第329話 イータちゃんはマニュアル大好きゴーレム配信
『初めまして、オーナー。【アルファ・ゴーレムサポートシステム】搭載管理特化型ゴーレム、イータに何か御用でしょうか?』
「おー、遂に完成した!」
魔力を用いて映像が投影されるようにしたタブレット型魔道具に、1人の女性の姿が映し出される。
右目に薔薇の花を生やした、スマートなクール系美少女。虹色のウェーブロングヘアーはうねうねと波打つように揺れ動いており、胸元には【ホテル最高】と書かれていた。
いま、イスウッドにて絶賛開発中の避難施設兼ホテル事業。そのホテルに搭載する高性能なゴーレムこそ、このイータちゃんなのである。
『しかして、オーナー。私は一体、なにをすればよろしいのでしょうか?』
「それは、これを見てくれたまえ」
私はそう言って、クルリとタブレット型魔道具を持って、別方向へと向ける。そして、タブレット型魔道具の中に居るイータちゃんの視界に、ほぼ完成しかけのホテルが映し出されていた。
『ほぉ~、これが私が管理、そして運営するホテル【ホテル・イスウッド】ですね?』
「名前はまだ付けてないけど、まぁ、それで」
既に大まかなホテルとしての外観は、完成。分配設備に関しても、おおむね問題なく設置は完了している。
あとは、内装として家具や壁紙などを付ければ、1週間後くらいにはホテルとして完成する。
「イータちゃん、あとは君があのホテル内に接続し、用意してあるスタッフ型ゴーレムとの連携をお願いする」
『かしこましました、オーナー。では早速で申し訳ないのですが、ホテル内に接続をお願いします』
「勿論。いっぱい学習して、人々を喜ばせておいてくれ」
私はそう言って、イータちゃんをホテル内へと接続するのであった。
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ホテル内と接続したイータちゃんは早速、スタッフ型ゴーレム達とシミュレーションを開始する。一応、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】のおかげで最低限の知識はインプットされてはいるが、客商売である以上、常に最適解が取れる訳ではない。
起こり得るであろう何百、何千通りにも及ぶ迷惑行為を考慮しつつ、運営するように調整し始めた。
ホテル業と言うのは、つじつま合わせの接客業だと私はそう考えている。
前世の知識だと時間通りに来るように動き、時間が少しでも遅れると「遅れたこちらが悪かったなぁ」くらいに思ってくれる人が多いが、ここは剣と魔法の世界であり、この【ホテル・イスウッド】に来るお客様はほとんどが貴族だ。
朝、起きたいときに起きる。
昼、食べたいときに食べる。
夜、寝たいときに寝る。
配信という文化により、1日が24時間で、1年が365日というのはこの世界に住まう者達に浸透しているようだ。しかしながら、時間に縛られているという感じは、この世界からは感じられない。
『これに関して、オーナーに保温機能の提案をいたします』
「あー、確かにそうだね」
私はイータちゃんから依頼を受けて、ホテルの迷惑行為に対するシミュレーションの結果、どうしても今の設備では対処できないという事に関してのみ、魔道具を作るという形で解決のお手伝いをする。
今回、イータちゃんからの依頼は、保温機能。簡単に言えば、いつでも温かい料理が食べられるようにする魔道具の開発である。お客様には出来る限り、一番美味しい出来立ての温度で食べて欲しいという、イータちゃんなりの気遣いである。
「しっかし、問題がいっぱい出てきますわなぁ~」
私は保温機能付きの魔道具を作りながら、イータちゃんにそう愚痴る。
この保温機能以外にも、冷暖房設備の魔道具や、荷物を盗まれないようにする防犯設備の魔道具。さらに細かい所で言えば、パーティー会場で使うカラオケ設備の採点機能など、イータちゃんが私に進言して作ってもらった魔道具は既に50を超える。
流石は、ホテルと言った所でしょう。初期投資額がイプシロンちゃんの養殖施設を大幅に超えている。
『ですが、オーナー。既にスタッフ型ゴーレムは何万通りものお客様の行動に対処できるよう、マニュアル化済み。もうしばらくお時間をいただけましたら、完璧なマニュアルを作り出せると思っております』
「マニュアルかぁ……」
どうやら、このイータちゃんは、マニュアル大好きゴーレムらしい。
様々な事態を対処するように開発したら、その事態を解決するマニュアルを一生懸命作り始める、そういう事をするのが大好きなゴーレムになってしまった。
「イータちゃん。マニュアルはあっても良いんだけれども、マニュアルが全てを解決する訳じゃないってのは知っているよね?」
マニュアルと言うのは、あくまで指標だ。
『こういう事態があった場合、こういう解決方法をすると良い』程度のモノであり、それが必ずしも最適解という訳ではない。マニュアル通りすぎる接客をすると、怒るお客様もいるかもなので、そこら辺はきちんと分かった上で業務を行って欲しいと、私はそうイータちゃんに言っておく。
『なるほど。オーナーのお考えは良く分かりました』
「分かってくれたのなら、それで----」
『では、早速。マニュアル通りに行かなかった場合に備えて、マニュアル通りではない場合のマニュアルの作成を----』
うん、全然分かってないよね。それ。
私は、イータちゃんのマニュアル思考をどうにかしようと、頑張る日々を送るのであった。
マニュアルが好きな人って、居ますよね
「この事態は、マニュアルに書かれていたからこういう対処で!」と、
マニュアルに書かれている事に執着しまくっている、マニュアル大好きゴーレム
それが、イータちゃんであります




