第316話 ハイゲンはなんで追放されたのかについて配信
教会にて行われた、神具【積み直す砂時計】を使っての自分自身を見つめ直す修行。【ビルドの間】という外との時間が大幅に違うというこの場所にて、私は自分自身を見つめ直して、初心を取り戻そうと考えていた。
しかし、その計画は、この【積み直す砂時計】という神具が、私の想像と遥かに違った効果を持っていた事によって、大幅な変更を余儀なくされる。
この【積み直す砂時計】が呼び出す幻影は、あくまでも自分自身であるというのが、当初の想定であった。そういうつもりで、教会は用意してくれているだろうし、私もそうだと思って聞いていた。
しかしながら、この【積み直す砂時計】は、私が想定していた以上の代物だったのである。
そう、その効果とは、"並行世界線の自分を呼び出す"という効果だ。
並行世界線とは、自分が選ばなかった選択肢、それを選択した世界が別の世界には存在するという仮説の話だ。
たとえば私は【錬金術師】としての道を選んだが、世の中には【魔法使い】として成功する道を選んだという世界もあるという事だ。今回、私の前に現れたのは、『異世界転移』して『魔法使い』としての道を選んだ私であった。ここで重要なのは、あくまでも相手はそういう道を選んだ自分自身という訳だ。
『積み直す砂時計』は、そんな私であって、私ではない存在を別の所から呼び出したのである。
神具と聞いていたが、本当に神にしか作れないような性能である。
魔法使いになった私、ハイゲンと私は、もはや別の存在であった。あちらは別の世界に住んでいるし、そもそも職業が全然違いますし。しかしそれでも、ハイゲンは確かに私であり、彼と話す事で私は立ち直れたと言える。
それと同時に、私はハイゲンから新たな力について教わった。
別世界の自分から、新たな力について学んだのである。そして、その力を、私は【ビルドの間】で練習して、形にする事が出来た。
本来の目的とは違うとビルド神に怒られそうだが、彼は魔術の神様だ。そして、ハイゲンから教えて貰ったのも、魔術の力である。これも魔術の研究だと思ってくれれば、魔術を勉強している敬虔な信徒として理解して部屋を使わせてくれるに違いない。
いや、別にビルド神の事は何も思ってはないんだけれども。
ハイゲンから教わったその力の名前は、【職業力】。
私が生み出した画期的システムである【アルファ・ゴーレムサポートシステム】のように、あちらの世界でハイゲンが生み出した、世界を変える画期的システムらしい。
その前に、ハイゲンがいる魔法世界について簡単に説明しよう。
ハイゲンが居る魔法世界では、1つの問題が発生していた。
その問題とは、"魔法適正"。ハイゲンの世界では、魔法の才能は少なければ少ないほど良いとされていた。何故なら、複数の魔法属性に才能があると、それだけ才能が分類されるとされていたからだ。
例えば、Aという人間は魔法の才能値が100、Bという人間は魔法の才能値が200あるとする。この場合、どう考えても魔法使いとして優秀なのは、Bの方だ。
ところが、Aという人間が使える魔法属性が1個、Bという人間が使える魔法属性が10個だと、何故かそこで割り算が行われるのだ。Bという人間は使える魔法属性が多いせいで、1つの魔法属性で比べたらAという人間に劣る、というね。
それが、魔法世界の常識だった。
それを変えたのが、ハイゲンだ。
彼は魔法の才能値が100万というバケモノであり、魔法属性が1個。魔法世界の常識に考えれば、1つの魔法属性のみに才能が結集した、稀代の天才である。
しかしながら、ハイゲンは稀代の天才と呼ばれるよりも、自分には他の魔法属性が使用できないことを嘆いた。そこで開発したのが、【職業力】と呼ばれるシステムらしい。
このシステムは、別の魔法使いが使っていた武器などから、魔法属性を使えるようにするシステム。そして、武器を使い続ける事によって、その武器が持っていた魔法属性を自らも使えるようにするという、まさに画期的なシステムなのである。
ハイゲンはこの【職業力】を使い、本来持っていた魔法属性以外にも9つの魔法属性を手に入れ、合計で10個の魔法属性を使えるようになったのである。
それだけなら、このハイゲンが凄いなという話で終わったんだけれども、彼はその他にも厄介な事を発見したのだ。
そう、魔法属性が増えても、才能値は減ったりしないという事。
10個の魔法属性を手に入れたハイゲンは、魔法属性が10個になっても、彼の才能値10万は一切目減りしていなかった。
そして、それを堂々と魔法学会に発表した事で、ハイゲンは追放され、私のようなスローライフ生活を向こうの魔法世界で送っているという訳だ。
……まぁ、経緯はともあれ、この【職業力】という力は実に面白い。そう言う訳で、私はこの力を使って、色々と出来る事を考えたのだ。
まず、最初に試すべきは----魔法と言えば、勿論あの娘、だよなぁ~。
なにがダメだったか分かりやすく解説しましょう
今までの常識としては、
『1つのリソースを複数で分けると弱くなるよー』
とされていました
しかしながら、ハイゲンの研究によって
『複数でやってもリソースは弱くならない。むしろ色々使えるようになってお得』
という事が証明されたんです
そんなの認めたくない!!
という人達が、ハイゲンを追い出したという訳です
結論)根回しは大切だった。新技術には、それを認めてもらう下地作りが大事




