第246話 レッドコーンは毒なのか配信
「これ、毒です。なので、マスターは絶対に食べないでください」
修道女クロブさんから解析を頼まれた、レッドコーン。
その解析を担当したうちの家事担当ゴーレムであるベータちゃんから、そんな事を言われてしまうのであった。
「そっ、そんなはずはありません! 絶対に不正解です!」
ベータちゃんの解析結果に対し、異議を唱えるのはクロブさん。そりゃあ彼女からして見れば、牛や豚などの家畜にいままで普通に与えていた作物が、毒だなんて言われたら、ねぇ……。
牧畜なども司る豊穣神に仕えている彼女達が、家畜に毒を与えただなんて思いたくもないよね。
「落ち着いてください、クロブさん。ベータちゃんが言う『毒』ってのは、別の意味ですから」
「別の意味、とは……?」
クロブさんの横で話を聞いていたタメリックさんがそう聞いて来たので、私は「食べてはいけないという意味です」と応える。
そう、ベータちゃんは研究者用のゴーレムではなく、家事用のゴーレム。
そんな彼女が毒と言い張る時は、毒キノコのように『食べたら死んでしまう、病気になってしまう』という意味の他にもう1つ、意味がある。
「摂取カロリーですよ。つまりは、超高カロリー」
「だよね?」と私が聞くと、ベータちゃんは「私の事を分かってくれるマスター……好きぃっ!!」と、なんか嬉しそうな笑顔で抱き着いて来そうになったので、手で頭を押して制止しつつ、ベータちゃんから詳しい調査結果を見る。
結果は……黒。
レッドコーンのカロリーは、1本でなんと成人男性1日分という、超高カロリーな食べ物だったのである。
そりゃあ、こんな超高カロリーな物を腹いっぱい食べたら、満腹になって食べたくなくなるし、肥満になって味とか品質も影響するでしょうよ。
「マスター、このレッドコーンを食べてはいけませんよ? マスターの健康管理は、ラーメン特化型のジュールや料理店経営型のワットではなく、この私が管理しているのですから!」
「……とまぁ、うちの健康志向なゴーレムからして見たら、このレッドコーンは食べてはいけない、つまり毒だと言ったのですよ」
「「なるほどぉ」」と納得する聖職者2人。
「恐らくだけど、このレッドコーンは土地の栄養を多く吸い取る作物なんじゃないかな?」
このレッドコーンという作物は、普通に育てると高カロリー高頻度で取れるという、そういう作物なのだろう。
今まで無事だったのは、極北支部の環境が、高カロリーになるほど栄養がない、乏しい土地だったから。だから高頻度で取れても、1本1本のカロリーはそれほどではなく、家畜の餌として適していたのだろう。
しかし、豊穣神のジビエ神様の名前と姿などが知られた結果、豊穣の力が強まり、レッドコーンに十分すぎるほどの栄養が与えられてしまった。結果として、それを普通の作物だと思っている極北支部の人達の提供により、家畜達は普段の摂取する量よりも圧倒的な栄養量を摂取してしまい、肥満に近い状況になった、と思われる。
「なるほど……。レッドコーンはいまの状況には合っていない、という事ですね。でしたら、正解しく、牛や豚たちに与える餌を見つけないといけないんですね」
「まぁ、今だったらなんでも育つんじゃないかな。多分」
極北支部の状況を聞くに、本来であれば作物を作るのに適した地とは決して言えない。
しかしながら、豊穣神の加護があれば、そんな状況を変えられるという訳だ。本来ならば育たない作物でも、きっと育てる事が出来るだろう。
「丁度良いから、ベータちゃん。君の意見を伝えてくれ」
「それはつまり、家畜の餌として相応しい作物をリストアップせよ、という御命令で合っているでしょうか?」
「それで合ってるよ」と伝えると、早速ベータちゃんは、飼料のリストアップを始める。
まぁ、厳密には【アルファ・ゴーレムサポートシステム】を利用して、飼料に相応しいのを考えるという事でしょうけど。
「……検索完了。現時点における最適解を提示します」
ピーっと、目を光らせて、映像を投影するベータちゃん。
【ランドクンプ。別名「陸昆布」
本来は海中で育つ種である昆布が、生息圏を陸へと移した結果生まれた植物。粉末にすると栄養豊富な飼料として利用できます】
「ランドクンプ。こちらの粉末がオススメです。レッドコーンと同じく高頻度で収穫できますが、レッドコーンと違って多くの栄養を蓄えても草自体が大きくなるだけですので。
レッドコーンと違って、食物繊維やミネラル、それにグルタミン酸など、多くの栄養成分があります。グルタミン酸は旨味の元ですので、家畜の飼料として相応しいと私は考えております」
ベータちゃんはそう言って、ランドクンプの生息域に関する資料を、クロブさんに手渡した。
「こちら、ランドクンプが生息していると思われる生息域をリストアップしておきました。この書類を持って、早く帰ってください」
「……っ! なにからなにまで、ありがとうございます! この正解、是非とも活用させていただきます!」
クロブさんは感謝感激という感じで、その資料を持って帰って行ったのでした。
「マスター、これで厄介なおっぱい女は居なくなりましたね……」
「……だからって、何もしませんけれども」
ベータちゃんにそう言って、残った聖職者タメリックさんに帰ってもらい、私は普段の日常を取り戻すのでした----。
毒って言っても、色々ありますよね?
このまま食べ続けると将来的にヤバイという意味でも、毒っていう意味で使えると思うんです




