第215話 説明用のイメージ・チェス配信
1時間後、ドラゴン運送によって、スコティッシュさん。それにシガラキ代表の2人が、わが家へとやって来た。やって来た目的は、魔女スタダムを顧問錬金術師と迎えたハンドラ商会の対処について、だ。
「魔女スタダム……なるほど、あの事件を起こした魔女が絡んでいたんですか、ニャア」
「あの事件、我がシュンカトウ共和国でも話題になったからな。その際にハンドラ商会も名を知ったのだろう」
2人の話によると、魔女スタダムが起こした怪盗めしどろぼう騒ぎは、シュンカトウ共和国にて、『今世紀最大規模の大事件』として伝わっているらしい。
あー、確か怪盗めしどろぼうが起こしたのって、"数週間飲まず食わずで働けるようになる食事"と"宝石や鉱石など石を牛に変える"という事件だったか。確かに食品関係と宝石・鉱石関係者は、今世紀最大と言って良いほどの危機感を感じた事だろう。自分達の商売の要を揺るがす重要な話だから。
そして、その際に、ハンドラ商会も魔女スタダムの名を知り、彼らは恐怖ではなく、それだけの事を成し遂げられる人物として注目し、スカウトに踏み切ったと。
どういう交渉をしたのかは分からないが、魔女スタダムを保釈して丸め込み、あの透明トラックを作ることに成功したのでしょう。
「(魔女スタダムは、私の上位互換みたいな人だからねぇ……)」
魔女という特殊な錬金術を使える存在という立場、そして私と同じ世界の知識。
彼女が本気になったら、私なんかじゃ足元にも及びませんからなぁ~。こりゃあ負けだね、うん。
などと、スローライフしている私は闘争心なんかなく軽く受け止められたんだけど----
「ススリアさん! 今すぐハンドラ商会について、対策を立てましょう!」
「えぇ、そうですね、スコティッシュ。すぐさま対策会議を致しましょう!」
----なんだか、おかしな展開になった気がするなぁ。
その後、ベータちゃんが「偉大なるマスターが、以前に非常に良い物を作ってくださってるのでご提供します!」と、魔道具【イメージ・チェス】を取り出して来た。
魔道具【イメージ・チェス】は、各6種16個の駒同士を戦わせる"チェス"という遊びを広めるために作った魔道具だ。専用の水晶に魔力を込めれば、キング(王様)1つ、クイーン1つ、ルーク2つ、ナイト2つ、ビショップ2つ、ポーン8つの16個----相手の分も合わせれば32個の駒にそれぞれ思い描く人間に変化させることが出来る。
本来であれば、お友達やら、好きなキャラクターなんかに変化させて遊ぶ遊戯型魔道具なのだが、今回はそれを使って、ハンドラ商会の事を説明するのに使うのに使うらしい。
「まず、ハンドラ商会は精鋭揃いで、ポーン……つまり、普通の一般商人も、普通の商会なら一流と呼ぶべき接客術を備えています。正直、我がドラスト商会にスカウトしたいレベルの人達です」
「あぁ、そしてそれを支えているのが、ポーン以外の5種類の駒、つまりは5人の人間という訳です」
……本当に、チェスを使って説明しているよ。
「まず、キング----このハンドラ商会の会長、シベリア・ハンドラ。北国出身の彼女は非常に厳格で、仲間想い。まさに、商会のボスとして相応しい人物だと言えます」
「……スコティッシュ。自分の代表の前で、そう敵を褒めるのはどうかと。まぁ、事実なので良いですが」
そこ、人の家で勝手に揉めないでくださいよー。
「ルーク----縦横無尽に縦横に飛び回るこの駒に値する人物は、仕入れ担当本部長【エアクラフ・ハンドラ】。トビウオの魚人族であり、短時間ならグライダーの翼のようなヒレを使い、飛ぶことも可能。この性質を利用して、日夜良い商品を取りに飛び回る体育会系の切れ者です。
ナイト----間に相手が居ても飛び越せるこの駒に値する人物は、女番頭……いえ、人材担当監査役ディゼル・ハンドラ。使用人たちの長にして、人材を引き抜く要の人物。クマの着ぐるみを着ているような外見はクマ獣人なりのカモフラージュであり、本性は獰猛に相手を倒す超好戦的な人物です。
ビショップ----斜めから相手を攻めるこの駒に値する人物は、開発担当本部長【ハイブリ・ハンドラ】。ハンドラ商会の常務も担当している手先が器用な女エルフで、主な役割は商品の開発と、その商品の売り方を考える事。表にはあまり出たがらない人物だという噂で、コンタクトを取る事は難しいでしょう。
最後に、クイーン----ルークとビショップの役割もこなすキングに次ぐ重要人物たるこの駒に値する人物は、副会長【ソラ・ハンドラ】。シベリア会長の右腕とも呼べる人物で、物凄い身体能力を誇るアマゾネスらしい。『裏社会の格闘王』と呼ばれるほどの、最強人物だそうです」
トビウオ魚人族のエアクラフ、クマ獣人のディゼル、エルフのハイブリ、そしてアマゾネスのソラ……。全員、異種族の家族とは、珍しいな。
「そして、シベリアを含めた5人の幹部全員が"元囚人"。自らを極道商会と名乗っていた時期もありました」
「極道……?」
まさか、このファンタジー世界に極道が居るだなんてなぁ……。




