第250話 ナーガアロマよりも、圧倒的にベータ様!【怖さ比べ配信】
~~アレイスター~~
----黄金平野。
そこはアポロン小麦の群生地にして、強力な魔物であるナーガアロマの縄張りでもある。
アポロン小麦が金色に光り輝いており、まるで金色の湖のような幻想的な光景である。
もっともその金色の小麦畑の中心に、不気味な大蛇が陣取っているのが、やけに不気味に思えるのだけれども。
「あれがナーガアロマ、ッスね」
「……そう。吸わないことを推奨」
ナーガアロマは、狩りをする際に身体から特殊な香りを放つ。その香りは【催淫】、【混乱】、【麻痺】、その他の様々な状態異常を引き起こさせて、獲物の意識を刈り取るという戦法を取る。
引き起こされる香りから出る状態異常は、ナーガアロマが何を食べているか、身体の状態などによって逐一変化するらしい。どんな状態異常になるかは、魔物を研究する組織が論文を作るくらいには、予め予想するのは難しいらしい。
一般的な対処方法としては、なっては困る状態異常を決めておき、それの対処できる魔道具を使う。【麻痺耐性】だの、【石化耐性】だのと言った。
しかしながら、うち達はゴーレム。息をしなくても、普通に戦闘できる。
ナーガアロマの状態異常は、あくまでも香りを吸わなければ効果がない。ならば、いつもは人間らしさを演出するために、"敢えて"人間らしさを出すためにやっている息を止めておく。
これで、ナーガアロマの香り攻撃は防いだと言って良いだろう。
あとは、いかにナーガアロマにアポロン小麦を食わさないようにするかなんですが……。
「----では、作戦開始です」
と、まだデルタちゃんとどう戦うかを考えていたのですが、後ろからベータ様がそう宣言してきた。
ベータ様が話すと、うち達はビシッと、身が引き締まる。
「では、参ります」
ベータ様はそう言って、両手を地面につける。そして、なにか呪文を唱えて行くと、アポロン小麦を覆うようなバリアが張られて行く。
イメージとしては、黄金の湖の上に、硬い氷の膜が生み出されているようなイメージである。
「なるほどッス! これでアポロン小麦を食べられる心配がないって、訳ッスね!」
「流石ッス!」と、分かりやすくおべっかを言ったのがバレたのか、ベータ様がキリッとこちらを睨みつけて来た。
……こっ、怖いッス! めちゃくちゃ背筋がぞくぞくするッスよ!
「デルタ」
「……っ! わっ、分かってます! 壊さないようにします!」
「えぇ。普通に倒すだけなら、こんなバリアを張る必要ないんですから」
ぶるぶると震えながら、ベータ様に敬礼するデルタちゃん。
汗とか出す機能とかゴーレムであるうち達にはないはずなのに、何故だかデルタちゃんの額に物凄い汗をかいているような気がします。
「(そうか、うち達の目的はアポロン小麦を収穫する事ッスよね……)」
ナーガアロマを倒すだけならば、バリアなんか張らずに、ベータ様を含めた3人で戦えば良いだけ。バリアを張った理由としては、アポロン小麦を収穫するためなんッスから。
つまり、このバリアを壊さないような威力にて、あのナーガアロマを倒さないようにしなくちゃいけないという事ですよね。
「……ちなみに、アレイスター。このバリア、どれくらいの威力で壊れる?」
「多分ですが、デルタちゃんや私が、一撃でナーガアロマを倒すほどの威力を出すと壊れるかと」
ナーガアロマはダメージを負うと、すぐさま回復のために逃げ出すという厄介な性質を持つ。だから、出来るならば一撃で倒したい。私もデルタちゃんも、その気になればナーガアロマを倒すのくらい簡単。
しかしながら、それだけの威力の技を使えば、確実にこのバリアは破られて、アポロン小麦はズタボロになってしまうッス。
重要なのは、"ナーガアロマを倒すだけの威力"、そして"アポロン小麦を守るバリアを破らないほどの威力の調整"。
わざわざ力をセーブするってのは、なかなかに難しそうッスね……。
「ほら、2人ともやりなさい」
「「はいっ!!」」
ベータ様に言われ、私とデルタちゃんはナーガアロマの討伐に駆り出されるのでした。
【シャアアアアアア!】
私達の姿を見て、ナーガアロマは大きな声を出す。
大きな声を出すことで、自分を大きく見せるという、野生動物ですらやっている強者の常套手段である。
普通なら「えらい威勢の良いな」くらいの軽口は言うんですけれども、今のうちにはそんな余裕はない。
「すいませんが、ナーガアロマ! いまから、うち達は威力を制限して戦わせてもらうッス! あんたを倒すのに、こちらは全力出したらいけないッスから!」
「……縛りプレイ、上等」
ナーガアロマは普通の冒険者相手ならめちゃくちゃ強敵で怖いんでしょうけれども、今のうち達にとって恐ろしいのはベータ様なんで!
こんな大蛇なんて、ベータ様のあの迫力に比べたら、まったく、なんにも怖くないんですけれども! えぇ、本当に!
こうして、私とデルタちゃんは、ナーガアロマに対して、強制的に縛りプレイと言うか、能力を制限した状態で戦う事を強いられるのでした。
怪物よりも怖いって、恐ろしすぎでしょう。ベータちゃんってば




