第294話 兎獣人達は戦いに挑むぞ配信(2)
「……参った。弱すぎる」
ヴォルケーノリザード狙いで、岩山へと辿り着いた私兵部隊。そしてヴォルケーノリザードと戦った私兵部隊であったが、当てが外れてしまった。
----弱い、弱すぎる。全員一撃、それどころか余波でもヴォルケーノリザードは敗北れてしまうのだ。あまりにも弱すぎて、映えるどころかちゃんと撮れているかも怪しいレベルである。
「隊長! これでは冒険者を誘致するのは難しいです!」
「あまりにも呆気なさすぎて、この辺りのヴォルケーノリザードが弱すぎると思われる可能性があります!」
「ヴォルケーノリザードではなく、下級のロックトカゲに思われる可能性が高いです!」
隊員の言葉に、隊長はその可能性が高いと頷いていた。
自分達私兵部隊は、王国で訓練を行っているから普通の兎獣人よりも強い。しかしながら、そんな事情は配信を見ている人達は知らない。いくら自分達がめちゃくちゃ鍛えていると語っても、嘘を吐いているようにしか見えないでしょう。
視聴者がこの動画を見て感じるのは、『パワーで劣るはずの兎獣人の攻撃で、簡単にやられる岩のような肌を持つトカゲ型の魔物』という事。そのような感じにしか、視聴者は感じてくれないだろう。
いくら、これはヴォルケーノリザードという世間一般的に見たら強敵を倒していたとしても、視聴者の中には「これはヴォルケーノリザードではなく、良く似たロックトカゲなんじゃないか?」という意見も出てくるはずだ。
ロックトカゲはヴォルケーノリザードに良く似た魔物ではあるが、岩のような鱗はヴォルケーノリザードと比べる必要もないくらい脆い。正直、ゴブリンやコボルトと同じくらいの弱さで、初級冒険者が倒せるくらいの弱さだ。
ヴォルケーノリザードが居るとなれば、一部の冒険者達はこの辺境イスウッドに拠点を移すことを検討する可能性がある。しかしながら、ロックトカゲとなると、その可能性は激減する。
近くにも居る、その上倒したとしてもそれほど高値では売れない。そんなロックトカゲでは、わざわあ辺境イスウッドにまで来てもらう事は難しかった。
「私達がここまで強くなっているとは……想定外でした」
「いつも、王国軍の兵士と相手しているだけですからね!」
「魔物相手との対決なんて、年単位でやっていませんよ」
「強い事は良い事ですが、強すぎるのもマズいですね」
私兵部隊の誤算は、自分達があまりにも強くなりすぎた事。まさかこれほどまで自分達が強くなっており、ヴォルケーノリザードがここまで弱いだなんて、思いもしなかった。
「ここは方針を変える必要がありますね。ヴォルケーノリザードよりも、強い敵だと分かっていただかないと」
私兵部隊の目的は、このイスウッドが魅力的な土地である事をアピールする事。この地でしか倒せない魔物、それも倒せば高額査定になるような魔物が居れば、それが望ましい。
冒険者の多くは、一獲千金を夢見ている。いつ倒れてもおかしくないのが冒険者であり、それと同時にいつかは強大な魔物を倒して大金持ちになるというのが冒険者である。
冒険者を勧誘するのに一番の特効薬は、その"いつか倒せれば大物になれるという"『可能性』。
いつか、上に行ける可能性があるという将来がある。そういう将来があるからこそ、冒険者はその拠点で頑張ろうという意思が芽生えるのだ。
わざわざ、王都から離れた辺境に来てもらうのだ。そういう夢を見させなければ、冒険者はこの地に来ないだろう。
「とりあえず、この岩山に他に魔物が居ないか確認をしてください。もしかすると、ヴォルケーノリザードよりも動画映えしそうな魔物が居るかもしれません」
「「「「了解っ!!」」」」
こうして、隊長の命により、隊員達は渡された資料を詳細に見て行く。無論、隊員任せにする訳にもいかないため、隊長も同じように見て行く。
「隊長! 【ジュエルバード】が居るらしいです! 身体自体が宝石な彼らなら、動画としても綺麗かと!」
「あの鳥は、普通の宝石よりも脆い。倒して落ちたら宝石が粉々になっている可能性が高いですし、本来の生息域はこの岩山ではありません」
「隊長! この【腐乱山羊】はいかがでしょう? 高級なプリンとかの材料になるとありますよ!」
「高級なのは良い事ですが、腐乱山羊は大人しい山羊です。動画映えはしないと思います」
「隊長!」「隊長!」「隊長!」「隊長!」「隊長!」
「全て却下です。どれも動画映えしない、もしくは冒険者の将来を魅せるには足りません」
----打つ手なし。
その結論に、私兵部隊が辿り着くのに、そう時間はかからなかった。
資料自体は普通に良い。イスウッドが他の拠点と比べると、特別劣っているとかもない。岩山の他の場所に行けば、強い魔物も居るし、高価な素材もある。
しかしながら、私兵部隊の目的である"冒険者に夢を見させて、このイスウッドに移ってもらう"という点においては、良くなかったのである。
どうしようかと私兵部隊が悩んでいると、
「あれは……」
素材回収に来ていた、デルタちゃん達を見つけるのであった。
兎獣人達は、手掛かりを見つけたようです!!




