第225話 ロボットをやっつけろ【合戦勝負配信】(2)
~~傭兵ヒルアンド~~
俺はティトゥと共に走って、スコティッシュさんに近付く。そして、俺が感じた違和感についてスコティッシュさんに話しておいた。
スコティッシュさんは俺の言葉に対して、「それだったら厄介、ニャアね」と言っていた。
他の国だと、傭兵の言葉に対して単なる冗談かと思って本気で取り合ってくれない所もある。俺が昔傭兵として活動していた別の国ではそういう対応をされたこともあった。
しかし、シュンカトウ共和国ではそういうのはない。何故かというと、ここが商いの国シュンカトウ共和国だから。
俺が聞いた話によると、商売において一番重要なのは、"最悪を考える事"なのだそうだ。
一流の商売人のほとんどは、商売をする際に常に何らかの失敗、最悪な状態を考えて仕事をしているのだそう。そうすればどんな想定外の状況だとしても、常に最悪な状態を考えてどうにかする対処法を考えているから、被害が最低限で済む。
いまこの状況に置いて商人であるスコティッシュさんがすべきなのは、自分よりも戦闘経験に優れている俺の言葉を聞き、俺が提示した最悪の予想だった場合、どうすれば良いかを考える事なのだから。
「なるほど、【ポイズンビルド】という別の魔術を魔道具化したという可能性が高いという事ですか、ニャア。確かに【パワーアーマー】と言っていたのはハイブリの言葉だし、あの髪が毒という見方も出来るか、ニャア」
コクコクッと頷く、スコティッシュさん。
「【パワーアーマー】だと短時間凌げば良いのが、【ポイズンビルド】ならほぼ効果切れで負けが感じられないという事、ニャアか」
「あの毒の消費量からして見て、俺はそう考えます」
俺の言葉にスコティッシュさんは、「なるほど、ニャア……」と頷いていた。
「つまり、もしその予想が正しければ、これで対処できるか、ニャア?」
そう言って、スコティッシュさんが、鞄型の【アイテムボックス】から、解毒用のポーションをいくつも出して来た。
「私がいま持っている中で、一番高性能な解毒用ポーションです、ニャア。毒系統を操る最上級魔物であるドラゴンの最上級の毒でも解毒できるという、凄いポーションです、ニャア」
「「おおっ……!」」
「問題は、このポーションの液の雫が最低限、相手の皮膚に直接かけないといけない事だ、ニャア。一番良いのは、ポーションを口の中に入れるのが一番なのだ、ニャア」
それは難しいな……。
この解毒用ポーションをぶつけたい相手であるハイブリ・ハンドラは、あの巨大人型兵器の上に居るのだ。あんな巨大な兵器の上に居る相手に、どうやって相手にぶつけるというのだろうか。
兵器をよじ登る? いや、その前に蚊のようにはたき落とされて終わるだろう。
いまもなお、俺達以外の傭兵達相手に、攻め続けるハイブリを見ていると、とてもそんな事が出来そうな感じがしない暴れっぷりである。
「だったら、投擲でぶつけるか? それでも、巨大人型兵器の動きを、ハイブリの動きを完全に把握しとかないと、ダメだな」
ポーションの大きさは、はっきり言って小さい。そもそもの目的が、ポーションを使って人々の生存率をあげるだめなのだから当然である。
大きすぎて鞄に入らないよりかは、小さく作っておいて多く入るようにした方が効率的だからな。
「(冒険などの危険なところに必要になって来るのを想定してか、多少無茶をしても壊れないくらいには頑丈に作られているから、投げる事は出来るだろう)」
相手に飲ませるというのは、残念ながら無理だな。
そのためにはポーションの蓋を開けて、相手の口にピンポイントで投げる技術が必要になって来る。そんな高等テクニックを持っているなら、この国で一傭兵として活動するのではなく、もっと大きな国で冒険者として活動していただろう。
「だとすると、あの巨大人型兵器の操縦席の辺りにぶつけて、ポーションを意図的に割って液をぶっかけるという対処法しかないか」
普通の解毒用ポーションなら、そんなポーションの撥ねた雫をかけた所で、解毒はできないだろう。そんな事が出来るのも、ポーションの液の雫程度でも解毒できる、一番高性能な解毒用ポーションを使ってるからかな。
「どうやって、ポーションを当てようか……?」
「それについてなんですが、私に考えがあります!」
と、俺とスコティッシュさんの話を、近くでずっと聞いていたティトゥがそう口にする。
どうする気なんだろうと思っていると、ティトゥはいきなり走り出して、そして「ハイブリ・ハンドラ!」と大きな声で、彼女を指差す。
「なんだ、そこの猫獣人! 今度はユーが倒されるために出て来たのか?! それならお望み通りに!」
「カワイイ! 頭が良い! 仕事熱心! 本部長という役職付きなのも凄い!」
「いきなり褒めて来て、なんのつもりだ……?」
ティトゥのいきなりの褒め殺しに、褒められているハイブリ自身も困惑し、仲間であるはずのドラスト商会側の者達も困惑していた。
まさか、ティトゥが、自身の能力である『好きな相手の心を読める』というモノを使うために、褒めながら彼女を好きになろうと自己暗示している最中だとは、誰も読むことが出来ないのでした。




