第296話 地域の事は地元ゴーレムに聞け配信(2)
----兎獣人達は、感動していた。
彼女達は、その生涯の全てを、自分達に新しい義足をくれたノワルーナ姫に捧げるその覚悟であった。
兎獣人にとって足というのは生命そのものであり、彼女自身がただの気まぐれでやった事であろうとも、ノワルーナ姫によって失った足は、新しい義足として戻って来た。だからこそ、私兵部隊の面々は一生涯をかけて、必ずや尽くして見せると決めていた。
そんな彼らが、ノワルーナ姫の事を忘れて見惚れてしまうくらい、その場所は素晴らしかった。
----その場所は、紫色の神々しい光を放つ結晶が大量に生えている洞窟であった。洞窟には多くの色とりどりの結晶が生えており、まさしく幻想的で動画映えするような場所であった。
そして、一番重要なのは、その入り口にその紫色の神々しい光を放つ結晶を加工して作られたであろう、女神像が置いてあったからだ。その女神像からは神聖なオーラのような物が流れており、近くにいるだけで体力が回復するような感覚がしていた。
「あーっ! やっかいな、ウサギさんたちだぁ!」
と、女神像に私兵部隊の面々が気持ちを奪われていると、先にこの洞窟に入っていたダヴィンチが「いっけないんだ! いけないんだぁ!」と、まるで子供のような態度にて私兵部隊を指差していた。
「あの、ダヴィンチさん。ここは一体……」
「ん? デルタのアネゴといっしょに、【レインボーエレメンタル】をサイシューしにきたどうくつだよ?」
【レインボーエレメンタル】という言葉を聞いた事がない私兵部隊が「なんだっけ? それ?」と、貰っていた書類を確認して行く。
そこには、詳しい産地は書かれていないが、この辺りで取れる素材の1つとして、【レインボーエレメンタル】の事が書かれていた。
【レインボーエレメンタル】とは、まさしくその名前の通り、虹色に光り輝く結晶である。魔力を蓄える事で色々な色を放つ結晶であり、赤・橙・黃・緑・青・藍 ・紫の七色になると言われている。この神々しい紫色の光を放つ結晶も、【レインボーエレメンタル】の1つと言えよう。
大事なのは、この【レインボーエレメンタル】は色ごとに用途が異なり、一度採取すると色を変える事が出来ないという事である。
魔力が一番通りやすいのは、赤色。それから橙、黄と通りにくくなっていき、紫色が一番魔力が通りにくい。そして壊れやすいのも赤色から順に壊れにくくなっていき、紫色が一番壊れにくい。
それぞれの色ごとに魔力の通りやすさと硬さが異なり、そしてどの色の【レインボーエレメンタル】にも価値があるため、どの色もそれなりの高値で取引されている。
しかし、そんな資産的価値よりも、兎獣人達は聞きたい事があった。そして、それを聞くのに、ダヴィンチは知らないと思い、隊長は奥で紫色の【レインボーエレメンタル】を採取していたデルタに声をかける。
「デルタさん! 1つ、質問して良いですか!」
「……良いですけど」
素材を早く回収したかったデルタであったが、マスターの命を頭に置いて、彼女達の質問を待つ。
「この結晶で出来た像の事なんですけど……」
隊長が指差すのは、紫色の【レインボーエレメンタル】を使って作られた女神像。その像を指差されたのを見て、デルタは質問の意図を理解する。
「それは、マスターが治癒神カンロ神様の許諾を得て彫った像です。カンロ神様の力により、ここは魔物が寄り付かず、さらに像に祈りを捧げると体力が回復するそうです。確か……そう、『セーブポイント』とマスターは言っていました」
デルタの話によれば、この洞窟は【レインボーエレメンタル】の宝庫である。
地殻的な問題か、魔力的な問題かは分からないが、採りすぎさえ気を付ければ【レインボーエレメンタル】が七色とも、何度でも採取れる不思議な洞窟。
この洞窟を【レインボーエレメンタル】の採取場所として利用させてもらう事にしたススリアに対して、結晶を使って自分の像を作って欲しいとカンロ神様がお願いしてきたそうだ。
その結果できたのが、入り口近くにカンロ神様の像が置かれた洞窟、という訳である。
「隊長、これは……」
「えぇ、ここ以上に皆の魅力を惹きつける場所はないかと」
「私もここで配信を開始すべきと、打診します!」
デルタ達にとっては、ただの珍しい素材が取れる洞窟に過ぎない。
しかし、兎獣人達にとっては違った。この洞窟は、神様自らが彫って良いと許可を出した像、その像によって神聖なる気が満ち溢れたベストスポットとなっている。
神様の形の像が、【レインボーエレメンタル】の魅力を最大限に引き出し、心地いい魅了効果を出していると言って良いだろう。
「「「「(ここなら、動画映え最高でいける!)」」」」
ただ映えるだけではない。
デルタの話によれば奥に進むほど強い魔物が居るらしいのだが、この像に祈れば体力が回復するとなれば安心な訓練場の役割も出来る。さらには、良い感じの観光的スポットとしても、この地は最高だった。
兎獣人達の予想は大いに当たり、この【レインボーエレメンタル】の洞窟は、その後、【カンロの洞窟】と名付けられた。そして多くの冒険者達、そしてカンロ神様の加護を欲する信徒達に、大人気のスポットとなったのである。
配信で有名になるのって、こういう
素敵な映像を見て話題になるのも1つの方法だと思ってます




