第317話 配信には載せられない、新しい武器について配信
別の世界である魔法世界の私であるハイゲンから教えて貰った【職業力】。
この力は、どうやら私と非常に相性がいいという事が判明した。
【職業力】は、本来は適性のない力を得るために、適正武器から力を授かるという方法だ。
ゲームで例えると、分かりやすい。【魔法使い】のハイゲンが、新たに【剣士】の力を得るために剣を持たせて熟練度を上げたら、【剣士】の力も手に入れて【魔法剣士】となったという具合だ。
この【職業力】は、どんな者だろうと最強に出来る。そういう力がある。
そして、錬金術師である私は、道具に力を与える事が出来る。
「まさしく、私の魔道具開発と実に相性が良い」
こちらは、その当人に与えたい才能を魔術付与として組み込みつつ、武器の形をその者が最も使いやすい形に変える事が出来るんだからな。
この【職業力】の鍵は、能力を授かるのが"熟練度依存"という事。いくら【魔法使い】に【剣士】の力を授けたいからって、剣を持たせても上手く扱えないだろう。しかしながら、私の魔道具開発の力さえあれば、【剣士】の力を魔術付与した、【魔法使い】が使いやすい杖の形にする事が出来る。その上、複数の魔術付与をすれば、1つの武器で、いくつもの才能を得る事が出来る。
「なるほど。だから、私が呼ばれた訳ッスね」
「その通りだよ、アレイスター」
私は説明を聞いていたアレイスターにそう答えながら、彼女に完成した武器を渡した。
彼女に渡した武器は、【職業力】の理論を組み込んで作り出した、彼女の新しい杖である。
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【信仰と理想と天使と悪魔】
黒と白、相反する性能を与えられた杖。神に対する信仰深き天使と、一切の偶然を許さない冷徹なる悪魔。異なる思想を持つ2匹の生物が、使用者に選択を強いる
魔法についての成功を神頼みにてギャンブルに出る天使の効果と、一切の仲間の支援も許さない実力勝負という安定性を兼ね備えた悪魔の効果。2つの効果のどちらかを選択する事が出来る
製作者;ススリア
武器種;杖
魔術付与;【信仰度向上】【魔術理解度向上】【騎乗スキル】
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「それでこれが、私に持って欲しいという杖ッスね」
「そう。【信仰と理想と天使と悪魔】という名前だね」
「……かなり、斬新な名前ッスね」
言われると思ってたよ、名前については。
この【信仰と理想と天使と悪魔】は、使えば使うほど魔術に対する理解度が深まるのと同時に、教会の人達が使う神聖術。さらには、馬などに乗る騎乗のスキルの向上も可能になるかもしれないという、私が作った杖である。
この【職業力】を利用したこの杖が上手くいけば、杖で普通に魔術のスキルという得意分野を伸ばしつつ、神聖術や騎乗スキルなど魔術とは畑違いな分野の強化も可能になるのだ。是非とも、成功して欲しいものだ。
「でも、マスター? 魔術と神聖術は同じ物ではないッスか? けっこう、似てると思うッスけど」
「魔術と神聖術は、似て非なるモノですよ、アレイスター」
魔術は、魔力を持ちいて世界に対して、力を行使するモノ。一方で神聖術は、神などに祈りを捧げて、力を行使してもらうモノ。
魔術が自らを高めて使うのだとすれば、神聖術はただ祈りを捧げて神へと奉仕する慈悲や慈愛の精神が重要となってくるのだ。
「勉強して高めるのが魔術だとしたら、神への奉仕精神度が重要なのが神聖術。だいぶ、違うと思うよ」
まぁ、だからこそ、ゲームとかでも魔法使いと神官は、別枠で扱われてるんだろう。同じような、術を行使するモノに見えても。
「まぁ、それはさておき。とりあえず、アレイスター。まずはこの【信仰と理想と天使と悪魔】を持ってもらえないかな? 一応、【職業力】は初めてやってみたからさ」
別の並行世界の自分から得た知識、それが【職業力】。向こうの世界では上手くいったとしても、こちらの世界でも上手くいくとは限らないし。
同じ自分だとしても、この世界はまったくの別の世界なのだから。
「なるほど。道場の人達でなく、私を選んだのはそういう事ッスか」
「いや、単純に魔法世界の私から聞いたから、うちの魔法使いであるアレイスターに頼むのが筋かなって」
道場の人達には、しばらく教えたくないなぁ。この【職業力】の存在を知られてしまうと、大量発注が目に見えている。
まだ【職業力】は、恐る恐るやっているので、大量発注となるとかなり精神疲労が、ストレスが溜まるのが目に見えている。
「というわけで、これについては配信でもやらない。アレイスターも、教えたりしないようにね。絶対だからね」
フリじゃないからね。本当に、やりたくないんだからね。
ストレスが嫌だったからスローライフしているのに、なんでわざわざストレスが溜まるようなことを広めないといけないんだ。
あと、タラタちゃんにも絶対に教えないよ。この技術の出所を聞かれた際に、答えられそうにないからだ。
『並行世界の自分から聞いた力を使ってます』って、信じてくれないからね。絶対。
並行世界の存在を信じて貰えるかは、
どれだけ突拍子がないかというよりも、
その人の信頼性にもよると思います
しかしながら、ススリアは
信頼性云々以前に、説明するのが面倒と判断しました




