第213話 困惑のアイスマフラー配信
「では、皆さま! 今日の配信はこの辺で終了しますね! またうおっち!」
(※)『乙~』『またうおっち!』『この挨拶、なんだかハマって来たな』『分かる! 板について来たって感じ!』『ベータちゃんとかよく使ってるよな』『あぁ、なんなら動画再生と共に言っている』『それは速すぎじゃないか』
はい、今日の配信も終了っと!
どうも皆様、最近は配信者『あるけみぃ』としての活動も順調に行っている、錬金術師のススリアです。
今日の配信は、もう夏も暑くなりすぎているという事で、夏の暑さを吹っ飛ばす氷属性の魔道具の紹介をしていたのであった。
今回紹介したのは【ひんやりアイスマフラー】。このマフラーは氷属性の力を込めて作ったマフラー型の魔道具であり、首に巻く事により夏の暑さで上がった体温を一気に下げられる魔道具である。
体温を一気に下げたい場合、首などの太い血管が流れている所を冷やすと効果が高いのだ。首に太い血管が流れているのは人間も、エルフも、獣人も、魚人族も共通しているらしく、この魔道具を使えば一気に暑くなった身体を冷ますことが出来た。
この魔道具はそんな生物の身体的特徴をきちんと把握して作り上げた魔道具であり、私の概算によれば着けるだけで8時間、ずっと25度くらいの涼しさを保持できるだろう。ちなみにもう一度使う場合は1時間ほど水に漬けておくだけで良いという便利な魔道具である。
この夏、暑くなることを見越して、それを快適に過ごすために作った私の便利グッズ……もとい、便利魔道具の1つである。
この魔道具を紹介した所、案の定コメント欄は「欲しい!」「使ってみたい!」といった購入希望者が溢れていた。また1つ、大ヒット間違いない魔道具を作り出してしまった……。
確かな手応えを感じていた配信だったのだが、なんかいつもと違う気がする。
……なんだろう? 何かが変、なような?
「そして、いつもだったらスコティッシュさんから連絡がありそうな時間ですね」
「あぁ、そうなんだよ」
ベータちゃんの指摘により、私もそうだと納得した。
シュンカトウ共和国のドラスト商会に所属する、商人スコティッシュさん。
かの商人さんは私がいまのように配信内で魔道具を紹介したりすると、すぐさまこちらに交渉を取ってきて、売り出そうとしてくるやり手の商人さん。
今回の【ひんやりアイスマフラー】を紹介したら、いつもだったらとっくの昔に、それこそ配信内に交渉を持ちかけてくるはずだ。
しかしながら、今日はそれがまだ来ない。
「おかしいですね。我がマスターの偉大さを感じているのならば、すぐさま連絡してくるべきなのに」
「ベータちゃんの、私への愛はひしひしと感じているから良いとして、確かに妙だね」
本来であれば、スローライフを送りたい私としては、忙しさの原因となるスコティッシュさんからの連絡がないことを喜ぶべきなのかもしれない。しかしながら、私にはどうにもこれが、嵐の前の静けさというか、なにか嫌なことが起きる前触れのように感じてしまっているのだ。
毒されただけなら良いんだけれども、これがなにか嫌な事の前触れにならなければ良いんだけどもなぁ……。
「よし、切り替えて行こう! ベータちゃん、次はベータちゃんのお菓子作り配信を頼みます」
「了解しました、マスター。マスターのため、腕によりをかけ、美味しいバニラアイスを作りたいと思います」
そう言って、ベータちゃんはアイス作り配信のための準備を始める。
【ひんやりアイスマフラー】は首に巻き付ける事で体温を冷やす効果があるのだが、その失敗作として、冷やし過ぎちゃう欠陥品が出来てしまったのだ。今回はその欠陥品を使って、牛乳をアイスにするという配信を、ベータちゃんにやってもらおうと私は考えていたのである。
失敗作でさえも、こうして別の配信に活かす私って凄くない?! あるいは……ただ単に、失敗作を捨てたくない貧乏性が働いているだけなのかもしれないけど。
「みなさま、おはうおっち。そしてまたうおっち。ベータちゃんのお菓子作り配信の時間です」
(※)『おはうおっち!』『おはうおっち!』『お菓子作り配信来た~!』『またうおっち来た~ww』『それ、別動画のお別れの挨拶なんよ』『そしてあるけみぃのお別れの挨拶なんよ』『相変わらず、ベータちゃんはあるけみぃ大好きゴーレム過ぎるわww』
よしよし、掴みはオッケー。あとはバニラアイス作りは、ベータちゃんに任せて、私は食堂でゆっくり完成を待つことにしよう。
そう思って配信部屋(配信用に用意した部屋。壁がグリーンシートで合成がしやすくなっている)を出ようとしたその時、私のところに通知がかかって来た。
誰だろうと思っていると、それはスコティッシュさんからの緊急連絡の通知であり、内容は----
(※)『すいません! ハンドラ商会がアイテムボックスを車に変えて、大変なんです!』
「え? どういう事?」
なんとも良く分からない通知に、思わず声を出してしまう私なのでした。




