第286話 姫様の無茶ぶり案件配信
「とりあえず、そうですね。錬金術師ススリアさんに依頼します。
----宿屋と酒場、それと娼館。1週間以内に5軒ずつお願いしたいのですが」
人の姿をした屑である、ノワルーナ姫は私にそう提案してきた。こちらは、「なにかあったら、遠慮なく頼ってください」とか言ってもないのに、なんで私が手伝う前提でこの人は言っているんでしょうか?
「私が思うに、街が発展するのに必要な重要施設は3つ。寝る場所・食べる場所・発散する場所の3つです。人が集まる場所ってのは、だいたい人の欲望が集結している所だと思うんです。"顔が良いだけのアホクソ野郎"でお馴染みの国王も、街が発展するにはそうするべきだと言ってましたしね。
そして、その上で冒険者ギルドを作る。まずは呼び水として私の配下である冒険者達、それに"他国なのに我が物顔で居座る戦馬鹿"であるシュンカトウ騎士団、それにゴーレム達の力を借りて、この地に伝説を作る。すなわち、『このイスウッドは稼げる土地である』という噂と証拠を!
そうすることで、"一獲千金を夢見るアホ共"を呼び込めれば、人が増える! 人が増えれば落とす金も増えて、活気も増える!
てな感じで、宿屋を管理するゴーレム達がいる『宿屋』。美味しい料理をいつでも出してくれる『酒場』。そして命の危険を忘れてくれる美女達揃いの『娼館』。この3種類を、1週間以内に5軒ずつお願いします。
----お金? この偉大にして、高貴にして、この世界を背負って立つことが確定な私の手伝いが出来る。その上で、街が発展する事で落ちるお金も増えるから、大助かりなのでは? もちろん、取り分はいっぱい頑張ってくれるんだから、5:5の半々にしてあげるわ。悪くない取引じゃないかしら?」
こいつは、何を言っているんだろう?
怒って殴り掛からなかった私を褒めても良いくらいの、クズっぷり。
ノワルーナ姫が提案したのはそういう願いであり、私は何を言われてるのか、本当にまるで分から鳴った。
ノワルーナ姫の提案は、正しいと言えば正しい。
私の事情をまるっきり分かっておらず、王族である自分が偉い上位存在である事が前提の言い草。私は作り笑顔を浮かべながら、「もう少し、ちゃんとした計画を作ってからお願いします」と言って断るだけでも、聖人君子みたいな対応だったと思う。
冒険者ギルド、そして冒険者ギルドが魅力的だと思える実証という名の噂作り。
増えた冒険者に対応する『宿屋』、『酒場』、そして『娼館』の設置。
「そんなのがぽんぽん出来たら、どこでも発展するっての!」
家に戻ってからも、あのノワルーナ姫の、こちらの事情を何にも考えていない言い草に、私はイラついていた。あぁ、無性になにか壊したいぞこれ! 破壊衝動が半端じゃないんだけれども!
砂漠の真ん中に、人工のオアシス作るようなモノだぞ! そりゃあ、どんなのだって発展するに決まってるじゃないか!
「巨匠、落ち着いてください」
「マスター、気持ちは十分わかります。いまから特攻かけます」
「デルタ、ご命令があれば今すぐ【オーラ】を使って、塵すら残さず特攻かけますが?」
「デルタのアネゴがいくなら、わたしもいくっ!」
「無論、俺も行くに決まってるッスよ!」
うちのゴーレム達も、私の怒りを理解して、かなり怒ってくれている。落ち着かせようとするガンマちゃん以外、4人ともあのノワルーナ姫を倒す事大前提の様子だ。
特攻をかけようとするベータ、【オーラ】を使ってぶち倒そうとしているデルタ、そのデルタと共に戦おうとしてくれるダヴィンチとアレイスター。全員が、私が今すぐGoサインを出したら、すぐさま突っ込んじゃいそうな勢いである。
「それも、アリかもなぁ……」
あの姫様は死んでも変わらない気がする。
自分が上位の存在だからこそ、下位のこちらに何でも命令して良いと思っている雰囲気がある。私の前世の知識だと、そういう上の者だけが得をしないようにするために、『下請法』という法律があったはずだが、この世界には恐らくないだろう。あの法律さえあったら、こんな上に立つ者だけが得をする事なんてないはずなんだが。
「あぁ、本当にムカつくなぁ……」
「落ち着いてください、巨匠」
こんな状況であろうとも、私に落ち着くことを強いて来るガンマちゃん。そんなガンマちゃんに他のゴーレム達が、非難の目を向ける。「なんで1人だけ、空気を読まずに落ち着かせようとしているんですか?」みたいな、非難の目である。
「皆さん、私は巨匠に落ち着いて貰おうとは思ってます。
----ただ、お姫様を許す、なんて事は一言も言ってないんですが?」
そんなガンマちゃんの言葉に、ゴーレム達、そして私ですらゾゾっと、寒気を感じていた。
私達の怒りが表面的な怒りだとしたら、ガンマちゃんは心の底に押し殺して怒っている。自分達が、いかに低次元で怒っていたのかなんて思うくらい、ガンマちゃんはめちゃくちゃキレていた。
ガンマちゃんは怒っていた。
一周回って、怒ってるのが分からないくらいに、それくらい怒っていた。
「巨匠、そのお姫様と『おはなし』させてもらいませんか?」
ゾゾっと、そんな雰囲気を纏わせ、ガンマちゃんはそう私に提案して来るのでした。
ノワルーナ姫は、頭が悪い訳ではありません
ただ、王族として、こう言うのが正しいという
間違ったやり方をしているだけです




