第307話 死の森の妖精は騒がしい配信(2)
それから数日間。
『死の森』にて、ゼータちゃんと赤髪妖精は一緒に行動していた。正確には、ゼータちゃんの行動に、赤髪妖精が無理やり付きまとっているという形ではあったが。
『ほら、奴隷! これとか採りなさいよ、良い素材になるはずよ!』
「……はいはい、了解です」
赤髪妖精がテキパキと指示を出していき、ゼータちゃんは呆れた様子で素材を回収して行く。
ゼータちゃんを"奴隷"として呼んでいる赤髪妖精は、最初こそ彼女を敵視していたが、2日もすればこうしてテキパキと採取する素材を指示して来るくらいには仲良くなっていた。恐らく暇なのだろうと、森の中で誰とも話せなくて暇なんじゃないかなとゼータちゃんはそう考えていた。
『ほらほら、早く! 早く! この【闇蝶花】は羽が2回だけ連続で羽ばたい時に採取すると、薬効が最大になりますよ! 3回連続でも、4回連続でもなく、2回だけ連続したのを見極めないと!』
「……了解です」
横から口出ししてくる赤髪妖精に対して、彼女が追い払わないのは彼女が素材1つ1つについて、助言をくれるからである。
この『死の森』の素材は、ほとんどが一般には出回らない特殊な素材ばかり。当然ながら、どういった素材なのかという情報も少ないため、現地民|(?)からの協力を得られたのは嬉しい限りである。
花弁が蝶のようになっており、時折蝶が羽ばたいたかのように花弁が動く闇蝶花。それを赤髪妖精からの指示の元、2回だけ連続で羽ばたいたタイミングを狙いすませて採取する。
その横に、少しだけ模様が違う闇蝶花に良く似た【光蛾花】は、花弁が7回だけ連続で羽ばたいたタイミングがベストな採取タイミング。闇蝶花と光蛾花は結構似ているが、ゼータちゃんの瞳は的確にその2つを見極めて採取していた。
『ほぉ~、奴隷は凄いぞ! 闇蝶花と光蛾花は非常に見分けが付きづらく、間違えたら大変な事になってしまうというのに』
その事についても、ゼータちゃんは良く聞いていた。
そして、その間違えた結果も、見ていた。
闇蝶花と光蛾花の群生地にて、眠ったまま動けなくなっている妖精達の姿を大勢見かけた。彼らが、赤髪妖精のいう『間違えたら大変な事』になってしまった者達である。
闇蝶花は、2回だけ連続で羽ばたいたタイミングで採取すると薬効が一番高い。しかしながら、光蛾花と間違えて、"7回だけ連続で羽ばたいたタイミング"で採取すると、採取した人間はそのまま永遠の眠りにつく。死ぬのではなく、永遠に眠りについた状態で植物の苗床にさせられるのだ。その際、眠っている者は悪夢を見るとされており、だからこそ闇蝶花と呼ばれているのだ。
一方で、光蛾花も似たようなモノだ。こちらは光蛾花の名の通りに眠っている際に見る夢は吉夢、良い夢を見せると言われている。言われているのだが、どちらにせよ永遠に起きる事なく眠り続けるのだから一緒だろう。
羽ばたく回数も不規則であり、間違えると永遠に眠り続けてしまうという鬼畜仕様。だったら、『薬効が最大にならなくても良いから安全なタイミングで採取すれば良い』という意見もあるかもしれないが、その採取のベストタイミングこそが一番安全なタイミングなのだ。
ベストタイミング以外で採取すると、最低でも1週間は眠ってしまうという----それが、闇蝶花と光蛾花の厄介な所なのだ。
このように、この『死の森』においては、迂闊に採取すると危険になる素材が多すぎる。しかも、本来は眠る事を必要としていないゴーレムであるゼータちゃんですら耐性とか非生物だからというモノを無視して効果を発揮するのが、この『死の森』の恐ろしい所である。
だからこそ、赤髪妖精という仲間が教えてくれることが、ゼータちゃんにとって非常にありがたかった。
『ふふん、感謝しなさい! 私が教えてなかったら今頃、あなたはずーっと眠り続けるはずだったんだから!』
「感謝してます。……ここいら一帯の採取が危険な素材を教えて貰えて」
ゼータちゃんはそう言いつつ、『感謝しなさい!』とドヤ顔をする赤髪妖精を見つめている。彼女がゼータちゃんに構うのには何か理由がある事は分かっているが、どういう理由なのかは分かっていない。
なにせ、聞いていないのだから。
相手が話してくれない以上、こちらから聞くのはあまり良くない事だと、ゼータちゃんは思っていた。
「(寡黙な者、それがガンマンですから)」
クールでカッコいいガンマンは、無意味に騒ぎ立てはしない。それがゼータちゃんにインプットされているガンマン像なのだから。
そうこうしているうちに、ご主人様であるススリアから定期連絡を受けたゼータちゃんは、内容を確認する。
「なるほど。【ポータル】という能力で、モノを大きくするんですね」
『----?!』
その瞬間、明らかに赤髪妖精の態度が変わったのを、ゼータちゃんは感じた。しかしながら、それを聞く必要はないと感じて、ススリアの連絡を受ける。
ススリアからの連絡によると、【ポータル】という"モノの大きさを変化する移動手段"を得たという事なので、それを【アイテムボックス】で送り返して欲しいとの事であった。
「了解しました。すぐに送り返します」
ゼータちゃんはそう言って、ススリアが【ポータル】を使ってヘルメットを送ろうとするのを待ち構える。そんな中、赤髪妖精がそのヘルメットの中に入るなんて思いも知らず。
こうして、赤髪妖精はススリアの家へと
やって来たのでした~
ゼータ「えっ、これから1人で見極めろと?」
青髪妖精『よろしくな、奴隷!』
ゼータ「なんか、色違い出て来た……」




