第266話 灰色コボルトについて配信
~~デルタ~~
私の放った、【オーラ】を用いた必殺技。それはヘルオーガのみならず、湖畔に大きな傷跡を残した。
恐らく、私の放った技により、この湖の形は大きく変形している事でしょう。
まぁ、今の私が出せるこの必殺技。当然、私にも影響がない訳ではなく----
「折れちゃいましたね、腕」
ぽろんっと、脱臼どころか千切れてしまった右腕を拾い上げる私。
『きゃんっ?!』
「あぁ、心配しなくて良いですよ。これ、こうなる事が確定していたモノですので」
【武人の空間】は、【オーラ】を扱える者の技の威力を倍増させる空間である。しかし、あまりにも強大な技は、技を放つ私の身体すら崩壊させる。あんな凄まじい威力の技を放てるんですから、代償としては安いくらいです。
「……というか、なんであんたは平気なの?」
『くぅん?』
私は、足元でこちらを見上げる灰色コボルトを見ながらそう尋ねる。
あの技は、普通に強すぎる。放った私ですらこのように腕が千切れてしまうほどの技、この灰色コボルトは余波を受けていたのは確実だ。
しかし、足が折れた様子もない。健康そのものという様子である。
「(先程の【武人の空間】を放った際に、ヘルオーガと同じく倒れ伏していた様子を見ると、【オーラ】が扱える訳ではない)」
とすれば、考えられる可能性としては、回復力が桁違いという事。そして、もしくは----
「試してみますか」
『あぉん?』
千切れてしまった右腕を捨て、私はゆっくりと灰色コボルトの頭を左手で撫でる。
『きゃっきゃっ!』
「なるほど。これは予想外」
私はそう言って、左手から流していた【オーラ】の放出を止めた。
さきほど、左手に流していた【オーラ】の放出量は、ヘルオーガにぶつけていた弾丸状にした【オーラ】の量とほぼ同程度。あのヘルオーガが痛みで悶えていた【オーラ】を、この子犬にしか見えない灰色コボルトは無傷でいる。
----この灰色コボルトは、適応している。
【オーラ】という力に対して、もう既に灰色コボルトの身体は慣れ始めている。実は先ほどから、こっそりと【武人の空間】を展開しているのだが、灰色コボルトは先程とは違い、普通に立って歩いている。
「マスターが言っていました。人間の強みは、環境適応能力の高さだ、と」
どんな劣悪な環境だろうとも、すぐに慣れて生存できてしまう。それこそが、数ある人間の強みの1つだと、マスターは私にそう語ってくれていました。
……まぁ、その後に他の強みも10個以上語っていたのですが。
ともかく、この灰色コボルトには高い適応能力がある。
一匹だけ生き残っていたのは他のヘルコボルトよりも小さくて幼いから、ヘルオーガが見逃したと考えていました。もしくは、ヘルコボルトが群れとして、幼いこの灰色コボルトを守ったから。
しかしながら、事実は違ったようです。
この灰色コボルトはその高い環境適応能力から、ヘルオーガに殺されそうになっても、それに適応して生きていた。
「----これは思わぬ拾い物です」
ヘルコボルト以上に、この灰色コボルトは魅力的な個体であると私は考えました。
【オーラ】に対して、こんなに早く適応できるというのは、立派な特徴だと言えましょう。マスターも、この灰色コボルトの能力を知れば、きっと興味深いと言ってくれるに違いありません。
「君、うちに来ませんか?」
『くぅん?』
私は灰色コボルトを生け捕り、もといこの状態で勧誘したのですが、灰色コボルトは状況を分かっていないようで、首を傾げています。意味が通じてませんね、これ。
「(どうしましょうか? 蠍の尻尾から睡眠の毒を入れましょうか?)」
私に取り付けられている蠍の尻尾からは、様々な毒を放つことが出来る。その中には、相手を眠らせる毒も存在する。
とは言え、マスターに戦闘特化型として作成された私に搭載されている毒は、めちゃくちゃ弱い。あくまで、他の冒険者などと一緒に行動した際に、治療目的で使うのを想定されている。
そのため、この毒もほんの少しだけ眠らせる程度の毒でしかなく、【オーラ】をすぐさま適応したこの灰色コボルトの環境適応能力を考えると、使ったとて意味はない。むしろ、自分に攻撃したとして、逃げられる可能性が高い。
『くぅん?』
「あぁ、もう。付いて来いと言っているんです、私は」
こういう時、話が上手いガンマちゃんのような、巧みな話術があれば苦労せずに、マスターのいる家まで持ち帰ったのでしょう。いや、動物に対しては、ガンマちゃんの巧みな話術も効かなかったかも?
「やれやれ。どうしたモノか」
『どうした、モノ、か?』
----びくんっ!
私は灰色コボルトが放った、意味のある言葉に驚く。
「ははっ! 言葉まで適応したという訳ですか」
『そう、かも?』
「しかも意味まで分かっていると見える。ますます面白い」
意味が分かっているとなれば、もう素直に言えば良いでしょう。相手はこちらの言葉を理解した、そういう魔物なのですから。
「提案があります、灰色コボルト。もしなんでしたら、私に付いて来てください。会わせたい人が居ます」
『わぉん! たすけてくれた、だから、いいよ』
そう言って、私の後ろへと移動する灰色コボルト。私が一歩動くと、それに対応して灰色コボルトも付いて来る。
どうやら、これでマスターの元へ連れて行けるようで何よりです。
【オーラ】を強化するのと、技を放っても大丈夫なのは違いますからね
全身を【オーラ】を駆け回る、伝説的な獅子の獣人姿になって、ようやくなんとか扱えるみたいな




