第212話 魔女スタダム、悩む配信(2)
魔女スタダムは困っていた。
既に本来の目的である、本物のスタダムの存在は知らせてあり、私の証言から対策班が設立されているという事らしい。それがどれだけの抑止力になるかは分からないが、少なくとも効果はあるはず。
それと同時に、いつまでもこの牢獄に居たい訳でもない。魔女の身体を無理やり与えられた彼女は、本来は別世界にて普通に学生と暮らしていた一般人であり、牢獄という環境から早く抜け出したいという願望が強くあった。
保釈金を支払って貰えば、少なくとも裁判の日付以外は牢獄の外、ハンドラ商会という居場所を得られる。
「(それに、このディゼルさんが1年を、短いと判断したらどうでしょう)」
ディゼルは、いますぐにでも魔女スタダムを迎え入れたいという気持ちを伝えている。それは彼女の能力をそれだけ買っているという証明であり、同時に保釈金という大金を支払ってでも今すぐに彼女をハンドラ商会にスカウトしたいと言っている。
そんなディゼルが、1年。魔女スタダムの懲役ぐらいを長いと感じるだろうか?
「(いや、私が思うに、彼女はこの場で迎え入れられなくても、無事出所したその日に私の前に現れるはず)」
そう言う予感を、魔女スタダムはひしひしと感じていた。
----このクマ獣人、女番頭ならそれくらいやる。
魔女スタダムの中で、ディゼルとはそういう獣人だという確信があった。
だとしたら、ここで保釈を受けても、受けなくても、結局は同じことなんじゃない?
「分かりました……保釈金を受け取ります」
「ほんとう!? 嬉しい! では手続きとかもありますので、明日お迎えに来ますねっ!」
こうして、魔女スタダムは、ハンドラ商会女番頭ディゼルによって保釈されたのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ここが……」
「そう! 我らがハンドラ商会の本店なのです!」
数日後、魔女スタダムは、ディゼルに連れられてシュンカトウ共和国の首都である貿易都市バザールに来ていた。この裏通りに、ハンドラ商会本店があるらしい。
なんで表通りにないのだろうと思ってディゼルに質問すると、表通りは見栄えが良いため土地代が桁外れに高い。そして、表通りに出店できるのは、信用度が高い商会だけらしい。
「私どもハンドラ商会は、一流の店ではありますが、残念ながら表通りに出店できるほどの信用を不動産商会は見出してくれませんでした」
「信用、ですか……」
どうやら、他の商会が子飼いにしている企業に積極的に営業をかける様子が、信用度が低く見られている原因らしい。
「まぁ、その不動産商会が子飼いにしていた企業をスカウトしたのも、原因かもしれませんが!」
「絶対、それですよ!」
ガハハっと盛大に笑うディゼルを見つつ、厄介な商会の人に目をつけられたなと感じる魔女スタダムであった。
「あれが、ハンドラ商会ですか?」
「あっ! あれがうちの商会です! 良く分かりましたね!」
「そりゃあ、ねぇ……」
ディゼルは不思議そうにしていたが、説明されずともハンドラ商会と分かったのは、その佇まい。つまりは、店の外観がインパクトがありまくりだったから。
----大きな虎の顔。
威圧されるかもと感じるくらい、本物志向な虎の顔の看板を見て、魔女スタダムはすぐにこの商会がハンドラ商会なのだと感じたのであった。
「けっこう、並んでますね」
表通りから2つ裏に入った裏通りにあるお店なのにも関わらず、ハンドラ商会は多くのお客様が詰め寄せる人気店だった。店に入りきらず、20人ほど外で大人しく並んでいるのを見ると、凄い人気だなと魔女スタダムは感じていた。
「えぇ! なにせ、うちの店のモットーは『良い物を、良い値段で』! 多少高かろうが、本当に良い商品というのは売れるモノなのです!」
「なるほど……」
そんな繁盛っぷりを見つつ、魔女スタダムは店の裏手、従業員用の入口へとディゼルに案内された。従業員用の入り口から中に入ると、そこにあったのは活気あふれる店内。
お客様も、従業員も、全員が真剣に、そして活気があふれていた。
「(本当に、良いお店なんだ……)」
立地としては、正直言って最悪とも言って良い場所。
それなのに、ここまでのお客様を呼べているという事は、このお店の魅力がそれだけ高いという事である。
「(このお店で、今日からお世話になるんだ……私は)」
保釈された魔女スタダムは、監獄から3つの条件を言い渡されている。
1つ、裁判を受ける日は必ず出席する事。出席しなかった場合、逃亡犯とみなされ、ハンドラ商会に保釈金は返って来ない。
1つ、保釈中に何らかの犯罪を犯した場合、即刻逮捕され、もう二度と保釈される事はない。
1つ、保釈期間中は保釈金を支払った人の所でお世話になる事。また保釈金を支払った側は、定期的に居場所や状態を報告しなければならないという事。
だから今の魔女スタダムの立場としては、ハンドラ商会お抱えの人間、という所だろう。無論、ハンドラ商会に迷惑をかけるつもりがないので、このままゆっくり、裁判の日まで待とうと思っていた。
そして、魔女スタダムは、ディゼルに案内されて、ハンドラ商会の会頭、つまりはトップと出会う事になる。
「改めまして、魔女スタダム。我が名は【シベリア・ハンドラ】。ここの会頭、つまりは代表だ。
早速で悪いが、保釈期間中、君にやって欲しい事があるので聞いて貰えないかな?」
「ロシア系の美少女だ?!」
銀髪に色白の、スタイル抜群の美少女の登場に、思わず「ロシア」というこの世界にはない国の名前を言ってしまい、皆を困惑させてしまった魔女スタダムであった。




