第274話 辺境イスウッドのノルカ配信(1)
ノルカは、新生ハンドラ商会に対して、長期の出張を申し出た。
出張の目的は、タノタノ王国の王都セントールに行って、色々な取引先を巡ると、新生ハンドラ商会にはそのような目的だと伝えていた。しかしながら、ノルカの真の目的は、セントールに行く途中に寄る事になる、辺境イスウッドにあるとされる【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の魔道具本体。
そこに、狩猟のドン・デーロが押し付けて来たこの短刀を突き刺すというのが、ノルカの目的である。
正直な話、ノルカはドン・デーロの事を信用していない。相手は悪魔であり、魔王ユギーの五本槍という極悪人。絶対にこちらに対して、言っていない事があり、それを使って何か良からぬ事を考えているに違いない。
しかしながら、商売に置いて、常に相手が誠実とは限らないのは事実である。良い商品を作っているからと言って、良い人間とは限らないように、常にこちらを出し抜こうとする良からぬ者が居るのは事実。
誠実なだけでは、商売人としてやっていけない。
他人に清くあるという誠実さ、そして他人の悪い部分をも飲み込む不誠実さ。清濁併せ吞んでこそ、商人足りえると、ノルカはそう思っていた。
「(悪魔の力を借りるのはどうかと思いますが、これは新生ハンドラ商会を守るため!)」
ノルカはそう自分を奮い立たせながら、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の魔道具本体がある場所を地図上から探していた。
【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の魔道具本体が、どこにあるかはススリアからは聞いていない。錬金術師ススリアにおける飯のタネみたいなものだし、それは仕方ないと思っている。
しかしながら、予想は出来る。
「シベリア会長の記憶には、ススリアの事もあった」
シベリア会長と、錬金術師ススリアが会ったという事はない。
しかしながら、一番のライバル商会でもあったドラスト商会のキーマンでもある錬金術師の事を、シベリア会長はこっそりとマークしていたらしく、個人的に調べていたというのが、記憶を読ませてもらって判明した。
錬金術師ススリアは、社会に価値を見出さない、合理的な人物である。
それがシベリア会長の記憶にある、ススリアという錬金術師の人物像。
彼女が作る魔道具、そして辺境イスウッドという田舎暮らし。そして、彼女の配信の様子。
いくつかの証拠により、彼女はそう言う人物であると、結論付けていた。
「という考えの元、錬金術師ススリアが【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の魔道具本体を置いた場所を推理する」
まず、第一にこの辺境イスウッドの近くにある事は確かである。合理的な人物像からして、あまりにも遠く離れた場所に置いて放置するのは非合理的。なにかあった時にメンテナンスや確認作業を行うために、このイスウッドの近くにある事の方が合理的だから。
続いて、街周辺も消える。本来であれば、そのような貴重な魔道具は、セキュリティーのしっかりとした施設を利用するのが一般的。しかしながら、社会に価値を見出さない田舎暮らし万歳な彼女の性格を考えると、この街の施設にそこまでの信頼を置いていると考えるのは不自然。
「とすると、候補は山ですね」
シベリア会長の記憶という名の経験則から、ノルカはある程度目星を付けて行く。
うっかり何も知らない冒険者などが立ち寄らないように、ダンジョンや街道などから離れた場所。
地滑りなどが起きた際に埋まらないように、予め斜面を均してある場所。
そういう所になるように探っていった結果、ノルカは一つの場所が怪しいと睨んだ。
「ここに、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の魔道具本体が!」
ただの洞窟の穴のようにしか見えないけれども、私には分かる。
これは人の手が入った人工の穴----こんな風に、自然とできたように装うという事は、中に何もないように見せかけたいということ。
ノルカの目には、これがお目当ての洞窟であるとすぐに分かった。
早速、ノルカはそこに入ろうとして----
「(殺気----?!)」
自分を射殺すかのような殺気に気付いて、直感で手を引っ込める。
「それが正解ですよ、ノルカ・ブックマン。それ以上進むのなら、私も攻撃するしかなかったです」
「わぉん! ほんとうに、ススリアがいうようにきたね! デルタのアネゴ!」
そこに居たのは、蠍のような尻尾を生やした武芸者の女。そして、犬耳を生やした爆乳少女であった。
どうやら彼女達は、ノルカを止めるために待ち構えていた、ススリア製のゴーレムらしい。
「(どうやら、私の行動は誰かに密告されていたみたいですね)」
戦いは避けられない。
ノルカはそう判断して、戦闘用の短刀を取り出す。
「----誰に聞いたかは分かりませんが、新生ハンドラ商会の存続のため、そこを通らせていただきたく思います」
ノルカがそう言って構えると、デルタとダヴィンチの2体のゴーレムも武器を構える。
「そのショーカイチョーが、とめてくれってたのんだのに?」
「ダヴィンチ、"あれ"は悪魔によって何かしらの状態異常をかけられています。なので、止めますよ」
「あいあいさー!」
ノルカVS.デルタ&ダヴィンチ!!
次回は、どうしてデルタちゃん達が待ち構えていたかについて説明しちゃいます!!




