第251話 ナーガアロマに慈悲はないよ配信
ナーガアロマは激怒した。
敵の存在を見て、激怒した。この自分の縄張りだと主張しているにも関わらず、不遜にもこの地に来る敵を見て激怒した。
必ずや、この黄金の小麦の住処を守って見せる。この場所こそ、我が安住の地なるぞ。
「----蛇よ。弁えよ」
その言葉を聞いた瞬間、蛇は全身に悪寒が走った。
これは本能的な恐怖。ナーガアロマが生物として、魔物として持っている、『こいつには逆らってはいけない』という危機感知能力がビンビンに感じていた。
言葉を発したのは、女だった。人の姿をした女は地面に手を付けた状態で、こちらを見ようともせずに、ただ冷酷にそう発していた。
状況的に見れば、背中を見せながら、地面に手を付けているという無防備な獲物。
しかしながら、どうしてもナーガアロマは"アレ"に手を出してはいけないと感じていた。
【シャアアアアアアアアアアアア!!】
だからこそ、ナーガアロマは他の2人に目を付けた。
1人は魔法の杖を構える、何故だかドラゴンの雰囲気を感じる女性。
もう1人は蠍のような尻尾を生やした、武闘派という感じの女性。
どちらも、好戦的な雰囲気を醸し出しており、ナーガアロマはこの2人からも強者の感覚を感じ取っていた。
----しかし、背中を見せているあの女性に比べれば、遥かにマシである。
【シャアアアアアアアアアアアア!!】
ナーガアロマは攻撃を開始する。
全身の魔力を勢い良く動かし、身体中の毛穴から毒の霧を噴射して行く。
ナーガアロマの身体から噴射される毒は、【壊血】と呼ばれる特殊な状態異常を引き起こす。
【壊血】は、この状態異常になった相手の最大体力を減らしていきながら、徐々に体力も軽減させていくという特殊な毒。獲物をじわじわと追い詰めるのに特化した毒であり、ナーガアロマの十八番でもある。
空気中に蔓延する、ナーガアロマの【壊血】の毒。
【グギャアアアア?】
しかしながら、あの背中を向けている女性も、こちらに敵意を向けている2人組も、効いている様子はなかった。獲物によっては効きづらいのもいるが、完全に効いていないのは初めてであった。
【シャアアアア!】
だがしかし、それならそれでやりようはある。
ナーガアロマはそう思い、口を大きく開けてそのまま噛みつき攻撃を仕掛ける。
「ふんっ!」
その嚙みつき攻撃に対し、ガシッと蠍を思わせる尻尾にてデルタちゃんは殴りつける。殴りつけられたナーガアロマの頭はぐらんぐらんっと揺れ、牙が根元から曲がる。
曲げられた牙は舌にずしっと突き刺さり、ナーガアロマは激痛を覚える。すぐさま魔力を使って治そうとするも、曲げられた牙は思った以上に図太く突き刺さっていた。
【シャシャ、シャアアアアアア!】
ナーガアロマは牙の痛みもそうだが、このままだと勝てない、ちゃんと治そうと決意する。
そのためには、アポロン小麦を食べて回復しなければならない。バリアが張っている事に気付いたナーガアロマは、バリアを割るべく尻尾を叩きつける。
叩きつける毎にバリアが大きく揺れ、奥でバリアを張っているベータちゃんの眉がビシッとしわを寄せる。
「それならっ……!」
杖を持っていたアレイスターは、尻尾を叩きつけるナーガアロマの尻尾に魔法をかける。
----ゴキッ!
【グギャオオオオオンン?!】
ナーガアロマは激痛を感じた。先程の牙の痛み以上の激痛である。
アレイスターがやったのは、魔力を用いてナーガアロマの尻尾の骨に対してのみ重力を思いっきりかけただけ。骨はひしゃげ、尻尾に思うように力が入れなくしただけである。
当然、折られた骨は、ナーガアロマの肉に深く突き刺さる。
激痛でのたうち回るナーガアロマ。その度にバリアがどすんどすんっと大きく揺れるのを見て、アレイスターはこれ以上時間をかけてはならないと感じた。
なにせこちらには、ナーガアロマ以上に怒らせると怖い人物が居るのだから。
「では、参ります」
デルタちゃんはそう言うと、地面を蹴って、ナーガアロマのところまで跳んだ。
気付いたら目と鼻の先にいるナーガアロマの首に対して、
「----直刀」
【オーラ】の力によって自身を強化したデルタちゃんは、そのままナーガアロマの首をへし折った。
首はへし折られ、ナーガアロマの身体はボロボロになる。普通の生物なら死んでいてもおかしくないが、魔物だからこそナーガアロマは生きていた。
ナーガアロマにはまだ逆転の術があった。
バリアはアポロン小麦を覆うように張られていたが、一カ所だけ、張られていない場所があった。
それは、ナーガアロマの足元。
ナーガアロマの身体の下敷きになっていたアポロン小麦だけは、ベータちゃんはバリアを張っていなかった。何故ならナーガアロマの下にある時点で、食材には出せないボロカスになっているのが分かったから。
ベータちゃんにとってはボロカスでも、効能は変わらない。ナーガアロマはそう思って、身体を動かして、今まで自分の足元にあったアポロン小麦を食おうとする。
【グギャアア?】
しかし、それは出来なかった。
何故なら頭は動いても、その下の胴体は動いていなかったから。
「すまない。斬らせてもらった」
デルタちゃんの言葉に、ナーガアロマはようやく自分が頭だけの存在になっている事に気付いた。
恐らく、先程首をへし折られた際に、力を入れると切れるような切れ込みを入れられたのだろう。ナーガアロマは薄れゆく意識の中で、そう思ったのであった。
ナーガアロマ、すまない……成仏してくれ……
あと、八つ当たりみたいに倒されるのマジ受けるww
ナーガアロマ「シャアアア(怒っても別に良い展開じゃないですかねこれ)」