第232話 ススリアとソラ【決戦の大格闘配信】(5)
獣人族と言うのは、獣の特徴を持つ人間に良く似た亜人種の事である。
しかしながら、私は以前、人間族でありながら、獣の特徴を得た人物の事を知っている。
----そう、シュンカトウ共和国のお姫様であるフランシア姫である。
彼女は、悪魔シグレウマルの呪いを受けて、髪の毛が獅子のようになるという呪いをかけられていた。
その縁で、彼女は私に弟子入りして、悪魔シグレウマルを倒す事になったのだが、その際に私は知ったのである。
----強力な力を身体に注ぎ込めば、身体に獣の力を宿せる、と。
人間族で生まれた事について、もっと別の種族に生まれたかったと悔やんだ事はないけれども、やはり一度くらいは別の種族だったらどうなるんだろうなと思ったことがある。ペンギン族のアデリィちゃんやら、テッポウウオ族のサビキちゃんのように、生まれながらに何かしらの特性がある身体を羨んだ事がないとは言えなかった。
この【伝説獅子変身】は、私のそんな願望を叶えようとした結果だ。
【オーラ】という武の力を身体を構成する血液や細胞に注ぎ込む事によって、武力に優れた姿へと変貌を遂げるという技だ。
まさか、それがライオンの獣人族になるとは、私自身も思っても見なかったけれども。
なんでライオンの獣人族が、武力に秀でた【オーラ】を注ぎ込むとなるのかは分からないが、錬成術師としての私の頭脳が、この錬成した結果生まれた身体の情報を教えてくれる。
素晴らしいものが出来たと、こういう事が出来るのが出来たと、私に教えてくれている。
「その錬成品の凄さを、今から教えますね。ソラさん」
「その前に、倒します」
彼女はそう言って、この対決で初めて武器を取り出した。
アマゾネスである彼女が取り出した武器は、メリケンサックである。彼女はそのメリケンサックを装備して、私に向かって殴り掛かって来た。
その武器に私は危機感を本能的に察知し、そのまま避け、魔道具【見通す蛇の眼】に指示を出す。
「----【見通す蛇の眼】! 相手の使っている魔道具の機能を、鑑定せよ!」
『命令受諾。機能、鑑定』
----ピーッッッ!!
【見通す蛇の眼】----金色の蛇型ゴーレムの眼が光り輝くと共に、私の頭の中に彼女がいま使っているメリケンサック型の魔道具の情報が入って来る。
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~~魔法魔道具【祝福の光】~~
魔女スタダムによって作られた、魔法【祝福の光】を武器という形にて、魔道具化された魔道具。魔女スタダムによって、あらゆる障害を焼き尽くす聖なる光の武具と化した
魔法【祝福の光】は不死者に効果を発揮する浄化の光であるが、それをメリケンサックという形にて圧縮する事により、あらゆる物を焼き殺す浄化の光という名の暴力装置へと変貌を遂げた
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「おいおい、ヤバイ武器じゃないか」
【祝福の光】は本来、不死の属性を持つゾンビやレイスなどの、通常の武器では殺せないバケモノを殺す、救いの光のような魔法。前世の知識を使えば、ゾンビを回復魔法によって倒す、みたいな事である。
しかし、そんな本来であれば私のような不死属性となんら関わらない相手に対して、メリケンサックという形状にする事で、強力な光の武具としたとは……。
「(説明にあった、"浄化の光という名の暴力装置"の所以は、あれかな)」
私は避けた事によって、狙いが外れ、彼女のメリケンサックが当てられた地面を見る。その地面は真っ黒に焦げており、表面どころかその地面の下の部分まで黒焦げだし、明らかにメリケンサックの大きさの数倍以上の部分が焼け焦げているんだけど……。
あれが、ただの聖なる浄化の光って、神官に見せたらどんな顔をするのだろうか。
あの攻撃が私に当たっていたらどうなるかと考えると、ゾッとする。
「かはっ……?!」
そんな事を考えながら、私はソラに攻撃を当てていた。
彼女としては、攻撃が当たらない位置だと思って陣取っていたんだろうけれども、この身体になってから私は新たな武術を使っていた。
その武術は、【鞭拳】。その名の通り、腕や足を鞭のようにして相手にぶつける技である。
身体にかかる無駄な力を抜いて、関節のジョイントを緩めて伸ばす。【オーラ】の力によって痛みを軽減しつつ、相手にぶつける技なのである。
【純粋すぎる影蛇】は目に見えて伸びると分かるから避けやすいけれども、まさか人の腕がいきなり倍近く伸びて攻撃してくるとは驚いたでしょ?
人間族の身体だと激痛が走るから出来ないけれど、獣人族という人間族より身体的に遥かに強靭な今の身体だからこそ出来る技という奴だ。
そして、そのまま【純粋すぎる影蛇】でも、私は攻撃を与えて行く。
ソラもメリケンサックで殴り掛かって来たり、俊敏なフットワークを披露しているようだけれども、私の方が圧倒的に速い。
そちらが筋肉で圧倒してきたんだから、こちらが筋肉で圧倒してきたとしても文句はないよね?
さて、そろそろ止めを刺しに参りましょうか。
悪魔シグレウマルによる、フランシア姫の呪い!!
フランシア「え? そう言えば、そんな事もあったような……?」
作者「それ目的で、辺境イスウッドに来たのでは?」




