第214話 不可解な透明トラック配信
「で、本当はどういう状況なんですか?」
『どういう状況もなにも、お伝えした通りなのです!』
お伝えした通りと言われても、あれで説明になっている訳ないじゃないですか……。
先日、いきなりスコティッシュさんから報告を配信を使って受けた私。いま現在私は、スコティッシュさんと配信にてやりとりをしている状況だ。いわゆる、リモート会議という奴だろうか。
そして、スコティッシュさんからの緊急の報告の内容というのが、ハンドラ商会とやらが【アイテムボックス】を車に変えたという報告なのであった。
いや、本当にどういう事?
私としては、【アイテムボックス】を車に変えたというのが、意味不明すぎてきちんと説明をして欲しいんですが。
【アイテムボックス】というのは、結構有名な魔法であり、うちのゴーレムにも搭載しているあの魔法だ。そう、異空間にモノを入れて運ぶという、ただそれだけの魔法だ。
そんな【アイテムボックス】が、車になった? どういう事か、順当に話をして欲しい。出来るだけこちらに分かりやすくお願いしたい。
『----それではまずこちらをご覧ください』
ポチッと、スコティッシュさんが画面を切り替える。
すると、私の目の前の画面に映し出されたのは、宙に浮かんだまま移動する果物の一団である。その果物行列という謎の一団の先頭には、椅子に座った男性商人が居て、その商人と数十名のお客様らしき人の姿が見える。
『この商人は、我がドラスト商会の商売敵であるハンドラ商会の商人です! その商人が、このような果物を引き連れるというパフォーマンスにて、いきなり私どもの商会の前に現れて、お客様を奪い取って行ったのです!』
「なるほど。それで、この果物の一団が、【アイテムボックス】だと」
『えぇ、えぇ! 声高らかに宣言しておりました! 『この果物たちは新鮮です! なにせこれは我がハンドラ商会の顧問錬金術師によって形を変えた【アイテムボックス】である! 名付けて、透明トラックです!』と!』
私としては、他の商会の前にいきなり現れて商売を始めるというのは、ルール違反じゃないかと思ったのだが、商売の国であるシュンカトウ共和国ではギリギリセーフという判定なのだそう。
彼らの言い分としては、『たまたま道を通っていたらお客様が今すぐにでも買い求めたいと言って来たので、やむを得ずそこで商売をしていただけ』との事。
店の前で堂々と露店を出していた訳でも、そのままそこに居座られた訳でもないので、訴える事は出来ないらしい。
『ただ、ハンドラ商会は値段は高いが、その分良い品を提供するのが売りの商会。そんな商会が、実質的にどこでも買える移動式店舗をオープンしたとなると、かなり痛手でして……』
「そうだね、すっごく焦っているのは伝わってるよ」
声から真剣みが伝わって来るし、流石の私でもそれくらい察するよ。
「しかし、【アイテムボックス】をこのように改造するとは……」
【アイテムボックス】は異空間に自分だけが使える空間を生み出して、その中にモノを入れて保存しておく魔法だ。
この透明トラックとやらは、その【アイテムボックス】をこちらの世界で固定化して、なおかつ何のエネルギーを使っているかは分からないが、動くように改造しているのだろう。さらに【アイテムボックス】に収納したモノが、外から見えるようにしている。
なるほど、確かに透明なトラックという感じである。
『ススリアさん! ススリアさんも、このようなことが出来ますか!?』
「いや、流石に無理ですね」
私は錬金術師。素材を組み合わせたり、その素材に付与を施したりする者だ。
一方で今回話題として挙げている透明トラックは、魔法そのものの術式を改造している。私でも無理だし、いくら凄腕の錬金術師でも、魔法という概念しかないモノを弄り回す事は出来ない。
「私が出来る事と言えば、小型のボールを中心として、そのボールから透明な空間を生み出すくらいでしょうか? それでもこの画像のように買い物をするだけの時間、ずっと展開するなんてのは無理ですよ。精々、30分が限界かと」
『うぅっ……この【アイテムボックス】車は少なくとも1時間は走っているのを確認しております』
となると、このような改変を行ったのは、魔法使い?
いや、確かハンドラ商会の商人は、"顧問錬金術師"によってこのような形にされた、と。
「もしかすると……」
『----!? なにか心当たりが?!』
「いや、確証はないので、ちょっと調べさせます。----ガンマちゃん!」
私がそう呼ぶと、ガンマちゃんは「お呼びでしょうか、巨匠?」と、部屋の中にやって来た。裏でベータちゃんの配信の編集をしているのにも関わらず駆けつけてくれるとは、私が作ったとはいえ、優秀なゴーレムである。
「ガンマちゃん、少し調査して欲しい事がある。そう、セントール王国の監獄に問い合わせて----」
そうして、ガンマちゃんに調べて貰って、私が思っていた事は事実だと判明した。
監獄に収監されていた魔女スタダムが先日、ハンドラ商会の商人であるディゼル・ハンドラという人物によって保釈された、と。




