第367話 ノワルーナ領主は怪しんだ配信(2)
ノワルーナ領主と猫獣人兵士は、2人して作戦本部へと向かって行く。
2人の間に会話はない。猫獣人兵士はどう話そうか迷っているようで、しきりに視線があちらこちらへと動いていて、挙動不審者そのものであった。一方で、ノワルーナは警戒すべき対象である猫獣人兵士の一挙手一投足に警戒しており、会話をする雰囲気ではなかった。
「「…………。」」
2人とも会話をせず、ただ互いに相手の挙動を警戒するだけ。そして、作戦本部にまであと少しという所で、ノワルーナは振り返っていた。
「獣人兵士さん」
「ビクンっ……!」
ノワルーナに話しかけられて、猫獣人兵士は分かりやすく緊張した様子で怯えていた。全身からは凄い勢いで汗をかいており、100人中100人誰が見たとしても『怪しい』としか言いようがない対応であった。
「なっ、なんでしょうか? ノワルーナさん?」
「そう言えば、名前をまだ聞いてなかったと思いまして。重要な報告を上げてくれた兵士に、なんらかの報奨をあげなければ、と」
「いっ、いえっ! 私なんかの報告なんて、大丈夫だったかと! だから、ノワルーナさんの頭に、私の名前を覚えてもらう必要はないというか……」
ぼそぼそと呟きながら、名前を名乗りたくない様子の猫獣人兵士。汗をかきすぎて寒気が増したせいなのか、物凄い勢いで手足が震えまくる猫獣人兵士。
「(本当に、怪しさ満点すぎます。これで騙すつもりがあるのかしら?)」
じぃーっとノワルーナは、猫獣人兵士を見つめていた。汗をかきまくっていた猫獣人兵士は目をキョロキョロと動かしていたが、やがてもう無理と判断したのか、猫獣人兵士は「……です!」と小さな声でそう言っていた。
「……? すいません、良く聞こえませんでした。もう一度、もう一度だけお願いします」
ノワルーナは猫獣人兵士が小言で言っていた名前を、実は彼女は聞いていた。しかし、もう一度、聞いておきたいからこそ、ノワルーナはもう一度言って欲しいと願っていたのであった。
「はっ、はい! 私、シュンカトウ騎士団兵士の、【トウダ】と申します……」
その瞬間、ノワルーナは猫獣人兵士トウダに、隠し持っていたナイフを突きつけていた。
「のっ、ノワルーナさん!? いったい、何を?!」
「黙りなさい、悪魔。あなたの正体はお見通しよ」
「あっ、悪魔?! 私が悪魔だと、ノワルーナさんはそう言うのですか?!」
信じられない様子の兵士トウダだが、ノワルーナからして見れば、こっちの方が信じられなかった。
兵士トウダ。確かに、シュンカトウ騎士団にそう言う名前の騎士は所属しており、今回の悪魔ハルファス討伐戦の関係者でもあった。
しかしながら、トウダは、ガラガラヘビの獣人族。身体から音を鳴らして索敵を行う兵士の名前であり、間違っても猫獣人族なんかではなかったのだ。
「あなた、自分が何者かちゃんとわかった上で、その名前を騙るという事?」
「えっ、えっと……本来、領主様にして、元とは言え王族の姫様なんかに、この私が話しかけるのも……」
なにがまずかったのか、良く分かっていない様子の兵士トウダ。
今もなお、「どうして?」と疑問符を頭いっぱいに展開している様子の彼を見て、ノワルーナは流石に可笑しいと思い始める。
----あまりにも、純粋すぎる。
明らかに怪しまれる行動の数々。名乗るべきではない他人の名前。
叩いたら埃どころか、金銀財宝がわんさか出て来たレベルで、トウダは自分が怪しいという事を、存分にこちらへと伝えまくっている。
「(思い出せ……兵士トウダに関する資料を思い出せ……)」
ノワルーナは必死になって、兵士トウダに関する資料を思い出そうとする。
そこにはどのような内容が書かれていたのか。確か、兵士に関する細かい事情なんかが数行ばかり書かれていたはずなのだ。それを、ノワルーナは必死になって思い出そうとする。
「あの、ノワルーナさん? 私、なにか失敗でもしましたか……?」
恐る恐る、トウダはそうノワルーナに聞き始める。なにか自分のせいで、困った目にあっているんじゃないかと、そこには純粋に彼女を心配する感情が込められていた。
「----っ! 思い出した!」
「おもいだした? なっ、なにをでございましょひゃあああ?!」
トウダは驚いていた。いきなり、ノワルーナがトウダの身体を掴んだからだ。
「やっ、やめてください、ノワルーナさん! 私の、蛇の獣人族特有のザラザラ肌が、ノワルーナさんを傷つけ----」
「傷つけてないわ! あなた、自分の肌を良くごらんなさい!」
「自分の肌?」と言われて、トウダはスッと、自分の手を、もう片方の手で触る。
「うわっ?! モッフモフ! なにこれ、これが私?!」
「やはり、気付いてなかったみたいですね。あなた、ガラガラヘビの獣人族、兵士トウダでしょう?」
「----! 私なんかの事を御存じで、とても嬉しいです!」
この反応を見て、ノワルーナは確信した。
----この兵士トウダは、本物である。
トウダは、自らがガラガラヘビの獣人族である事を、快く思っていない。体温を感知する、蛇の獣人族特有のピット器官は便利だと思っているが、その程度であり、ザラザラとした蛇の肌など、彼は自分自身を嫌っている。
もっと言えば、関心がないのだ。たとえ、悪魔ハルファスによって、自分がガラガラヘビの獣人族ではなく、猫の獣人族に変えられているという、他人から見たら大きすぎる変化にも、彼は気付いていないのである。
「やられたわ……」
ノワルーナはそう口にする。
彼は本物。蛇の獣人族の姿から、猫の獣人族姿に変えられても気付かない、そういう兵士。
そんな彼を怪しんで、ノワルーナは見落としていた。
「ねぇ、トウダ。あなた、確か影の色って……」
「おっ、お恥ずかしい話ながら、昔、先祖が呪いにかかったようで、頭の部分だけピンク色でして……もっ、もちろん、どうにかして対処をしようと思ってますがね……」
「えぇ、そうね。確かにピンク色、ね」
ノワルーナは、そう事実を確認する。
頭の色がピンク色という、特殊な影。
----先程までは、黒一色だったはずの、特殊な影を。
「今すぐ連絡よ。悪魔ハルファスは、影に擬態して、この近くに来ている可能性がある」
トウダは、自分の容姿に興味がない
ガラガラヘビの獣人族なんです
だから、猫獣人の容姿になってるなんて
気づいてなかったんです
まぁ、ヘビって少し容姿が独特ですし( ^ω^ )
容姿にコンプレックスがあっても
おかしくないのではないかな、っと




