口を蹴破り、私とナタラさんとの話に、邪魔者が現れたのであった。
【無敵のナタラの行動】
・魔王ユギーの懐刀として、常に傍に
↓
・魔王ユギーから、娯楽刀アカツキを預かる
↓
・魔王ユギーの傍を離れる
↓
・魔王ユギーの身体が復活したので様子を見に来る←今ここ
こういう感じになってまーすよ('ω')ノ




