第217話 国家転覆未遂前の【競争会場】配信
という訳で、やって来ました! シュンカトウ共和国!
「てなわけで、早速ハンドラ商会に乗り込んで、ぶっ潰すッス!」
……いや、どうしてそうなるの?
私としては出来たら穏便に済ませたいなと考えていたのですが、私以外の皆はすぐさまハンドラ商会に乗り込むことを提案してきた。
そして現在、私達はハンドラ商会の本店の前に居る。
いや、2人がハンドラ商会に直接乗り込もうという意味は分かる。
アレイスターは敵であるハンドラ商会が、元犯罪者ばかりと知って戦う気満々だし。イプシロンちゃんはハンドラ商会にアマーイサモーンをオススメしたくてしょうがないというのは分かる。
「しかしながら、あなた達はなんでそこまで武装してるの?」
と、私は、自分達の店から武器を持って来たスコティッシュさんとシガラキ代表にそう聞く。なんとそれだけではなく、数名の傭兵すら引き連れて、恰好を見ているだけだと、カチコミに行こうという勢いである。
一応、剣や杖で武装しているけれども、彼らの本質は商売人。本店に直接乗り込もうという野蛮な行為をせずに、同じ商売人として商売で決着をつければ良いのに……。
「いえ、そう言う訳にはいかない、ニャア」
「あなた達にハンドラ商会について、【イメージ・チェス】で説明した結果、ハンドラ商会の目的が……シベリア・ハンドラ会長の真の目的が判明したからです」
真の目的……?
そう言えば、他の5人についてはどういう罪人だったかと言うのは判明したが、結局シベリア会長の罪については何も聞いていなかったような……。
「シベリア会長の罪って、いったい……」
「その罪は、『国家転覆未遂罪』。しかもドラゴンを使っての、大規模なモノ」
ドラゴンを使っての国家転覆未遂罪……。
そりゃあ、確かに他の皆と比べても、桁違いに重い罪のように見えるな。
……というか、ドラゴン?
「ヤツらの真の目的は、王室の御用商人となる事……。そうすれば、堂々とドラゴンを飼育できる。そうしてドラゴンを使って、我がシュンカトウ共和国、それだけではなく他の国をも滅ぼそうとしているんですよ!」
「それが分かってるのなら、止めれば……いや、シュンカトウ共和国は実力主義だったか」
なるほど……。商売面で認められて、御用商人となり、合法的にドラゴンを飼育できるのが、ハンドラ商会、もといシベリア会長の目的という事か。
実力主義のこのシュンカトウ共和国においては、ちゃんとドラゴンを飼育できる立場を国から認められて、ドラゴンを飼育して、他の国を滅ぼそうというのが、シベリア会長の目的か。
……そりゃ確かに、止めないとマズいよね。
確かに止めないと、マズいよね。うん。
「----魔法魔道具【競争会場】」
いきなり私達の身体を、虹色の光が包み込み、そのまま光の中に吸い込まれてしまったのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「----ようこそ! 我々のバトルフィールドへ!」
眩しい光が収まったと思うと、私達はだだっ広い謎の競技会場に居た。そして、私達の前に4人の人間が立っていた。
サングラスをかけた、トビウオの長身魚人族。
人懐っこい顔を浮かべた、クマの着ぐるみみたいな服を着た女性。
白衣に身を包んだ、紫髪のエルフ。
黒い軍服に身を包んだ、4m近い屈強なアマゾネス。
その4人は話に聞いていた、ハンドラ商会の4人に思えた。
「うちの商店の前で騒がれると厄介ですので、魔女スタダムさんに作っていただいた魔法魔道具【競争会場】によって、この会場へと案内したという訳です」
トビウオの魚人族はそう高らかに宣言して、他の3人もコクリと頷いていた。
「なるほどッス……。"この戦いから出たければ、自分達と戦って強さを見せろ"という訳ッスね」
「そして、商人が居るという事は、単純に戦闘能力というだけではなく、それぞれ戦闘以外でも戦うという訳、ニャアね」
「ふふっ、どうやらこちらの意図はきちんと伝わってるようですね」
……なんで、うちの側であるアレイスターとスコティッシュさんの2人が、ここまで物分かりが良いんだか。
とりあえずトビウオの魚人族であるエアクラフさんからの、ちゃんとした説明によれば、ここは横やりを入れられないようにする魔法【バトルフィールド】を、誰でも使える魔道具として改造して生み出された戦闘会場。
この戦闘会場では、互いに勝負を決めて、それぞれ代表者が戦い合うというシステムだ。全員出しても良いし、数人ずつ出しても良いが、一度敗北したメンバーはそれ以降の勝負に参加する事は出来ないという事だ。
「さぁ、第1回戦はこの私! ハンドラ商会仕入れ担当本部長、トビウオの魚人族であるエアクラフ・ハンドラと勝負と参りましょう!
勝負内容は、障害物競走! 相手よりも速くゴールについた方が勝ちの、妨害ありのスピード勝負! さぁ、この私に勝てる者は居るのかな?!」
(※)ドラゴンによる国家転覆未遂事件
ハンドラ商会会長であるシベリア・ハンドラが以前に犯したと思われている事件。20匹ほどの大型ドラゴンを用いて、彼女の生まれ故郷である北方の国を滅ぼそうとしたが、結果として未遂に終わる
シュンカトウ共和国において、シベリア会長が以前にドラゴンを使って国家転覆未遂事件を起こしたのは有名な話であるが、商いの国であるこの国において"最も稼いでいる商会"にドラゴン飼育の権利を与えるため、ドラスト商会はハンドラ商会を止めるために行動に移した




