第290話 ノワルーナ姫の私兵がやって来る配信
「すまない、錬金術師殿。ここに我らが主、ノワルーナ姫が居ると聞いたのだが?」
3日後、私の家にノワルーナ姫の私兵の団体がやって来た。
ノワルーナ姫の私兵は、垂れ耳の兎獣人の兵士である。前世の知識風に言えば、ロップイヤーとか呼ばれる耳をした兎の獣人である。
私の前には190を超える歴戦の面持ちの隊長兎獣人さん。そしてその後ろに、同じく戦場を駆け抜けて来たであろう兎獣人十数名が控えていた。
この世界で兎といえば、【首狩り兎】と呼ばれる戦闘狂のイメージが強く、普通の兎獣人はその愛らしい容姿とは裏腹にかなり戦闘好きな者が多い。
兎獣人といえば彼らの性格を表した、こういう言葉がある。
----彼らの感情は、戦いを通して発達していく。
----狩りを通して、彼らは喜怒哀楽を知る。
----狩りの成功による"喜び"。
----獲物を盗られた事による"怒り"。
----狩りの失敗による"哀しみ"。
----そして、獲物をじわじわと追い詰めていく"楽しさ"。
----彼らは根っからの狩人なのである。
そんなヤバすぎる一面を持つ兎獣人の中でも、ロップイヤー系の兎獣人はかなり温厚な者が多い。知能がかなり高く、普通の兎獣人のように戦闘を楽しむ一面もあるが、それ以上に罠を張って効率良く獲物を獲るという知略家な一面もある。
そして彼らは、一度受けた恩義は決して忘れない。そして屈辱も永遠に忘れない。丁寧に接すれば忠実なる下僕として忠義を尽くすが、適当に接しているとその旨を敏感に察知してだんだん離れて行く。
「(あのキツイ言い方をしていたノワルーナ姫の私兵が、ロップイヤー系の兎獣人とは……驚いた)」
あのキツイ言い方をしているなら、普通ならこんな辺境イスウッドまで来ずに、そのまま帰ってしまうだろうと、私はそう思っていたのだが、ノワルーナ姫とこの私兵達には確かな絆があるらしい。
その証拠が----"足"だ。
跳躍力が自慢の兎獣人にとって、足は何よりも大切だ。他の獣人族と比べるとパワーが劣る分、強靭な足腰によるスピードと跳躍力こそが、兎獣人の武器なのだから。
しかし、私兵の皆さんの足は、全て"義肢"である。自前の足を両脚とも持つ者は誰も居らず、全員がどちらかの足、もしくは両方の足が義足という集団であった。
「(そう言えば、兎獣人って好奇心旺盛な性格という側面もありましたね)」
恐らく、本当は入ってはいけない危険地帯に入り込み、何らかの理由で足を切断する羽目になった。足を失った兎獣人は、群れの中から孤立していき、最終的には見捨てられる。だいたいが、奴隷落ちって所でしょうか?
それを、ノワルーナ姫がどういう理由だか拾いあげ、全員に代わりの足、つまりは義足を与え、私兵として重用しているという訳、ですかね。
「ノワルーナ姫がご迷惑をかけているとしたら、申し訳ありません。悪気がある訳ではありません、ただ言い方を熟知されていない方なのです」
ぺこりと、さりげなく仕えているはずのノワルーナ姫を、最初にあいさつした隊長兎獣人が謝罪する。すると、着いて来ていた他の兎獣人さん達も謝罪のために頭を下げる。
「あぁ、ご丁寧にどうも。どうぞ、こちらに」
「ありがとうございます。それでは……皆、一時休息を取れ! 私は、錬金術師殿に話を伺う事とする!」
隊長兎獣人の言葉に、着いて来ていた兎獣人達は1人、また1人と、休息を取り始めた。
座ったり、水筒を飲み始めたり、あるいは牧拾いをしようと他の人に声をかけている者もいる。手際が良くて何よりだが、あそこのテントを張ろうとしている人は止めてくれ。人の家の前に、テントで陣取ろうとしないで欲しい。
「どうぞ、こちらへ」
「ありがたい」
こうして、隊長兎獣人さんに家の中へと入ってもらう。
入ってもらい、ノワルーナ姫を解放。
「キャロット、出迎えご苦労様」
「姫様! 敢えて嬉しいです! あと、キャロットではありませんが」
隊長兎獣人と感動の再会めいた事をした後、ノワルーナ姫は私の顔をじっと見つめる。そして、一言----
「ススリアさん。この度は、私の無知を晒してしまい、申し訳ございません」
「姫様が?! 謝った?!」
「嘘でしょ……」と、感情が消失するような表情で、姫様を驚きの表情と共に見つめる兎獣人隊長。その後、ガンマちゃんによって洗脳済みのノワルーナ姫は、つらつらと自分の非を認める発言をする。
「私は焦っていました。この辺境イスウッドには、可能性がある。そして私にはこの私兵である兎獣人を養う責務がある。だからこそ、"辺境だからと言ってのうのうと仕事せずにのびのび暮らそうとしているぐーたら女"であるススリアさん、あなたが許せなかった」
……あれ、これって本当に洗脳済みなのかな? めちゃくちゃ罵倒されているんですけれども。
「しかし、あなたの立場、あなたの考えを理解しようとせず、一方的に条件を突きつけるなど、姫としても、"どちゃくそ権力を無駄遣いしているだけの能無し"と同じ王族としても、許される行為ではありませんでした。今度は、こちらから発注にかかる代金、そして無理のない計画と共に、何度か話し合いながら、お互いに信頼関係を作って行きましょう」
「信頼?! 我らが姫が、ぜんぜん持たなかった概念を言葉に?!」
わらわらと震えている隊長兎獣人の首根っこを掴んだ、ノワルーナ姫。
「ほら、さっさと行くわよ、この"勝手に志願して置いて、いざとなったら逃げだした腰抜け"! このイスウッドを盛り上げるのは私と、"働きもせずにブクブク太っていたから、無理矢理鞭で叩き直されたアホ女"!」
「はっ、はい! たっ、ただちに!」
そう言って、ノワルーナ姫は、隊長兎獣人と共に、イスウッドの村へと帰って行くのであった。
……というか、あの隊長っぽい兎獣人さん。女性だったんだ。
今回の兎獣人は、全員ロップイヤーです!!
あの垂れ耳、すっごく可愛くて私は好きです!!




