第275話 狩猟のドン・デーロが仕掛ける勝負配信
「これより、新生ハンドラ商会に対して、狩猟のドン・デーロによる特別戦第2幕を開始したいと、お・も・い・ま・す♪」
ミリオン商会長、ディゼル・ハンドラを始めとした商会幹部など、新生ハンドラ商会の中枢を担う新生ハンドラ商会本店。
その入り口前に、数人のマージ・マンジ達と共に、狩猟のドン・デーロは現れた。その悪魔は、前会長のシベリア・ハンドラ会長の姿を奪ったその悪魔は「ゲームをしよう」とそう現れたのである。
「----戦闘部隊、前へ」
「「「「はっ……!」」」」
ミリオン商会長の言葉と共に、商会内からソラ副会長と共に、数人の武装兵が現れる。
ソラ副会長と共に現れた武装兵たちはミリオン商会長が雇い入れた正規兵。金で雇っただけの傭兵ではなく、その武力目的で新生ハンドラ商会の商人として雇い入れた者達である。立場上は新生ハンドラ商会所属の商人ではあるが、こういう場合は戦闘員として重用される者達だ。
彼らはこの商いの国シュンカトウ共和国においては、はぐれ者。商いではなく武芸の道へと進んだ彼らは、この商いの国においては居場所がほとんどない武芸者たちであったが、そんな彼らをミリオン商会長は正規の商会員として雇い入れた。
そうすることで、このシュンカトウ共和国でも居場所が確保でき、なおかつ家族にも「正社員として雇い入れられた」と喜ばしい報告をあげられるので、武芸者達からの評判は良かった。
そんな彼らは、自分達を雇ってくれたミリオン商会長に恩義を感じ、しっかりと訓練し、今では盟主パファーがいる城の騎士団よりも強いと噂だ。
そんな正規兵たちは、一糸乱れぬ動きで、サッと現れ、ドン・デーロとマージ・マンジ達を包囲する。
そんな武装兵達の姿を見て、ドン・デーロは「へぇ~」と感心したような声を出した。
「なるほど、簡単には狩られないように武装兵を雇い入れた訳、で・す・か」
「えぇ、ススリア大社長の偉大なるお知恵を拝借しました」
偉大なるお知恵……ミリオンはそう言っているが、実際ススリアが言ったのは「兵士を正社員として雇う事で、いざという時に戦いに出せば良いんじゃない?」という、それくらい軽いノリでの提案であった。ススリアもその場のノリで言っただけなため、もう既に覚えていないような出来事だった。
「へぇ~、商会が武装しているだけでも、立派に見えま・す・ね」
「御託は良い! ゲームとはなんだ!」
ソラがそう力強く言うと、ドン・デーロはパンパンッと手を叩く。何か仕掛けるんじゃないかと、武装兵たちは行動を開始する。
手にしていた得物で、マージ・マンジ達に斬りかかる。この場合、勝手な行動をとるなと、ソラ副会長は止める立場なはずだが、彼女も武装兵達と共に打って出たため、ミリオン商会長は「あちゃ~」と言っていた。
「(軽率すぎる! それで爆弾でも使われたら、どうするつもりだ! 空のように、もっと広く状況を見定めないと!)」
ミリオン商会長がそう思う中、マージ・マンジ達は何もすることなく、すーっと消えて行った。
しかし同時に、その時に発生された煙と共に、ドン・デーロは正規兵たちの包囲網から抜け出ると、額から映像を投影する。
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新生ハンドラ商会対戦 特別戦第二幕 種目;陣地防衛線
対戦者; 狩猟のドン・デーロ
挑戦者; 新生ハンドラ商会
対戦者側勝利条件;
ミリオン商会長の記憶を奪う事
挑戦者側勝利条件;
ミリオン商会長の記憶を奪う事を阻止する事
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「記憶を奪う……?」
映像として映し出された文章に、ミリオン商会長はそう言って反応する。
「えぇ、私は記憶を司る悪魔ドン・デーロ。他者の記憶をコピーして奪い、それを他者に植え付けたり、あるいはマージ・マンジ達のように実体化する事が出来る悪魔。
ただいま、私はそこにいるミリオン商会長の記憶を奪うため、そちらの商会員の1人を誘惑しました」
----ざわっ!
本部の人達が騒ぐ。自分達の中に、ドン・デーロの言葉に乗って、手先にされた商会員が居るのだと。
人材監査役であるディゼル・ハンドラは、すぐさま他のメンバーと共にその商会員の特定に入る。いまこの場に居ない人物が、あの悪魔の囁きに乗ってしまったのだと。
「その商会員さんは、非常に協力的でした。まぁ、そういう風になるように、恐怖心を煽り、私の言葉が気持ちよくなるように伝えただけです・が・ね♪
そして商会員さんには、『ミリオン商会長の記憶を奪って自分に写し取れば、幸せになれる』という暗示をかけました。もっとも、悪魔の言葉を聞いた商会員さんをあなた達がどう扱うかは別として。
商会員さんは、あなたの記憶が目当てです。いまも、それを狙っています。
私はその商会員さんと取引をしました。商会員さんが記憶をコピーして来れば記憶を経験値として受け取らせて、ミリオン商会長のような"放送で人に売り込むスキル"を授ける。そして、その裏で、私は、ミリオン商会長の記憶をもらって、さらに良い狩りをする。私と商会員さんはWIN-WINの関係です。
私があなたの記憶を奪って、どうするのか?
そうなったら、この国はどうなるのか?
-----滅ぼしますよと言う言葉を、あなた方はどう受け取るのか?」
ドン・デーロはそう恐怖心を煽るように言うと、そのまま消えて行く。いや、去って行くのだろう。
もう既に、ゲームは始まっているとばかりに。
「さぁ、新生ハンドラ商会の皆様。勝負しましょう。
ミリオン商会長の記憶を守る、陣地防衛線を」
こうしてドン・デーロは煽るだけ煽って帰って行き、そしてディゼル達の調べで、ドン・デーロの誘いに乗ったのはノルカ・ブックマンである事が分かった。
その行き先に、ミリオン商会長の記憶が保管されている【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の魔道具本体があるため、ミリオン商会長は応援を頼んだのだ。
ススリアに、自分の記憶が保存されている魔道具本体を守って欲しい。そういう風に。
狩猟のドン・デーロが仕掛けるゲーム!!
こういう、ゲームを仕掛けて来る相手って、
本当に厄介ですよね




