第315話 ススリアは懺悔をするようです配信(2)
神具【積み直す砂時計】は、自身の分身を作り出して語り合うという効果を持つ神の道具。自分の分身、つまりは自分自身と語り合う事によって、己を見つめ直すのが、この神具の使い方なのである。
しかしながら、話しているのは自分自身。自分の中にはない考えは、話す事は出来ないのである。
『分かっているでしょう? これは別の人と話しているのではなく、話しているのは自分自身。自分と話し合ったとしても、新しい考えは出て来ませんよ』
「出て来なくても良いんですよ。なにせ、今までの事を見つめ直して、錬金術師として再出発するつもりなんですから」
『なるほど。確かに、それなら他人よりも自分自身と話し合いたい案件ですね。他人に"錬金術師として再出発せよ"と言われても、説得力がないよね』
神具によって呼び出された分身の私は、『その通りだね』とそう語っていた。
『いまさら答えは出てると思うんだけれども、一応言葉として聞いておくね?
----今の生活は、前世よりも幸せかな?』
「分身とはいえ、私自身であるなら答えは既に知っているはずだよ。
----あぁ、とっても幸せさ」
そう、今の私は恵まれている。
錬金術師として多くの伝手も出来たし、ベータちゃんやガンマちゃんといった頼りになるゴーレム達も多い。前世よりも幸せなのは確かである。
『そう、それは何より。----そして、その上で君の誤解を解いておこうと思う』
「誤解……?」
なにを言っているんだ? 誤解、って何のこと?
この神具は、自分と向き合うために、もう1人の自分を幻影として呼び出す魔道具である。それ以上でも、それ以下でもないはずなんだが。
『初めに言っておくと、私は君の分身である。それと同時に、"君も知らない君自身"でもあるんですよ』
「なにそれ、哲学科なにか?」
どういう意味かと思っていると、もう1人の自分は懐から1本の棒のようなモノを取り出す。その棒は先端がクルっと回っているモノで、ゲームとかに出ていた魔法の杖のように見えた。
もう1人の私はその杖をひょいっと振るう。するとどうした事だろうか、もう1人の私の横に"炎で出来た妖精"が出現したのである。
その光景を見て、私は思わずこう呟いていた。
「魔法使い……」
『正解だよ、【錬金術師】の私」
彼は、魔法使いの私はそう答えるのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『私も驚いたよ。まさかいきなり呼び出されて何事かと思ったら、【錬金術師】として転生した自分自身と話す事になっていたとはね』
彼、【魔法使い】となった私が言うには、彼は異世界に転移して力を得た私なのだとか。【魔法使い】としてそれなりに頑張って働いていた所、急に意識だけ呼び出されて、今こうして私と話しているんだとか。
どうやらあの神具は、単にもう1人の自分自身を生み出して自分同士で語り合うモノなんかじゃあなく、別の可能性、別の人生を歩んだ並行世界線上の自分を呼び出すというモノだったらしい。
流石は、神様特製の道具。私が作る魔道具とは違う、破格の性能だと言える。
「まさか、異世界転移して【魔法使い】となった私が存在するとは……」
『なぁに。異世界転生して女に、そして【錬金術師】となった私が居るんだ。こういう可能性もあるべきだろう』
【魔法使い】の彼は、その世界では【ハイゲン】という名前を名乗っているらしい。異世界転移である彼は、私の前世での名前も知っているらしいが、教えない方が良いとあちらは思っているらしい。
『魔法使いとして初めに言っておくと、名前ってのは重要なモノだ。私の世界では、名前で相手を縛って支配するというモノもある。君が転生した際に名前を忘れたのも、なにか意味があることだと思うべきだよ』
「私が言うなら、そうだね。私もそう思う」
別に、考えるのが面倒になったという訳ではなく、同じ自分自身の考えだから納得できたのだ。私が必死に考えても、そういう結論になるな、と。
『私も、魔法使いとしていくつか失敗した事はある。初心を取り戻そうと、色々と試行錯誤した経験もある。並行世界の自分と話すなんてのはやった事はなかったけど』
「そうか。世界は変われど、同じ自分なんだな」
『こちらの世界は、そちらの話を聞くに、違いがあるとすれば神様との距離感かな? うちの世界の神様は遺跡とやらにその痕跡だけを残して消えており、それをなんとかするためにダンジョンをクリアしようとしたり、あるいはダンジョン内の謎を解いたりしているよ』
いや、距離感というか、こちらも少しばかり、いやかなーり近いんで困っているくらいである。
なにせ気付いたら、カンロ神様がうちで夕食を食べにくるような世界だよ? もう少し神様としての威厳というモノを見せて欲しいモノだ。
「あと、そちらの世界にあるかは分からないが、こちらは前世のリモート通信装置を利用して、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】というのを作っている。概要はこんなんだ」
『ふむふむ、なるほど。これはこちらの世界のゴーレム、魔法にも応用できるな。少し撮影魔法を使っても良いかな?』
「勿論。同じ自分自身でしょ? 遠慮はいらないよ」
『助かる』と、ハイゲンはそう言って撮影し始めた。
どうやらあちらの世界は、カメラすらないほど科学文明的なモノが遅れているらしい。あるいは、撮影魔法なんていう便利な魔法があるから、カメラがないだけなのかもしれないが。
『それでは、こちらはお返しに、こちらの世界で私が作り出した魔法を教えてあげますよ?
本来なら、お金を取るべき魔法なんですが、今回は同じ自分自身に対して、ね?』
(※)ハイゲン
魔法世界に異世界転移した、ススリアの姿。ススリアとは違い、男で、転移した際に『身体能力強化』『不老』『魔法力増強』など様々な特典を得ている
魔法世界において、魔法の権威とも名を馳せるも、魔法使い同士の足の引っ張り合いによって、国内最高峰の魔法研究機関を追放され、現在はススリアと同じく辺境でスローライフを送っている
神具【積み直す砂時計】によって、ススリアと話すために呼び出され、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の知識を得た。その後、魔法を自動発動して迎撃する、さらには自己進化して向上するシステムを開発して、魔法世界において確固たる地位を築くのであった
前々から不思議に思っていた事の1つに、
『主人公が異世界転生した世界』と『主人公が異世界転移した世界』の
両方があっても、良いんじゃないでしょうか?
異世界転生するような存在って、選ばれた人だと思うので
そんな選ばれた人ならば、異世界転移したルートもあると思うんです
これ、どう思いますか?




