第374話 暴力と犯罪の世界配信(1)
暴力のハルファスによって発動した、【暴力発動空間】。その能力によって、世界は暴力と犯罪に支配された、世紀末の空間となった。
煌びやかな冒険者や兵士といった"職業"を表す豊かさの象徴たるモノは消え失せ、ボロボロの服装となり、得物は全て没収されたのかなくなっていた。【アイテムボックス】の中身もだ。
そして、お客様に誠心誠意尽くしてくれるはずのスタッフ型ゴーレム達は、暴走し、ホウキやら鉄パイプなどを持って、冒険者達を排除しようと動いていた。
冒険者や兵士達は、得物を求めた。普段は素手で戦う者もいるのだが、そんな者達ですら得物を求めた。
それはスタッフ型ゴーレム達の身体がササクレなど棘だらけなので、素手が危険だと本能で理解したからなのか。あるいは、【暴力発動空間】によってそうなるように精神支配を受けたからなのか。
どちらにせよ、彼らは得物を求め、そして地面に突き刺さっている得物を抜いた。
----どっくんっ。
「なっ、なんだこれは?」
「軽い! それに、作りがしっかりしている」
「見かけは、こんなに脆そうなのに」
得物を手にした全員が、感じていた。
得物が身体に馴染む。いつも使っている武器よりも、使いやすそう。それに、なんだか身体が軽い。
いつもよりも、調子が良い。
「「「ヒャッハアアアア!!」」」
「またしても、この空間に支配されましたね」
「デルタさんの、オッシャルトーリ!」
ホテル・イスウッドから少し離れた、丘の上にて。
「ヒャッハアアアア!!」と荒ぶる者達の様子を、冷ややかな視線で見つめているのは、デルタちゃんとダヴィンチちゃんの2人。ゴーレムである彼女達は、【暴力発動空間】の影響で非生物として判断され暴力に一瞬支配されるも、すぐに連携している【アルファ・ゴーレムサポートシステム】によって、元の性格へと戻された。
例えるなら、【暴力発動空間】によって暴力というシステムに支配されるも、その後すぐに【アルファ・ゴーレムサポートシステム】による復旧機能によって上書きされたとでも言うべきか。
「アレイスター、あなたはまだ無理そう?」
「グォォォォォ……」
「そう、まだダメそう」
デルタちゃんは、そうサラッと言い放った。
2人とも【アルファ・ゴーレムサポートシステム】による復旧機能は発動しており、ダヴィンチちゃんはすぐに復旧できた。しかしながら、アレイスターの方は未だに、復旧機能が上手く作用していないらしい。
まぁ、狩りに復旧できたとしても----
「しかし、これは戦えませんね」
「デルタさん、オッシャルトーリ!」
デルタちゃんとダヴィンチちゃんは、揃ってそう表記した。
何故なら2人の身体は、ただの素体。ススリアが丹精込めて作った完成されたボディではない、目と鼻もない素体になっていたからだ。
「非生物の暴力装置として作用するなら、武器はそのままに、敵への殺意はマシマシに。
生物として暴力阻害を目的に動くなら、生物と同じように粗末な身体で、抗え。
恐らくは、そういう空間なんでしょう」
つまりは、ススリア製のゴーレムには、非常に相性が悪い空間。
非生物として戦う場合は、暴力のハルファスの尖兵として操られ。逆に生物として戦おうとすると、ススリアが用意した武器や機能は全て失くした状態となる。
デルタちゃんも、そしてダヴィンチちゃんも、非常に強力な戦闘能力を持ったゴーレム達ではあるが、だからと言って武器を全て取り上げられたら、他の人間達と同じようには戦えない。
この状態で【オーラ】や【スピリッツ】を使ったら、恐らく身体が耐えきれずに、崩壊してしまう。
だからこその"見"、見る事に専念する。
少しでも情報を集め、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】を通して、ススリアに情報を送る事を第一にして、2人は行動していた。
「あの武器は恐らく、暴力のハルファスの因子が詰まった武器。持つことで、暴力性が強化され、非常に乱暴な性格になるのでしょう。ほら、あそことか2人で武器を使って殴り合いをしてます」
「ほんとーうだぁ!」
デルタちゃんが指差す先では、冒険者2人組が「「死ねぇ~!」」と汚い言葉を吐きながら、お互いの武器で殴り掛かっている。しかも、防御する事を考えていない、ノーガード戦法で。
武器の切れ味が、世紀末世界なのでそんなに良くないのが幸いしている。武器の切れ味が悪いから、普通ならザックリと身体が切れちゃうところを、打撲程度に済んでいる。お互いに冷静な判断が出来ていないから、技術もなにもなく、ただ力任せに振っているだけなのも良いかもしれない。
「とは言え、このままではまずいのは確かですね」
デルタちゃんが観測するに、この【暴力発動空間】は徐々に拡大している。
拡大している事を裏付けるモノとして、空の侵食具合、土地の汚染具合など、様々な要素が関係しているが、ともかくとして、この空間は徐々に拡大しつつある。
これが進むと、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の中核たる、システム本体そのものにも影響が出る危険性もある。そうなれば、この性格も保てなくなるかもしれない。
「その前に、暴力のハルファスを倒す事を祈るしかないですね」
「いのろーう!」
だからこそ、デルタちゃんは、こんな状況下で、2人して正座して話し合っているヴァーミリオンとノワルーナ領主を見て、「何しているんだろう?」と理解不能のエラーを出すのであった。
暴力のハルファスの権能、【暴力犯罪空間】!!
生物を惨めな格好、非生物を暴走させて仲間にする
そういう、ハルファスにとって都合が良い空間!!
元は、魔王ユギーの持っている遊戯【おままごと】を
誇張拡張しただけなのに!!
そんな世界に突き刺さっている武器が、普通だと思う?
残念、暴力性をマシマシにするトラップでしたぁ(*'ω'*)




