第358話 イータちゃんの後片づけ配信(1)
~~ホテル管理特化型ゴーレム イータ~~
----翌朝、ホテル・イスウッドの前に大量の武芸者が並んでいた。
道場に所属する騎士団員。ノワルーナ領主の私兵である兎獣人達の集団。そしてデルタちゃんやアレイスター、ダヴィンチちゃんなどのススリア製のゴーレム達。
既に、商人ラジン以外の宿泊客は、ホテル管理担当であるイータちゃんが『オーナーが作り出した、宴会機能付き台車』を用いて、全員帰路に就いた。
商人ラジンに対しては、既にイータちゃんとゼニスキー組合長の2人で事情を話していた。
----悪魔ハルファスの事はすでにこちらで把握済みで、ホテル・イスウッドになにかしようとしている事は既に把握済みである、と。
自分達の正体がバレた商人ラジンは、商人らしくこちらに交渉を持ちかけて来た。自分と錬金術師マコモの身の安全、そして錬金術師マコモをこちらの世界で健全に過ごす事に協力してくれるのなら、その見返りとして悪魔ハルファスについて、自分達が知っている事はなんでも話すという、そういう交渉である。
受けなくても良かったのだが、悪魔ハルファス攻略の鍵になるかと思って、ゼニスキー組合長は交渉を受け入れた。そして分かったのは、悪魔ハルファスがやろうとしている目的、そして【黒キ翼】の驚くべき力である。
『魔王ユギーの復活という目的、そして"悪魔をこちらの世界に呼ぶための簡易的な穴"を作る【黒キ翼】ですか』
既に、他の皆に情報を送付済みであるイータちゃんは、改めて情報を整理する。
商人ラジンが言うには、悪魔ハルファスは魔王ユギーを復活するために行動しているらしい。まぁ、魔王ユギーを悪魔の親玉だとすれば、悪魔ハルファスがその復活を願うというのは別におかしな事ではない。人間だって、自分達が愛する王子様を王様にすべく、擁立したりするのだから、それに似たようなモノだろう。
厄介なのは、【黒キ翼】の力で、下級とはいえ、1枚につき1体という制約ながら、悪魔をこちらの世界へと呼び寄せる事が出来る事。そして、悪魔ハルファスの能力を商人ラジンが"覚えていない事"。
『さんざん、その能力の世話になった事は覚えているのにも拘わらず、何故か能力については何一つとして覚えていない事。恐らく安全装置の一種なんでしょうね』
予め、商人ラジンが捕まった際に備えて、捕まった後にその能力の詳細が話せないように、なにかしらの縛りだの処置をしているのだろう。ラジンの方も、どんな能力だったのか本当に覚えていないと言っていて、その言葉の真偽は精神に干渉して真偽を確かめる魔道具によって、きちんと判明済みである。
という事はつまり、逆説的に言えば、その能力こそ判明すれば、すぐに対処できる相手だというのだ。悪魔ハルファスは。
『ともあれ、あとは武人さん達にお任せしましょう』
相手が持つ能力がなんなのかとか、そういう戦いに関する事は私の専門外。オーナーもそのために、私を『ホテル管理特化型』として作っているのですから、どちらが勝ったの負けただの、軽い勝敗判定くらいは出来ますが、それ以上の事は出来ない。
あとは、ホテルに攻め込んでくるだろう下級悪魔たちの対処を、武芸担当者に任せ、私は次にホテルに来てくれるであろう人達の予約受付を済ませましょう。今回の宿泊客たちのおかげで、大きな宣伝となった。ホテルに宿泊した50人の代金を半額にした以上の、素晴らしい宣伝効果がありました。
『さぁ、スタッフ型ゴーレム達。お客様の部屋の掃除を----って、あれ?』
そこで私は、違和感に気付いた。
そう、スタッフが1体足りない。正確には1体、お客様の対応をしに部屋を訪れて以来、位置情報が更新されていない。
『宿泊者は、お騒がせ系配信者【ロンダリゼ】様ですか。こう言っては何ですが、あまり良い配信者様ではないんですよね』
配信者全てが、良い人ばかりという事はない。その中には、世間を騒がせることで皆の注目を集めるという、厄介なお客様も存在する。
ロンダリゼという配信者はその典型とも呼ぶべき人物であり、『皆が興味があるだろう』という理由だけで、お店に対してクレームを送り続ける配信をしたり、あるいはトップ配信者に勝手にコラボを始めて悪口を言いまくるなどをしたりする。要するに、なにか視聴者が楽しめる形であれば、相手の迷惑を考えずに行動するという厄介なお客様なのだ。面倒なお客様であるけれども、その分、配信のペースが速く、視聴者の声にこまめに返信するので、一定の信者がいる。
厄介さと知名度を考えた上で、イータちゃんは今回、宿泊客として迎え入れる事にしたのである。
……まぁ、ホテルの設備に色々と悪戯しまくるという、こちらの神経をすり減らしそうな事をいっぱいやられましたが、それを含めての投資として諦める事にしたのですけれども。
『そんなお騒がせ系配信者様が使った部屋の清掃に向かったスタッフが、帰って来ない? 一度、ちゃんと確認しないといけませんね』
そして、私はその部屋へと意識を移動して。
『あひゃひゃひゃ! 来れたぞ、こちらの世界に!』
----何故かその部屋には、嬉しそうにそう笑う悪魔の姿がそこにあったのでした。
他人に迷惑をかけて、その様子を撮って
人気を得ようとするお騒がせ系配信者!
個人的に、こういう配信者が人気なのが
マジで意味不明です(*´Д`*)




