第369話 ホテル内の決戦配信【赤髪妖精ヴァーミリオンVS.悪魔ハルファス】(2)
『忘れているんですか?! あなたは一度、私に負けている事を!』
悪魔ハルファスはそう言って、どごぉぉぉんんっと、極大の火炎魔法を放っていた。放たれた魔法を、ヴァーミリオンは重力を自らに付与させて守る。
『むっ……?! 魔法が、曲がった、曲がった、曲がった?!』
「重力の力を利用した、重力バリア。あらゆる攻撃を曲げて防ぐ、私の防御技です!」
重力の力をバリアのように身に纏い、あらゆる攻撃を受け流す防御膜。悪魔ハルファスの火炎魔法はあまりにも強すぎるから、受けるのではなく、受け流すように特化させたバリアである。
極大の火炎魔法を無事、重力バリアで受け流す事が出来て、ヴァーミリオンはホッとしていた。それと同時に、このままだとダメだと感じていた。
「(重力バリアはきちんと上手く行っている。しかしながら、この悪魔の、あの謎能力の謎を解かない限り、このままではまた敗北になりますね)」
前回、悪魔ハルファスとの対戦の際、いきなり身体が動かなくなった。何故か身体が動かなくなったし、能力も上手く発動できなくなってしまった。この能力の謎が分からない限りは、またしても負ける可能性が高い。
『----3回目』
悪魔ハルファスはそう言って、勝利を確信した笑みを浮かべていた。次に放った火炎魔法の際に、ヴァーミリオンは身体が動かなくなり、能力も上手く発動できなくなっていた。そして、敗北してしまったのである。
「(3回目。この言葉が気になって仕方がありません)」
ヴァーミリオンは重力魔法で球体を作り出し、悪魔ハルファスに投げる。悪魔ハルファスはその球体を避けようとせず、むしろ自分からぶつかりに行っていた。
そして、全身に対して効果を発揮するように放ったはずなのに、小指の1本が折れるだけで、想定していたよりもずっと効果時間が短かった。
「(そうそう。これについても調べないといけませんね)」
重力の力によって、相手を押し潰す力。この能力によって、悪魔ハルファスの身体を押さえつけて、動けないようにしたいのに、全身ではなく、どうしてだか悪魔ハルファスに対しては、身体の一部しか能力が作用しないのだ。
いきなり敗北が決まってしまう、避けられない極大火炎魔法。そして、何故か中途半端にしか通じない、重力魔法。
「(----いっ、いや、弱気にならない! 私の憧れるノワルーナ姫は、こんな事ではヘコタレません!)」
ヴァーミリオンはそう言って、重力の塊を2つ作り出す。作り出した塊を、さらに重力の力によって、剣の形へと錬成する。
「重力を当てるだけでダメなら、今度は武器にしてぶつける!」
ヴァーミリオンは剣状に整えた重力の剣を、悪魔ハルファスに向かって放つ。放たれた重力剣は悪魔ハルファスに一直線に向かっていき、悪魔ハルファスの両腕を吹っ飛ばした。
「よしっ……!」
なんでかは理由が分からないけれども、直接重力を叩きつけるよりも、重力を武器の形状にした方がダメージは大きい! これが分かっただけでも、立派な進歩である。
『----3回目』
と、ヴァーミリオンがこの結果に満足していると、悪魔ハルファスはそう言って笑っていた。
またである。またしても、ヴァーミリオンがやられる前に悪魔ハルファスがしていた笑みを、何故か回避が出来なくなる前にやっていた笑みを浮かべていた。
『やはり、やはり、やはり! 先程の剣攻撃には一瞬、うわっとしたけれども、やはり勝利はこの悪魔ハルファスが勝ち取るモノだ!』
悪魔ハルファスはそう言って、スッと、ヴァーミリオンではなく、ヴァーミリオンによってひしゃげた形のまま固定されている大穴に手を向ける。
すーっ!
すると、どういう事だろうか。ひしゃげていた大穴はゆっくりと、丁寧に元の形へと戻って行く。
その時、ヴァーミリオンは気付いていた。自分の重力を操る力が、大穴をひしゃげさせている力が、大穴を元に戻しているのだと。自分が制御できていないのだと。
「私の力を、勝手に使う能力……?!」
ヴァーミリオンはそこでようやく、悪魔ハルファスの能力の真相が分かった。
恐らく、3回。悪魔ハルファスが何度も言っている3回という回数分、攻撃を受けるなどの条件を達成する事によって、相手の能力を一度だけ自分の都合が良いように使わせる能力。
前回の戦いの際に、避けられなかったのも、そして能力が上手く使えなかったのも、ヴァーミリオンが持つ重力の力によって動けないようにさせられたとすれば、全てがきちんと説明がつく。
『今頃、気付いてももう遅いですよ。私にとっての勝利とは、条件を達成して、あなたの能力を使える権利! この権利によって、魔王ユギー様をこの世界へと復活させるための大穴を、大穴を、大穴を、元の形へと戻す事が出来るのですから!』
嬉しそうにそう語る悪魔ハルファス。
ヴァーミリオンはまだ自分の能力が上手く使えない状況にある事を感じて、まだ自分の能力が相手の制御下にある事を察した。そして、戻った時こそチャンスであるとも感じていた。
「(大穴を元の形に戻すのを優先している……大穴を戻しつつ、私に攻撃しないという事は、条件達成によって奪えるのは1回だけ。もしくは同時に発動できない)」
それなら、能力が戻った時がチャンスであると、ヴァーミリオンはそう感じながら、
----ぞわっ、と、背筋の震えを感じていた。
『おぉ! 我らが魔王様! 復活、復活、復活の時!』
魔王ユギーは大穴を通り、この世界へと再び降り立ったのを、ヴァーミリオンは感じているのであった。
(※)悪魔ハルファスの戦術
悪魔ハルファスが持つ【願望の力(劣化)】は、3回願いを叶えて貰う代わりに、1回だけ願いを叶える能力。悪魔ハルファスはこの権能を戦法へと応用し、3回攻撃を受ける、つまり"悪魔ハルファスに攻撃を受けて欲しい"という願いを込めて放たれた攻撃を3回受ける事によって、相手の能力を1回だけこちらが使うようにするという戦術に利用している
なお、ガラガラヘビの獣人兵士であるトウダに関しては、スーッと影のようにトウダの影に重なって隠れている間に、3回こちらの方向を見たという事実を曲解して、"見つからないで欲しい"という願いを3回叶えてくれたので、お礼にトウダがコンプレックスに思っている身体を、ガサガサ肌の蛇の獣人族から、ふわふわな毛並みの猫の獣人族に変えている
つまり、相手から3回攻撃を受け、代わりに自分は好きなように相手の身体を自由に出来るという、そういう権能を利用した戦術である
悪魔ハルファスの【願望の力(劣化)】は、
"3回ごとに、可能なら相手の願いを叶えなければならない"なので
別に、悪魔ハルファスが3回願いを、攻撃を受けても、
発動して、相手は悪魔ハルファスの願いを叶えなければならない
3回ごとに、悪魔ハルファスは
相手の行動を自由に、指定する事が出来るのです(*'ω'*)




