第305話 悪事にも使える力に用心しましょう配信
チェンソーブレードを持っているフランシアさんと戦い、【スピリッツ】を色々と楽しませていただきましたよ!
私は今、酷く興奮した状態で、とある倉庫の中に居る。
この倉庫は、極地の素材を回収して転送する仕事を与えたゼータちゃんの転送先の倉庫である。生み出して僅か1週間くらいだが、既に派遣先である『死の森』から大量の珍しい素材が送られてきていた。
この倉庫にいるのは、これからする実験のためだが、それはそれとして。
いやぁ、やはりこの【スピリッツ】という力、恐るべき力だね!
【スピリッツ】は色々できる、まさしく万能と呼ぶべき力だったのだ。
『嵐の発生』、『氷の創造』とそれだけではなく、生み出した氷同士を反発させ合い作った『雷攻撃』、水分を【スピリッツ】で調整させた『雨降らし』、その雨を派生させた『蜃気楼作成』など、多種多様な能力を発現できた。
身体能力などの攻撃特化の【オーラ】も良いが、これはまた錬金術師魂が刺激される力である。色々と活用できるのが、私としては実に面白い!
そして、戦いの中で、私は【スピリッツ】のコツを掴んだ。
この【スピリッツ】の力は、反発の【オン】と引き寄せの【オフ】の2種類を使い分ける力だ。
つまりは----こういう事だ。
「【雨を降らせろ】」
私が【スピリッツ】を使って、特定の文字列を言うと、すぐさま目の前に雨が降り始めた。狙い通り、【スピリッツ】を使って、雨を降らせたわけだ。
2種類を使い分ける、それは前世の世界ではコンピューターを使ってやっていた事だ。【1】と【0】を使い分ける事で、画面に文字を出したりする訳だが、いま私は【スピリッツ】を使ってそれと同じようにしたという訳だ。
いまの【雨を降らせろ】というのを、【スピリッツ】を使って指示を出すと、こうなる。
【《〇〇×〇〇〇×〇〇×〇×〇〇×〇〇××〇〇〇〇×〇××〇×〇〇×〇××〇×××〇〇〇×〇〇〇×〇》】
この指示を、【スピリッツ】に対して毎回やるのは骨が折れる。だから、訓練によって、【スピリッツ】を使った状態のみ、文字列を言うだけで発動するようにしたという訳だ。
これで、【スピリッツ】の活用法が格段にやりやすくなった。私がただ【スピリッツ】を使って命令を下すだけで、あとは勝手に【スピリッツ】がやってくれるんだから。
「(まぁ、それでも火炎だけは作れなかったんだけれども)」
何でも出来る【スピリッツ】でも、何故か火炎を生み出すという能力だけは出来なかった。
雷を生み出す方が炎を生み出すよりも、よっぽど難しいと思うんですけれども。どうしても、そういう訳にはいかないみたいだね。
「さて、それじゃあメインイベントと参りましょうか!」
私はそう言って、【スピリッツ】を使った状態で、命令文字列を放つ。
「【ポータル】」
私がそう命令を下すと、目の前に不可思議な黒い穴が生まれる。その黒い穴に向かって、私はポイっと、とりあえず今さっき作ったばっかりの甲冑の兜を投げ入れる。
兜を投げ入れてしばらくした後、ゼータちゃんの【アイテムボックス】と繋がっている倉庫に、先程の甲冑の兜が落ちて来た。
「兜の内部に、入れておいた特殊文字を発見。つまり、転送は成功という訳だ!」
そう言って私は、"2回りほど大きくなった"甲冑の兜を見ながら、成功を喜んだ。
この【ポータル】は、不完全なる転送手段。この【ポータル】を使って放ったモノは、元の大きさ通りには届かない。
失敗と見る事も出来るが、同時に"その大きさの変更をこちらで指定できる"のなら、それは成功とも言えるだろう。
そう、私は【ポータル】を使っての、大きさ変更のタイミングも完全にマスターした。
これを使えば希少素材を大きくして加工量を増やすことも、一旦小さくすることで運びやすくする事も簡単に出来るようになったという訳だ。
「いやぁ、【ポータル】が凄いというか、【スピリッツ】が凄いというか」
どちらにせよ、この力は私以外には教えない方が良さそうだ。
【オーラ】は単純に身体能力の強化程度だから、道場の人達にも教えているけれども、この【スピリッツ】に関してはやれることが多すぎる。やれることが多いという事は、この力が悪人の手に渡れば、どんな犯罪も思うがままという事だ。
例えば、この【ポータル】を使って、人間やエルフなどを誘拐して奴隷にするなんてのも出来る。大きさを変えられるんだから、小さくして逃げられないようにする事も出来る。これは悪人に渡ってはいけない力である。
だからこそ、チェンソーブレードとの対戦の時も、敢えて嵐だの、雷だのといった、"天候に関連する能力"だと思わせるように、選んで能力を使用していたんだから。
「----まぁ、私もこの能力に飲まれないようにしないと」
悪人に使わせないようにと思っていても、そう思っている私自身が、この能力を悪事に使っては本末転倒である。
「なので、帰ってくれないかな?」
『嫌よ! ちゃんと私を上級妖精にしなさいよね、この奴隷王!』
私は、兜の中に入っていた妖精にそう問いかけるも、妖精はそう言って嫌でも帰りそうにはなかった。
----どうやら、あの兜の中に、生物が入っていたみたい。
妖精「ゴーレムに"ご主人様"と呼ばせてるヤバい奴の家はここね……!!」




