第343話 3人で昼食を囲もう配信
「しっかしお前ら、いまの攻撃凄すぎない?」
ギジエが持って来た弁当を、3人で半分くらい食べた頃。
ギジエは素直に、サビキとトカリの2人にそう賞賛の声をあげていた。
「あの蟹の鋏だの、ドラゴンの頭に見えたのは、幻覚か? それにしては、すごくリアルだったが……」
「ギジエ様。それは少し違うので、補足説明させてください」
ペコリと、トカリは頭を下げて、補足的な説明をギジエへと告げる。
「あれはサビキ様を倒したアデリィちゃんが放った鉄砲魚拳と同じく、とあるモノを基礎とした武術体型です」
「とあるモノ……?」
「えぇ。私はドラゴンを、そしてサビキ様は巨大な鋏による切断攻撃を得意とする【キングクラブ】をモチーフにした武術……簡単に言えば、人の身で、魔物が放つ強力な技を再現するモノ。私達は、そうやって互いに技をぶつけ合っていたのです」
トカリの説明が、いまいち納得できない様子のギジエ。そんなギジエに対して、「もう少し分かりやすいようにするとなると……」と、トカリは考え込む。そして、良い説明の仕方を見つけ出したようで、納得したような顔を浮かべていた。
「要は、疑似餌のようなモノですよ。魚を釣るのに、偽物の魚を使うという」
「なるほど。ルアーか! そう言われれば、一瞬で理解できたぞ!」
ギジエが納得してくれたのを見て、2人は上手く説明出来て何より。そういう顔を浮かべていた。
「しかし、それだったら、なんでサビキは蟹の魔物の技を再現したんだ? トカリと同じようにドラゴンの魔物の方が強そうに見えるが?」
キングクラブは、海に住まう巨大な蟹の魔物。確かに切断能力においては侮れないほどの力を持つのは確かだが、それでもドラゴンに比べると若干見劣りすると言っても良い。
ドラゴンが最上位だとすれば、キングクラブはギリギリ上位クラスに入れるかどうかの強さ。元から勝負する以前に、比べる必要もないほどの相手。
トカリがドラゴンの技を再現できているのだから、サビキにだって出来そうなはずなのに、なんでキングクラブの技を再現しているのかが分からなかったのである。
「その疑問には、当人である私から答えますね」
「頼む」
ごほんっと、わざとらしく咳込むサビキ。その様子を見て、「なんか大人っぽく見せようとして可愛い」と、ギジエはそう思っていた。
「確かに、キングクラブはドラゴンに比べると弱いのは事実です。しかしながら、キングクラブの鋏は、技として再現しようとすると、ドラゴンよりも有能なのです」
「……どういう事だ? ドラゴンより、キングクラブの方が強い?」
うーんっと、頭を抱え込むギジエ王子に対して、武術を嗜むサビキは自分達を指差す。
「ギジエ兄様、私達は魔物ですか?」
「いいや、違う。サビキはテッポウウオ、トカリはアザラシの、それぞれ魚人族という人間だ」
「そう。私達は魔物じゃない。だから、魔物と同じ身体を持っていない」
サビキはそう、説明する。
ドラゴンが強いのは、そりゃあ技の強さもあるが、肉体としての性能が非常に高いというのも理由の1つだ。
だけれども、トカリも、サビキも、それぞれ魚人族という、魚の特徴を持つ人間。ドラゴンの性能と比べると、明らかに劣っている。
そこで、技としての性能のみを分析したところ、ドラゴンの技とほぼ同じくらい、キングクラブの技も強いという事が判明したのである。
「そこで、私はキングクラブの技を武術として再現しようとしている訳です。ドラゴンの技は広範囲を攻撃するのに向いていますが、キングクラブの技は単体、そして斬撃弱点の相手には効果抜群ですから」
「なるほど。それだからこそ、あのような技を放っていたのか----」
「ふむふむ、なるほど」とギジエは納得し合い、パクパクと食べ進めて行く。ギジエが納得してくれたのを見て、サビキとトカリも、ホッとしていた。そして、嬉しく思っていた。
自分達の事を理解しようとしてくれている、そんなギジエの姿が、とても嬉しかったのだ。
ウミヅリ王国に居た頃には、ギジエが、サビキの武術を見てくれるなんて事はあり得なかっただろう。分からない部分が多いと思いつつも、理解しようとしてくれるなんてもっとあり得なかっただろう。
「「(ウミヅリ王国から出て、良かったぁ~)」」
そんな事を2人揃って思うと、弁当を食べる箸の手が進む、進む。どんどん進む。
弁当が美味しいのは勿論あったが、それ以上に3人の関係は凄く良好だった。
「美味しかった。あと、今日会えたことは良かった」
弁当を3人で食べ終わると、ギジエは弁当をササっと片付け、サビキとトカリの2人にそう言う。
「サビキ。また会いに来ても良いか?」
「----! えぇ、勿論ですとも!」
「トカリ、また色々と教えてくれると助かる」
「はい。私もここでの学びは凄く楽しいので、色々と話せて良かったです」
サビキとトカリの2人がそう笑みを浮かべながら言うと、ギジエは「そうか。また会いに来るからな」と言って、彼はホテル・イスウッドに戻って行くのであった。
こういう、のんびりしたお話は
書いていてホッコリします~




