第229話 ススリアとソラ【決戦の大格闘配信】(2)
「----試合開始。それでは、参ります」
ソラ副会長はそう言って、すっと、足を滑らせて私に拳を突き出して来た。
「危なっ……!」
私は彼女の肘に掌底を当てて、彼女の軌道を強制的にずらす。そして、ずらす事によって無防備となったソラのお腹に向かって、私は渾身の蹴りを叩きこむ。
----がきぃぃぃんんっっ!!
「硬っ……?!」
蹴った側であるこちらが痺れてしまいそうな、人間離れした彼女のお腹の硬さに私は驚く。いま私は【オーラ】によって強化してドラゴンですら傷をつけるほどの蹴りをしたはずだ。それなのに、蹴られたソラさん側はちっとも吹き飛ばず、逆に蹴ったはずのこちらがじりじりと痺れている。
どれだけ硬いんだよ、あのアマゾネスの筋肉……。
「あと、その熱い身体が、魔法魔道具って事かな?」
と、私はメラメラと、文字通り炎を纏っているような熱さを出している彼女に、そう尋ねた。
というか、足の部分とか溶岩と化していて、触ったらこちらが溶けそう。あれは流石にアマゾネスの身体能力ではないだろうから、魔女スタダムが作った魔法魔道具の効果だと、私はそう思った。
「確かに、この熱く熱せられているのは、魔法魔道具のおかげ。しかし、この魔法魔道具は本来、戦闘の用途にて作られたモノではない」
そう言って、彼女は言いたい事は言ったとばかりに、溶岩を纏った----溶岩化している足にて、こちらへと蹴り上げて来る。
「教えてくれないなら、探るしかないねっ!」
私はそう言って、腕から蛇型ゴーレムを取り出した。
イプシロンちゃんから拝借した金色の蛇型ゴーレム----その名も【見通す蛇の眼】。相手の能力を正式に把握する鑑定用の魔道具ゴーレムだ。もっともなんでも見通してしまうため、情報の取捨選択をきちんとしないと、情報を処理できずに脳がパンクしてしまうんだけど。
「----【見通す蛇の眼】! 相手の使っている魔道具を鑑定せよ!」
『命令受諾。機能、鑑定』
----ピーッッッ!!
【見通す蛇の眼】----金色の蛇型ゴーレムの眼が光り輝くと共に、私の頭の中に彼女が使っている魔道具の情報が入って来る。
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~~魔法魔道具【整う身体】~~
魔女スタダムによって作られた、魔法【整う身体】を魔道具化された魔道具。魔女スタダムによって、魔力を使わなくても着られるようになり、また着る相手の背丈に自動的に調整される
魔法【整う身体】は、身体を温め、冷やすを繰り返す事によって、身体を正常な状態へと近付ける魔道具である
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「【整う身体】……?」
魔法【整う身体】は、身体の調子を整える生活魔法と呼ばれる魔法だ。
身体の不調を正常へと整えるために、身体を温め、冷やすなどをして、サウナのような効果によって身体の調子を整える魔法だ。
「(という事は、あの溶岩化した足は、彼女の身体の不調を治す際に必要な処置の一つという事? 身体が溶岩化するほどの高温でないと、身体が整わないって……どんな身体をしているんだか?)」
「私は、重度の低血圧なのです。これはその不調を整えるために、魔女スタダムに作ってもらった魔法魔道具。
----身体の調子を整えるこの魔法魔道具にて、私の身体を普段の自分へと整え、私は十全にあなたを倒せます」
……まさか、身体の不調を整えるために、魔法魔道具を使っているとは。
「だったら今度、その魔法魔道具以上の効果の魔道具を渡ししますよ。低血圧を治すために、ね」
「それは非常に嬉しい限りですが、生憎と、それはこの対決が終わるまでは無理そうでしょう」
彼女はそう言って、パッと、その溶岩のような足で、会場を走り始めた。
その速さは、1回戦で見たエアクラフ・ハンドラのトップスピードよりも圧倒的に速く、私の眼にはまるで光が通り過ぎるかのように見えた。
赤い線にしか見えなくなっていた彼女が、走っているうちに白い線へと変わって行く。
どうやら熱するのではなく、冷やすタイミングへと入ったという事でしょうか。
順調に、彼女の身体は整いつつあるようですね。
彼女の低血圧がどれほどの物なのかは分かりませんが、整うのを待っている必要はありません。
「----【見渡す蛇の眼】! 敵の攻撃を鑑定せよ!」
『命令受託。行動、鑑定』
私が【見渡す蛇の眼】に指示を出すと、私の脳に先ほどの鑑定情報とは思えないくらいの激痛が、私の頭へと流れ込んでくる。
そして、私の視界には、ソラの動きが----彼女が動く未来の姿が、映し出されていた。
【見渡す蛇の眼】は、なんでも鑑定する蛇型ゴーレムの魔道具。
相手が使う魔道具の情報を鑑定するだけではなく、相手の行動を正確に予想できるという機能もある。
もっとも頭に流し込む情報は桁違い、風邪で頭がガンガンに痛むような感覚と言えば分かるでしょうか? あんな感じで、私の頭には大量の情報が流し込まれていた。
「----ただ、動きが見えたからと言って、良い事はないんだけど」
相手は天然の、筋肉という強靭な鎧に身を包んでいる。
高密度の【オーラ】を使っても着ずどころか、吹っ飛ばすことも出来ないともなると----。
「仕方ない。こいつを使う事にしましょうか」
私はそう言って、【見渡す蛇の眼】の蛇型ゴーレムの魔道具ではない、別の蛇型ゴーレムの魔道具を懐から取り出した。
「----行くぞ、蛇型魔道具【純粋すぎる影蛇】!」
そう言って、鞭のようにしなる、特殊な剣を私は構えるのであった。
ソラ「低血圧なので、身体を調整するサウナスーツを使ってます」
ススリア「はじめから、準備体操をして身体を温めておけば良いのでは?」
作者「はっ! たっ、たしかに!」




