第262話 WSK~私の方が先に加護を与えようと思っていたのに~配信
聖職者タメリックに促され、教会の奥の部屋へとやって来た私とベータちゃん。
必ずや、あの聖職者クロブさんに、うちのベータちゃんがなんでかおっぱいが膨乳した件について、問い詰めて見せようじゃないか!
今の私は、怒りに満ちているぞ! いきなり加護をもらっても困惑するんですよ、こっちは!
奥の部屋に行くと、そこにはあのおっぱい聖職者……もとい、極北支部から来た聖職者のクロブさんが待っていた。
「もぉ~」
あと、何故か"牛"も待っていた。
神々しい雰囲気を漂わせる巨牛であり、その背中には美しい翼がバッサバッサと羽ばたいていた。
「なに、その牛……」
ベータちゃんについて聖職者のクロブさんに問い詰めるつもりだったんだけれども、いきなりの巨牛の登場に怒りが持っていかれてしまった。というより、強制的に怒りが沈められた感じがする。
「(もしやこれは、巨牛の能力かな?)」
巨牛を、私とベータちゃんで見ていると、クロブさんが牛の前に出て来た。
「お待ちしておりました。ススリアさん、それに我らが新たな同志ベータちゃん」
ぺこりと、クロブさんが頭を下げて来た。それと同時に、後ろに居た巨牛も一緒にぺこりと頭を下げる。
「こちら、我が神聖術『天使降臨』で正解させていただきました、巨牛神使でございます」
「もぉ~」
ぺこりと巨牛は頭を下げると、そのままスーッと霧のように消えて行った。それと共に、私の頭の中に先ほどまで消えていた怒りがうっすらと浮かび上がってきた。
どうやらあの巨牛の力によって、聖職者のクロブさんにベータちゃんの膨乳の件について問い詰めるという怒りが失われるか、忘れられていたんだけれども、巨牛が消えた事で戻って来たという事だ。
……なんか、このタイミングで戻ってくると、怒鳴りつけられないというか、怒鳴りにくいというべきか。
「ススリアさんが、こちらへとやって来た理由については、分かっております。
----ベータちゃんの膨乳の件、ですよね?」
彼女はそう言うと、パチパチパチッと拍手しながら、ベータちゃんを祝福していた。
「おめでとうございます! 我らがジビエ神様から、正解をいただけるなんて、素晴らしい事ですよ! ジビエ神様も、創造物に与えるのは」
「その加護をいきなり貰ったから、こうしてやって来た訳ですよ」
予め伝えてくれているんだったら、私もそれでもいいとは思ってここまで大事にはならなかったと思う。だけれども、いきなりベータちゃんが膨乳したとなったら、こちらは困るのよ。
なんなら、ホラー展開かなにかかと疑ってしまったし。加護なんだから、こちらが欲しいと思うようなモノで渡してくださいよ。罰ゲームじゃなくて、貰って嬉しい加護なんですから。
「はい。確かに不正解でした。"そちらの事情も考えずにいきなりしてすまない"と伝えて欲しいと、ジビエ神様からお言葉を預かっております」
「まぁ、分かってくれているなら……」
まぁ、同じような事が起きる確率なんて、二度とない訳だし。
「あのっ」
と、これで終わりにしようかと思っていたら、今までずっと聞き役に徹していた聖職者のタメリックさんが挙手してきた。なにやら伝えたい事がある雰囲気だったので、「どうぞ」と伝える。
「実は以前より、治癒神様の方からも加護を与えたいと仰っておりまして」
「カンロ神様が?」
「えぇ。ジビエ神様からも、"カンロ神様の方が先なのが普通なのに、どうして不正解というありえない事が起きている"のだと言ってました」
まぁ、確かに神様から加護をもらえるとすれば、ジビエ神様よりも先に、カンロ神様の方から貰うべきだよね。私、これでもかなーりカンロ神様には投資というか、お手伝いしているはずなのに。
どうして、この膨乳騒ぎ以前に、カンロ神様からの加護を貰えなかったのだろうか? もしかして、もう既に貰っているとか? けれども、そんな実感はないんだけどなぁ。
「ちなみに、カンロ神様からの加護はどんなのを貰えるの?」
「えっと、確かこちらにリストがありまして」
「見せてください」
タメリックさんから、カンロ神様からの加護を受け取った場合に得る影響のリストを見る。
『・2つ以上のモノを合成した際、時折プラス効果が付く』
『・モノを別のモノに加工した際、使用する力が少なくなる』
『・治癒系統の神聖術が伸びやすくなる』
『・髪や身長など、あらゆるモノが伸びやすくなる』
『・髪が桃色、山羊の角が生える』
「うん、受けたくないな」
最後の1つ以外はいいんだけれども、いきなり髪の毛が桃色になって、山羊の角が生えるというのはちょっとねぇ……。
それに、何度も言っているけれども、私としては再現性が不確かな状態での錬金術はあまり好きじゃあないのだ。プラス効果ってのは良いとは思うけれども、それが"時折"と確実性がないのはちょっと。
「ススリアさんもそう言うと仰ると思いまして、治癒神様の方で加護を与えるのを止めていたらしいです。ですが、ジビエ神様の件もありますので」
「なるほど。自分の方が先にしようと思っていたのに、という奴ですか」
いま、カンロ神様はかなり落ち込んでいるそうだ。
自分の方が、先に加護を与えるという形にて感謝の意を表したいと思っていたのに、ジビエ神様に先を越されたのが、かなーりショックらしい。
「まぁ、とりあえず探してみますよ。その加護の受取先」
私は、髪の毛ピンクにも、時折来るプラス効果にも興味がないので要らないが、もしかすると欲しいというゴーレムが居るかもしれないし。
髪の毛の色が、ピンク色になるのは
別に悪いって訳ではないですけど、どうしても躊躇してしまうと思います




