第291話 冒険者、はじめました配信
タノタノ王国の辺境イスウッドに、冒険者ギルドが誕生した。
イスウッドの真ん中に作られた、3階建ての建物であり、イスウッドの冒険者となるために、初日にも関わらず多くの者が冒険者登録をするために、ギルド内に入っていた。入っていたのはノワルーナ姫の私兵である兎獣人達、シュンカトウ騎士団の兵士達、教会所属の武闘神ミリタリ神の信者達の3グループの面々。全員が、戦闘に自信がある者達であった。
ノワルーナ姫の私兵達は、ノワルーナ姫が格安で奴隷として雇い入れ、義肢を与えられた兎獣人達である。彼女に対する忠誠心は非常に高く、王国の騎士団仕込みとして戦闘能力も非常に高かった。
シュンカトウ騎士団の兵士達は、イスウッドの道場にて訓練をしている兵士達、その中の数十名が参加した。彼らは道場で学んだ訓練の成果を見るために、いわば実践練習と称してこの冒険者になるべく来たようであった。
教会所属の信者達は、武闘神ミリタリ神を崇める者達だ。彼らは武闘神ミリタリ神の加護によって、筋肉が付きやすく、戦闘系統のスキルが上がりやすいというボーナス状態に入っている。そんな彼らは、ミリタリ神からさらなる加護を得るために、冒険者登録しにやって来たという訳である。
多くの者達が冒険者登録を待ちわびる中、遂にギルド長が姿を現した。冒険者ギルドのトップであるギルド長にして、この辺境イスウッドの領主を勤める事となったノワルーナ姫その人である。
「皆様、この度ギルド長に就任しましたノワルーナ・タノタノです。皆様の力によって、このイスウッドを盛り上げていきましょう!」
「「「「はいっ!!」」」」
ノワルーナ姫の力強い発言により、兎獣人達が賛同の声をあげていた。他の冒険者達も、ギルド長の力強い発言に好感触の様子である。
「では、この冒険者ギルドの説明を簡単にしておきます。簡単に言いますと、今から皆様にお渡しするのは、このイスウッド近辺で取れる素材を簡単にランク分けしたモノになります。高ランクなモノほど、効果は高いですが、その分入手難易度も桁違いに高くなっていますので、自分のランクにあったモノを選んでください」
ノワルーナ姫はそう言って、『イスウッドで取れる素材リスト』と銘打たれた書類を、それぞれ配って行く。書類自体に限りがあるからなのか、それぞれのグループの代表に1組ずつ渡していく。
その資料は、ノワルーナ姫がススリアから情報量として買い取ったモノだ。かなり値が張ったが、そもそも情報には価値があるモノだから仕方あるまい。まぁ、ススリアも洗脳したお詫びとして、通常の8割ほどの値段で提供しているため、それほど高すぎる買い物ではなかったが。
兎獣人達は、まずは情報を精査する……どの素材から狙っていくのが良いかを考え始める。彼女達はノワルーナ姫の力になるため馳せ参じた私兵であり、このイスウッドにはそもそも縁もゆかりもない人物ばかりだ。何があるかを、まずは検討し始め、その中で自分達が狩れる獲物の中で高ランクのモノを狙っていくという方針であった。
シュンカトウ騎士団の者達は、1人を除いて早速狩りへと出発した。1人はこの場に残って得られた情報を出発した者達に送るという戦法である。場所によっては、今すぐ出発しておかないと辿り着けないであろう場所があるため、彼らは先に現地へと向かい、残った1人は通信役としてサポートするというスタイルで行動を開始するみたいであった。
教会所属の信者達は、書類すらマトモに見てはいなかった。彼らにとって、重要なのはどれくらい強い相手と戦えるかだけであり、素材として有用かどうかよりも、強いかどうかそれ一択なのだから。「危険で凶暴な魔物」と書かれていたページだけ抜き取って、早速戦いに向かっていた。もはや、素材を取って帰る事すら覚えているかも怪しいレベルである。
そんな様子を見て、ノワルーナ姫は良い調子だと判断した。
実は、この冒険者登録の様子は、配信によって生中継してある。本物の王族が行う配信として、その前からかなりの注目度もあげておいた。
足を失った兎獣人達を大量に雇い入れて私兵にしたのも、彼女達を救うという面もあったが、こういう時に注目してもらえるという面もあったからだ。
「(後はしばらくしてから、皆がどういうモノを冒険者として持って来たかを鑑定する動画をあげる。そうすれば、冒険者として伸び悩んでいる人達も、この動画を見てイスウッドに来てくれる可能性もある)」
さらに、私兵の1人には、主観視点で戦う様子を配信でアップできるようにカメラ付きのヘルメットを被らせてある。魔物を倒す映像はかなりショッキングかもしれないが、これくらいインパクトのある映像を出せば、反響も大きいだろう。無論、嫌いという人は嫌いかもしれないが。
「(それでも良い。その映像を嫌う100人よりも、その映像を見てこの街に興味を持ってもらう1人を誘い込めればいい)」
最終的にはその100人も、自分に興味を持ってもらうつもりで、ノワルーナ姫は行動を続けるのであった。
新生ノワルーナ姫は、有能!
もう一度言います! 新生ノワルーナ姫は、有能!
……やはりあの時、洗脳したのは間違いではなかったんですよね




