第332話 浮かれ模様の赤髪妖精ヴァーミリオン配信
~~赤髪妖精ヴァーミリオン~~
「なるほど。"ノワルーナのように、努力する事で皆に認めて貰える妖精"が、あなたが目指す上級妖精の姿である、と」
『そうです! 彼女のように、努力して皆に認めてもらいたい! 私はそういう妖精になるのです!』
無事、中級妖精へと進化した私は、早速イプシロンちゃんがいる養殖場へと足を運んだ。錬金術師ススリアが作ったとされる養殖担当のゴーレムである彼女は、"何かを育成する"という事に特化している。その育成能力を頼って一度は足を運んだ私であったが、その時はどういう妖精になりたいかという問いに答えが出せなかったが、今はきちんと胸を張って言える。
『私は、"ノワルーナのように努力する事で皆に認めて貰える妖精"のようになりたいんだ』、と!
「ふむふむっ! そういう方向が、あなたの目指す目標という事か。けれども、だとすれば、どうして『重力』の力があなたに宿ったんでしょう?」
『さぁ、なんかいきなり手に入ったんですよね』
曖昧な答えになってしまうが、私にだって良く分かっていないのである。
自分がなりたい姿を思い浮かべた時、私が得たのは『重力』の力であった。
重力というのは、モノを引っ張る力の事である。たとえば、目の前にあるモノに対してこの力を発動すると、私はそのモノを自由自在の方向に力を加える事が出来る。
モノを上へ上へと、永遠に落ちてこないようにしたり。あるいは、その逆に永遠にモノを下へ下へと押し続けて、その場に留まらせるなど、色々と応用が効く力である。
『恐らくですが----』
「良いよ、恐らくでも。何事も考える事は大切。ただ漫然と、事態を受け入れるよりかはよっぽど良いと思います」
イプシロンちゃんの応援も受け、私は自分の考えを話す。
『この重力の力は、モノを引っ張る力。つまりは、いざという時仲間を救うのに一番便利な能力だと判断しての事ではないでしょうか!』
「……仲間が敵に襲われている際、その仲間を自分の元へと引き寄せる事で守る。また、敵自体を引き寄せたり反発する事で、仲間の危機を救う。確かに仲間救出に一番便利な力ですね」
『でしょう!』
そう、この力は努力を認めて欲しい、という私の想いに、実に合致した力なのである。
仲間の救出、そして敵の妨害。その2つが両方できるという、本当に稀有な能力だ。
「そして、それが分かりやすい」
『分かりやすい?』
むしろ、重力は目に見えない力であるから、私的にはとても分かりづらい能力だと思ったのですけれども。
「たとえば、一般的な『炎を操る能力』が発現したとして、それでも仲間の救助と、敵の妨害は出来るでしょう。しかし、炎は一般的すぎます」
『……なるほど。重力は、助けたのが私だとすぐに分かって貰える、と』
確かに、敵をいきなりあらぬ方向へと飛ばしたり、自分の身体がいきなり引っ張られるのだ。
私の事を知っている者からしてみれば、重力を使った時点で、私が助けたとすぐに分かって貰える。そういう事ですね!
「なるほど。要するに、あなたは頑張りに対して褒められたい。そういう事を言っているのですね」
『----!? たっ、確かにそうかもしれない!』
イプシロンちゃんは私の答えに「なるほど」と言うと、彼女は指を鳴らした。彼女が指を鳴らすと、ニョロニョロとイプシロンちゃんの足元に1匹の蛇……いや、蛇型ゴーレムが現れ、その蛇型ゴーレムをイプシロンちゃんは私へと渡して来た。
『これは、蛇型ゴーレム?』
「マスターに頼んで、私は蛇型ゴーレムをもらったのですが、そのうちの1体をあなたに差し上げます。あなたに必要なのは、あなたの事を慕う配下の存在である、私はそう考えます」
配下……つまり、私の頑張りを評価してくれる者の存在という事ですね。
確かに、私の望みを叶えるためには、私以外に、私の頑張りを見てくれる存在が必要。
『それが、この蛇型ゴーレム? このゴーレム、褒めるとかしなさそうですけれども』
「確かに、褒め言葉を口には出来ません。しかしながら、その蛇型ゴーレムは、ちゃんとあなたの行動を見てくれる。そして、凄いと思ったら、喜んでくれることでしょう」
なるほど。私の目的である"頑張りを見てくれて、ちゃんと評価してくれる"のなら、敢えて言葉は不要、そういう訳ですか!
『ありがとう、イプシロンちゃん! 私、一生懸命努力して、努力して、この蛇型ゴーレムに自己肯定感を高めに高めて、上級妖精になって見せますね!』
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~~イプシロン~~
「(それじゃあ、あとは頼みましたよ。蛇型ゴーレム)」
ルンルン気分で、嬉しそうにする赤髪妖精ヴァーミリオン。そんな彼女が持つ蛇型ゴーレムに、私はそう指示を出す。
適当に見て、適当に褒めておけ、と。
彼女の言葉が本当ならば、努力したのが認められればそれで良い。ならば、どういう成果を残したかよりも、努力した成果であるという事が重要なのだと、私はそう思う。
「しかし、ガッカリですね」
嬉しそうに行ってしまったヴァーミリオンを見送って、私はそう口にする。
「なにかを為すのではなく、その過程のみが重要だなんて。
----あれ、多分ろくな上級妖精になれない。もしくは、上級妖精そのものになれませんよ、きっと」
いや、絶対に、まともな上級妖精になれませんよね?
「努力する事で皆に認めて貰える妖精」って




