第244話 極北から来た修道女配信
魔王ユギーの五本槍の1人、闘争のカイデン。
剣術しか使用させないのにも関わらず、剣攻撃を無効化するという、とんでもなく厄介な性質を持つ悪魔である。
そんな闘争のカイデンは、ウミヅリ王国から来た2人によって倒され、現在は聖職者タメリックが勤めるイスウッドの教会に居た。
悪魔は他の生物や魔物と違い、肉体を持たない。より正確に言えば、悪魔は死んでも、悪魔が居た世界に戻るだけで、倒す事は絶対に出来ない不死の生命体である。
それでも、対処法は存在する。
1つは、悪魔をなにかに封印するという事例。ススリアが悪魔シグレウマルを泡立て器の動力源として封印したように、外で活動できないように封じるという方法である。
この方法は悪魔がその物体に封じ込まれている間は何も出来ないが、それと同時にその物体を壊せば容易に復活するという事でもある。
だから、教会では別の方法を使っている。
「これが、悪魔カイデンの墓、ですか」
眼鏡をかけた修道女は、教会の隅にひっそりと置かれた巨大な剣の形をした墓を見ながらそう呟く。
【闘争のカイデン】と書かれた、剣の形をした墓。この中には、サビキ・ウミヅリ元王女とトカリ・ブロッサムの2人が倒した、闘争のカイデンの一部が封印されている。
封印するという部分はシグレウマルを泡立て器の中に入れるのと同じだが、違うのは、その闘争のカイデンの一部に対して祝福をかけているという点だ。
教会の者達が使う神聖術の中には【悪魔浄化】という、悪魔の浄化に特化した神聖術がある。これは教会に訪れた人々、それに教会で働く信者達の願いや祈りを糧として、悪魔を少しずつ、そして着実に弱らせていく方法である。
浄化する事により、この世界との関係を完全に断ち切らせ、二度とこの世界へと戻って来れないようにする。つまり、実質的な復活を封じる神聖術なのだ。
本来であれば、闘争のカイデンという魔王ユギーの五本槍クラスなら1000年以上かけて浄化するのだが、昨今の神々への理解度の高さから10年足らずで、カイデンはこの世界に永遠に来れないくらいに、浄化されると言われている。
眼鏡をかけた修道女は、【悪魔浄化】されている様子を初めて見て、非常に勉強になると興奮していた。
実際、この【悪魔浄化】の術は、どれだけ優秀な神官が居ようとも、浄化する基となる悪魔の一部がなければ使用できない神聖術であるため、記録上この神聖術が使われたのは初めての事だった。それくらい、非常に珍しい光景なのである。
「見学ですか?」
と、教会の奥から、聖職者タメリックが修道女に声をかける。
「あっ! はっ、はい! 正解です!」
タメリックに話しかけられた、修道女。彼女はパンパンッと服から埃を軽く叩いて落とすと、ぺこりとタメリックに頭を下げる。
「すっ、すいません! 教会に勤めている身としては、初めて見る光景で思わず……」
「良いですよ、構いません。実際私も、この光景は聖書として記すべき偉大な偉業と思っておりますから。思わず、立ち寄ってご覧になりたいという気持ちも分かります」
勝手に見ていた事を謝る修道女に、タメリックは気持ちが理解できると声をかける。
「確か、極北支部から来られた【クロブ】さんでしたっけ? お話は配信にて聞いております。なんでも、極北支部にてとても敬虔な信徒である、と」
タメリックがそう頭を、眼鏡をかけた修道女クロブに向かって下げた。
極北支部----農耕に携わるジビエ神の伝承が確認された地から、彼女はこの辺境イスウッドへとやって来たのである。
「いえいえ、私など……そんな敬虔な信徒だなんて、不正解ですよ。治癒神カンロ神様が訪れるこの地に比べ、我が地には一度もジビエ神様は降臨なされていませんので」
「それも、幾つかの偶然が重なっただけです。神様が降臨されようと、されまいと、それで皆様の信仰が足りないということはないでしょう」
「タメリックさん、ありがとうございます。その言葉で、どれだけ正解か……」
嬉しそうな表情を浮かべるクロブであったが、その前にここに来た目的を果たそうと、着ている修道服の中へと手を伸ばす。
----ぼいんっっ!!
服に手を入れた瞬間、クロブの修道服越しでも分かるくらい大きな胸が揺れるのを、タメリックは見ていた。
「(相変わらず、ジビエ神様の信徒らしい姿ですね)」
ジビエ神は、豊穣伸。つまり作物を実らせ、家畜を育てる神だ。
そして伝承によると、ジビエ神は"牛の角のような2本角を生やした、豊満な身体をした美しい女神"として伝わっており、彼女の大きな胸は、ジビエ神の敬虔なる信徒の証だと言える。
なにせ、ジビエ神の事が分かって祈り続けた、この2,3か月の間に、この豊満な胸が育ったというのだから。それまでは、教会の壁とも言われるくらいに絶壁だったのに。
「(ジビエ神様の敬虔なる信徒である、修道女クロブさん。果たして何のようで来られたのか)」
修道女クロブがこちらに来ることは聞かされていたが、肝心の来訪目的については、タメリックは聞かされていなかった。
果たして何の用事でこちらに来られたのだろう。タメリックがゴクリと唾を飲み込みながら、クロブが目的の品物を出すのを待っていた。
「あっ、ありました! よいしょっ、と!」
----むぎゅっ!!
またしても大きく、かなり分かりやすく揺らしたクロブ。同性の自分ですらうっとりしてしまうくらいの様子で、タメリックが見ていると、クロブは品物をタメリックへと手渡した。
それは、赤いトウモロコシであった。
「このレッドコーンを、ススリアさんに渡すのを取りなして欲しいのです。それがジビエ神様から、私に与えられた正解なんです」
クロブさんの口調については、個人的に大好きです
「正解」と「不正解」を多用するの、普通にキャラとして良いよね




