第236話 大量のマージ・マンジ達配信
「あぁ、実に良い物ですね。そうは思いませんか?」
【狩猟】という手の形をした仮面をつけた銀髪女性、狩猟のドン・デーロはそう語る。そうしていると彼女の【狩猟】の文字が光り輝き、照らされた光の中からまた2体、新たなマージ・マンジが現れる。
現れたマージ・マンジ達は何も言わず、足元から石を拾い上げる。拾い上げると共に、石は荒れ狂う猛牛となってこちらへと襲い掛かって来ていた。
「おいっ、とりあえず動ける奴は牛をなんとかしろ! あの美少女ゴーレム達の軍団はただ石を牛にしているだけだ!」
「「「はっ……!」」」
傭兵----確か、ヒルアトムという名前の狼獣人の傭兵が、大きな声をあげて指示を出す。その傭兵ヒルアトムの指示の元、他の傭兵達一行が牛たちを捌いて行く。
その傭兵達の動きは先程の、第2回戦の合戦勝負の時と全く違っており、まさに熟練のプロといわんばかりに牛たちを安全に、そして的確に無力化していく。
この国は商いの国シュンカトウ共和国。その国で傭兵をしているのならば、戦闘に駆り出されるよりも、牧場で牛の世話をしている方が多いという訳か。
そして肝心のマージ・マンジ達はと言うと、エアクラフを始めとしたハンドラ商会の人達、そして魔術攻撃が可能なアレイスターが対処していく。
マージ・マンジ達は思ったよりも脆く、攻撃を当てるだけで、1体、また1体と倒されていく。
デーロが生み出したマージ・マンジは倒されると、まるで幻影の霧のように、スーッと消えて行く。しかしながら、そんな幻影が変化させた牛たちは消えないようであった。
「まだまだマージ・マンジのおかわりは、たーっくさん、あ・り・ま・す・よ?」
デーロの【狩猟】の文字が光り輝き、さらに新しく、3体のマージ・マンジ達が現れる。
「あいつを倒さないと、終わりがないッス!」
アレイスターはそう言って、魔法にて炎の双剣を作り出す。作り出すと共に、アレイスターはデーロへと向かって行く。
炎魔法で作り出した双剣で攻め込むアレイスターに対して、デーロは槍を取り出すと、その槍でアレイスターの双剣を受け止めていた。
アレイスターとデーロによる、双剣と槍のぶつかり合い。
その激しい攻防の間も、デーロの【狩猟】の文字が光り輝くと、新たにマージ・マンジが出現する。
「さらには、これもどうぞ!」
デーロの仮面の文字が光り輝くと、今度はマージ・マンジではなく、大きな岩が生み出される。その岩を槍によって一瞬で粉々に砕くと、呼び出された数十体のマージ・マンジがその石を牛の群れへと変えていく。
牛に変える石さえなくなればもう攻撃出来ないだろうと思っていたが、まさかその対策もしているとは……。
「何者なんだ、あいつ……」
とりあえず、私はこの間に、デーロが追っていた魔女スタダムに話を聞くことにした。
魔女スタダムによれば、シベリア会長----彼女に化けた"狩猟のドン・デーロ"は、彼女にとある魔法魔道具の製作をお願いした。
その魔法魔道具は、状態異常を治癒する【キュアドート】という魔法を魔道具化したモノであり、何故かは分からないがデーロは、それを手袋状にする事を提案した。しかも、「相手の肌に触れて状態を確かめたい」からと、何故か指の部分だけない穴あきグローブにする事も条件として加えられた。
流石に可笑しいと思った魔女スタダムが問い詰めたところ、いきなり頭を掴んで襲い掛かって来るという事だったらしい。
「あのマージ・マンジ達は、いきなり現れました。私の頭に触れられてから、際限なく、いくらでも生み出せるようになっていたのです」
「なるほど、それで怖くなったから逃げていたと」
「それに、あの人、"狩猟のドン・デーロ"と名乗っていましたよね? もしそれが本当だとしたら、あのバケモノは厄介な相手ですよ!」
魔女スタダムの家には、魔王ユギーに関する資料みたいのがあったらしい。その資料の中に、"狩猟のドン・デーロ"に関連する記述もあったのだとか。
----狩猟のドン・デーロ。
魔王ユギーの五本槍の中で、最も"獲物"に執着する悪魔。
その悪魔は、他人の記憶を読んで、その人になりすます。それだけではなく、過去の記憶から、過去の記憶を幻影として呼び出すことも可能との事。
なるほど、あの大量のマージ・マンジ達は、魔女スタダムの記憶にあるマージ・マンジを呼び出したという事だろうか。
「厄介なのは、一度読んだ記憶は、読み返さなくても大丈夫っぽいって所ですね」
デーロが魔女スタダムの記憶を読んだのは、たった1回だけ。
そして、それ以降はマージ・マンジ達を呼び出すのに、なんら制約なんてなくやっている。
つまり、相手は一度読んだ相手の記憶なら、何度でも、何十回でも、その人が持つ"過去の記憶"を実体化させて攻撃させることが出来るって事……?!
「反則じゃないですか、それって……」
いったい、どうすればデーロを退ける事が出来るのか。私はアレイスターや傭兵さん達に任せつつ、思考を巡らすのであった。
ドン・デーロ「記憶を読み取って、大量に召喚す・る・よ!」
「ンゴー!」「ンゴゴゴォォ!!」「やってやるンゴォォォ!」「凄いンゴヨネェエエ!」
「ンゴットォォォォ!!」「マジ・マンジィィィ! マジマンジィィィ!」「〇るンゴォォォ!!」
ドン・デーロ「……記憶を読んでコピーするの、間違えた・か・な?」




