第360話 悪魔フォクマイラの災難配信
『おいおい、マジかよ……』
悪魔フォクマイラは、自らの前に突如として現れたイータちゃんの存在に驚いていた。いきなり、2本ある右腕を吹っ飛ばされたことに、驚いただけなのかもしれないが。
『スタッフ型ゴーレム達、神聖魔法を放ちなさい』
「「「「イエス、オーナー!」」」」
イータちゃんの指示の元、10体のスタッフ型ゴーレム達が一斉に攻撃を開始する。両腕に神聖魔法を充填して、その神聖魔法を悪魔フォクマイラに放って来る。
『くそっ! 躊躇なく、悪魔の弱点である神聖魔法を放って来るなぁ、おい!』
先程、右腕で破壊した壁から外へ出て、スタッフ型ゴーレム達が放つ神聖魔法から逃げる。外へ逃げた悪魔フォクマイラはホテルの壁を左腕1本で上り、一気に屋上まで登ったのであった。
屋上まで一気に駆け上がった悪魔フォクマイラは、『ふんっ!』と身体に力を込める。
----にょきっ!
すると、吹き飛ばされた2本の右腕が復活した。
そう、これこそ悪魔フォクマイラの権能、『野生』である。
一言で言ってしまえば、悪魔フォクマイラという彼女は、非常に生命力が強い。
生命力が強すぎるから右腕が2本もあり、生命力が強すぎるから左腕1本でもホテルの壁を上って屋上まで行く事が出来る。生命力が強すぎるから吹っ飛ばされた右腕がすぐに再生し、生命力が強すぎるから神聖魔法を与えてもすぐには倒されない。
神聖魔法を使う者は、基本的には聖職者。悪魔フォクマイラの言葉を借りるとすれば、"神の言葉とやらを聞くために、後ろの方で引っ込んでいる奴ら"である聖職者は、基本的に物理的な戦闘に弱い。少なくとも、悪魔フォクマイラはそう考え、神聖魔法を喰らおうが、一気に突っ込んで殲滅するという、実に野生的な戦い方を得意としているのである。
しかし、そんな野生が、あのスタッフ型ゴーレム達の一団と、イータちゃんを危険だと判断した。
奴らは、統率されている。
一片の狂いもなく、そして仲間が1人やられようが確実にこちらを殺してやるという意思を感じた。
スタッフ型ゴーレムの1体を倒す事なら、悪魔フォクマイラにも出来る。
しかしながら、全員を倒す前に、自分がやられる事が容易に想像できた。
『ヤバいなぁ。あの集団、なんだってんだいったい』
----ぞわっ!!
ぶつくさと、イータちゃんたちがなんなのかについて文句を言っていた悪魔フォクマイラ。そんな彼女は、ぞわぞわっと、背筋に悪寒を感じていた。
すぐさまその場にしゃがみ込むと、その上を鋭利な刃物の一閃が、通過して行った。
「ふむ、避けられましたか」
即座に起き上がった悪魔フォクマイラは、その一線を放った主、錬金術師ススリアを見ていた。ススリアはというと、避けられたことについて、さも当然、そうなるだろうなという確信があったようである。
「イータちゃんの報告にあった通り、君は悪魔という割には、まるで獣だね。神聖魔法しか効かない身体で特攻して、死ぬ前に相手を倒す戦術----なるほど、面白い」
『ひゃひゃひゃっ! 褒めてくれてありがとうと言うべきか?』
「あぁ、獣だからこそ、武器に敏感でしょ?」
ススリアはそう言って、悪魔フォクマイラに一太刀の刀を見せる。
その刀を見て、悪魔フォクマイラはゾッとした。あの刀に、悪魔フォクマイラはヤバさを感じていた。
「今日はね、スタッフ型ゴーレム達のために武器を持って来てあげたの。彼らにはデルタちゃんやアレイスターなどの、戦う事を専門にして作り上げたゴーレム達の戦闘データの一部を受け取れる設定にしているから、ある程度戦える。だけども、武器がないと困ると思って----」
ススリアの説明は、悪魔フォクマイラの耳には入っていなかった。
なにせ、その刀から物凄くヤバいオーラが、自分の心に、魂に刻み込まれていたから。
----斬られたい、って。
「----あぁ、そろそろ効果が出たようだね。さぁ、おいで。この刀の疼きに、耐えられなかった、哀れな悪魔さん♪」
ざっくりっ!!
ばたんっと斬られた----いや、自ら斬られに行った悪魔フォクマイラの、恍惚な笑みを浮かべた死に顔を見ながら、ススリアはこれはお蔵入りにすべきだと心に誓った。
「【魅了】を極めた結果、相手に自死を強要する妖刀。これは銘を付けずに、お蔵入りにすべきだね」
流石に戦場にこんなのを持ってきたら、敵味方関係なくやられてダメになると、ススリアはそう思い、その場で火炎魔法にて刀身を溶かして、処分する。
実験的に作ってみた刀、そして怒り心頭の様子のイータちゃんからの救難信号。その2つが重なったため、こうして試し斬りとばかりに使ってみたススリアだったのだが、やはりノリと勢いで行動すべきではないと反省するのであった。
(※)妖刀【見惚れ桜】
錬金術師ススリアが、ノリと勢いで作ってしまった妖刀。【魅了】の魔術効果を、【スピリッツ】の力を用いて"離れないように"、なおかつ"くっつくように"と、限界以上に詰め込み過ぎてしまった結果、敵対する相手が斬られたいと、自ら死を選ぶ、呪われた妖刀となってしまった
のちに、ススリアの手によって、試し斬りの段階で不吉すぎるとして処分される。その後、一応という形で、【見惚れ桜】という銘を与えて供養しておく事となった
主人公、完全に悪役じゃないですか(*´Д`)
こういう主人公の方が強すぎて、
敵の方が可哀想になるというのも
個人的には大好きな部類にあります




