第325話 なにを建てようか話し合おう配信(3)
「では、これより企画提示を始めさせていただきますね」
いくら、やる気がないからと言ってもノワルーナ領主様が出すアイデアを否定してばかりもいられない。こちらからも、ちゃんとしたアイデアを出しておこうと思って、私は彼女に提案を始めた。
----議題は、避難施設に何を作れば良いのか。
----その課題に対して、私が導き出した解答は、『貴族向けの施設を作る』である。
「避難施設が金食い虫だというのならば、こちらも大金を徴収する施設を、つまりは多くのお金を稼ぐ施設を作れば良い。それが私の考えである」
避難施設は、避難した民を受け入れる施設である。しかしながら、それは緊急時のみの話であって、実際に通常時は美術館などとして運営している施設もあるくらいだ。だから別に、避難施設でお金稼ぎする事はやってはいけない訳ではない。
だったら、お金を稼ぐ施設を作れば良い。しかも、貴族向けの施設となれば、初めからお金を稼げるんじゃないかというモノだ。
「貴族向けの施設って、どういう施設を考えているんですか?」
おっ、ノワルーナ領主様も食いついて来たぞ。いや、これは「そっちがいっぱい否定したんだから、こっちだって遠慮なく否定してみせるぞ!」みたいな対抗心かもしれない。
ならば聞くと良い! この私が考える案を!
「巨大なダンスパーティー会場付きの、ホテルみたいなのを考えています」
貴族様ってのは、とにかくパーティーが大好きだ。相手と繋がるために一番必要なのは交流だと考えて、月に何度も「アン家主催のパーティー」「ドゥ家主催のパーティー」「トロワ家主催のパーティー」と、無駄に何度もパーティー会場に通い続けるのだ。
そして、パーティーで見定めるのである。相手がどれくらいのパーティーを仕切れるだけの器なのか、どれだけの人間を呼べるのか、どれほど楽しい演目を用意してくれるかなど。
貴族様ってのは、笑顔を武器として戦う、そういう怪物だ。腹芸が出来ないノワルーナ領主様のようなのが居ると、遠慮なく蹴落とされてしまう、そういう世界の住人だ。
そして、そういう常識はずれな生活をしているからこそ、常識はずれな大盤振る舞いでお金を支払ってくれるのである。
目指すは、超高級なホテル!
自分達は勝ち組だと思ってもらうための、そう言うホテルです!
「随分、思い切りましたね。"勝手な想像ながら、貴族ってのを見ると吐き気がするほど邪悪な怪物かなにかだと勝手に見定めている薄汚れた悲観者"のススリアさんにしては」
「別に、嫌いって訳じゃないですよ。あくまでも話は合わないだろうなと思っているだけ」
そう、平然と私を罵倒しまくっていて、それが許されていると思っている人がいるようなのとは、話が合う訳がない。単に、そういう人をターゲットにした施設を作ろうという、ただの戦略的な話である。
「あと、これ別に私が出したアイデアではないですよ。うちのミリオン、商売担当が出した結論です」
そう、貴族向けのホテル施設というのは、新生ハンドラ商会の会長として働いているミリオンが出したアイデアだ。
"避難施設が金食い虫ならば、赤字を上回るだけのお金を稼げばいい"と、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】越しにそう伝えてきたのである。
私はそのアイデアをブラッシュアップして、提示してみただけ。
案があるとは言ったけれども、私が考えたアイデアではないのだよ。
「"(詭弁を使う私をめちゃくちゃ侮辱しまくっている言葉)"」
「シンプルに悪口だなぁ……」
いつも以上に、凄い悪口を言ってきたノワルーナ領主様。まぁ、私が考えたアイデアではないと聞けば、そうなるかもしれないが。
「確かに、今のイスウッドに来てもらおうとなると、避暑地的な扱いで来てもらうのが良いかもしれませんね。『いつもいる地域とは離れた場所で、新しい生活を送ろう』という」
しかしながら、ノワルーナ領主様は私が出したアイデアを真剣に、やろうかと考察し始めた。
そう、誰が出したかが問題ではないんですよ。
アイデアそのものが良いか悪いかで、判断するのが大事だと、私はそう思います。
「一応、ホテルとしては普通の宿泊施設よりも一部屋一部屋が少し大きめで、1階毎に入る部屋を少なくしようというアイデアはあるよ」
1階は、玄関、大浴場。
2階と3階は、アミューズメント施設と食堂など。
4階から10階までが客室を入れるが、1階につき4部屋位を想定しているので、そんなに人は入れない。
「1階から3階までの間に、3部屋分、空間拡張の魔道具を使ってパーティー会場にします。初めから魔道具を使う事によって、瞬時にお客様の要望にあったデザインに変えられるようにします」
「それを使って、部屋を作れば、もっといっぱい入れられるんじゃ……」
素人意見のノワルーナ領主様に、それは良くないと伝えておく。
空間拡張の魔道具は、空間を無理やり広げているモノ。無理やり大きくしている訳だから、ある程度したら元の大きさに戻しておかなければならない。
居住空間として使った場合、多分だがその元の大きさに戻した際に、色々と問題があるという訳だ。
「で、ホテルを真ん中に作り、その前に大きな庭を作ります」
「庭……?」
そう、庭。多くの人間が寝転がれるほどの、大きな庭、である。
別に避難施設とは言っても、絶対に避難民を中に入れなくてはいけないという、そう言う訳ではない。
避難してきた人はホテルの方から貸し出したテントで生活してもらい、お風呂と食事だけ、ホテルを使ってもらう。これなら、避難民の部屋問題は解決だ。
「なるほど! 確かにこの方法なら、避難民を受け入れられるかも……いちおう、これで準避難都市申請が通るのか、確認してみますね!」
「うん、よろしく~」
そう言って、申請しに向かうノワルーナ領主様を見ながら。
「いや、避難民をホテル前の庭でテント生活させるって、いくらなんでも避難施設としてダメでしょ」
と、普通にそう思っていた。
だって、避難民が欲しいのは、ちゃんと寝られる家みたいな場所。テントは、どう考えても違うでしょ。
一見、良い感じの「これしかない!」みたいなアイデアを出して置いて、もっと上の人に却下してもらおうという私の考え。上手く行くと良いのだけれども。
「これで諦めてくれると良いのですが……」




