第333話 私の名前はメキス。王都の謎を追う、ただの錬金術師配信(1)
----私の名前はメキス。王都の錬金工房で働く、ただの錬金術師。
私の仕事は、他商品との比較、検査を行っている。どちらの商品の方が良くて、どういう利点や長所があるのかの比較と検査を行う、いわゆる検査を専門に行っている工房であった。
しかし、そんなセイサ工房は、最近、新たな仕事も受け入れている。それが、他商品との互換性に関する検査である。
1つの商会が出した商品が、全ての項目において、他の商会に勝っているという事はまず存在しない。この商品ならこの商会、こっちの商品に関してならこの商会と、それぞれ専門分野が存在するのが多い。
そういった商品事情により、お客様がそれぞれ別の商会から商品を買って、それを合わせるというパターンも増えて来た。商品自体はA社から購入するが、商品の充電などはB社のバッテリーを利用するという、そういう例だ。
私達セイサ工房は、その2つの商会の商品の組み合わせが可能かどうかを検査する、互換性の調査も行うようになった。劣化が早いなどの問題はないか、あったとしたら対処法はないか、そしてどの商会の商品だったら問題はないか、といった検査である。
その組み合わせ、互換性を調べる検査により、私達セイサ工房は大きく売り上げを伸ばした。
その上で、私は1つの提案を行った。
----私の名前はメキス。魔術付与の互換性も検証すべきと提言する、ただの錬金術師。
魔術付与とは、錬金術師が魔道具を作る際に、道具に魔術を付与するという行為の事だが、付与する魔術によっては互いに影響し合ってお互いの効果を弱めてしまう組み合わせが存在する。同時に、お互いの効果を強めすぎてしまい、暴走してしまう危険な組み合わせもある。
私やススリアのような、いわゆる"デキる錬金術師"にとっては、そういう組み合わせは自ずと、なんとなく分かっているのだが、まだまだ新米の錬金術師や、新しい事に挑戦したがる錬金術師にとっては、魔術付与による事故も相次いであった。
そういう事故の防止、そして錬金術のさらなる可能性を広げるため、どういう魔術付与なら大丈夫かという調査もすべきと、私は工房に事業として提案したのであった。
-----結果は、不採用だった。
『そんな、良く考えれば分かり切っている事を、改めて事業として行って、周囲に徹底する意味が分からない』というのが、セイサ工房上層部の判断であった。
確かに他商品との互換性検査業務で景気が良い時に、すべき業務ではなかったと私はそう思いつつ、今日も今日とて他商会との商品の互換性の調査を行っていた。
その日、私に持ち込まれたのは、1枚の紙の検査であった。この黒い、ただの紙きれにしか見えないモノは、ワイルド工房という新設工房が作り出した【黒キ翼】という魔道具である。
痛々しい名称が特徴的なこの魔道具はシールであり、他商会の魔道具に貼り付ける事で、その魔道具の質を向上させる効果が確認されている。いまのところ、向上した事によって想定外の挙動を起こしたり、あるいは暴走や劣化などは確認されてはいないが、それでも調査は必要という事で、このセイサ工房に持ち込まれたのである。
「ううむ……」
精査した結果として、商品の寿命をほんの少し短くすることが確認された。商品が本来持つ力よりも、大幅に向上させているのだから、それは仕方がないと言えば仕方がないと言えるし、寿命を短くするとは言っても1年が寿命だったモノが、この【黒キ翼】を使用すると11か月になるという、それほど大幅な寿命の劣化などは見られなかった。
問題があるとすれば、その劣化した魔道具。魔道具に使われている配線や魔術付与、商品そのものが、得体のしれない黒い物体によって汚染されている事が判明した。そしてこの汚染は、取れないという事が確認されている。
水、油、魔術……色々と、この謎の黒い物体を取ろうとしてみたが、結果は効果なし。この黒い物体自体は検査上は何の問題もない物質とはいえ、不気味な事には変わりない。
----私の名前はメキス。何かの危機と考えて工房長に相談する、ただの錬金術師。
工房長も、流石にこれに関しては私と同じように危機感を持ってくれたようだった。私の企画を却下したとは言っても、別に私の事を嫌っているという訳ではなく、単に工房の未来を考えた上で判断しているだけなのだ。
工房長は早速、【黒キ翼】の検査をお願いしたナチュラル工房に連絡。ナチュラル工房は自分達が手塩をかけて作った魔道具が、このような状態になると知って、怒り心頭の御様子。
私達セイサ工房の工房長、そしてナチュラル工房の工房長は、2人揃って商工組合の長であるゼニスキー組合長に相談し、対策委員会を設立。
私はというと、この【黒キ翼】を販売したとされるワイルド工房に、この黒い物体についての弁明を聞くべく、ワイルド工房を訪ねた。
しかし、商品に書いてあったワイルド工房の住所に、その工房はなかった。
それどころか、この土地には過去数年間、工房のような建物は建ったことは一度もないという。じゃあ、ワイルド工房はどこに行ったのだろう……?
ペーパーカンパニーも出してみましたぁ!!




