第208話 完璧主義者について、ちょっとした考察を交えての配信
「師匠! 試作品が出来ましたので、見てください!」
私がスイッチ機能の改良を進めていると、なんか嬉しそうな様子のタラタちゃんが走ってやって来た。彼女には雷属性の魔力の無害化をお願いしており、なんか悩んでいるのかと思って一応はガンマちゃんに様子を見るようにお願いしておいたんですけれども、どうやらそれが上手い事いったみたいですね。
「はい、どうぞ! 師匠、確認をお願いします!」
「了解しました」
私は、タラタちゃんから受け取った試作機を確認する。
「ふむふむ、なるほど……こういう対応にしたんですね」
タラタちゃんが作ってくれた試作機、それは雷属性の魔力を人体に影響が及ばない程度に弱めたモノであった。
完全に無害化するとなると、かなり大型のモノになってしまい、作るのも大変らしい。しかし、人体に無害なところにまで弱める程度ならば、それほど大型のモノにしなくてもイケるというのが分かったらしく、それで生み出されたのがこの試作機という事だ。
「(よく、その答えに辿り着いてくれましたね)」
私は、この試作機をタラタちゃんが持ってきてくれたことに、少しばかり感動していたのであった。
タラタちゃんは、才能あふれるエルフの錬金術師だ。15歳という歳を考えても、彼女には伸びしろがまだまだある。
しかしながら、彼女には才能あふれる錬金術師だからこそ、ある欠点があった。
それは、『完璧さを求める事』。
たとえば、誤差0.1%以内の完成品を求められた場合、タラタちゃんが持ってくる完成品は誤差0.001%以内に必ず収めて来る。
これは彼女が自分の実力を見せつけたいからではなく、ただ単に彼女がそういう完璧主義者というだけの事だ。
完璧主義者なのは良い。人に迷惑をかけないのならば、より精度の高いモノを作り出すというのは、社会においてはプラスという大きな物として受け入れられるだろう。
しかし、私は会社ではないし、工場でもない。ただの田舎の、一錬金術師だ。
完璧さを求めるのは良いが、それはつまり、完璧な物しか認めないという、狭まった見方をしているという意味でもある。
今回の事だって、人体に影響がない程度にするのであれば、ここまで開発に時間がかからなかった。困難にしていたのは、彼女自身が雷属性の魔力の完全なる無害化を考えたからである。
前の職場、メガロ錬金工房で働いていた時も、タラタちゃんと同じような人が居た。
想定していた精度以上に細やかな誤差に収め、しかも納期をしっかりと守る優秀な人材が。
しかし、そんな優秀な人材は、メガロ錬金工房が倒産しようとした際に、たった一人で、完璧に元通りにしようとして潰れてしまった。
-----そう、ラグドゥネーム工房長の事である。
工房長は、完璧を求め過ぎた。工房長にはそれだけの才能があったのも事実だが、そんな工房長ですら最期は首を吊って自殺した。
何事も、妥協が大切なのだ。
完璧を求め過ぎるよりも、ある程度のゆとりを見越して、余裕ある生活を送る。そうした心のゆとりこそが、後々に大発明を生んだりするのだから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「----そう、私もそれを分かって欲しくて、彼女にお願いしたのだから!」
「何やってんの、ガンマちゃん?」
なんか壮大な物語めいた事を語り始めたガンマちゃんに聞くと、「巨匠の心の声を代弁していた」との事。
なにを勝手な事を言っているんだか……。というか、人が思ってない事を勝手に代弁しないで欲しいんだけれども。
確かに、タラタちゃんの完璧主義者的な思考が少しでも和らげば良いな、くらいには思っていた。
だけれども、私としては今回はその完璧主義的なところが上手く行ってくれれば良いと思って、お願いしたのだ。
雷属性の魔力を、人体に影響がない程度に収めるのは私でも出来る。タラタちゃんに頼んだのは、私では考えられない精度の物を作ってくれると信じての、判断である。
「あと、ラグドゥネーム工房長はそこまで精度は求めてなかったですよ」
「そうなんですか?! 巨匠の話から察するに、精度も神がかっていたのかと」
いやぁ、ラグドゥネーム工房長は、どちらかと言えば1回で済めばそれでOKみたいな、ある種楽観的な考え方の人であったよ。その1回で済ませようというのが神がかっていて、たった1回で誤差がほぼないというのが出来ちゃう人、という印象だね。私の中では。
「そういう楽観的な人だったからこそ、あんな大型案件を引き受けようとしちゃったんだと思いますよ」
楽観的であったからこそ、なんとかなるかもしれないと過信してしまって、引き受けてしまったのだ。
自分が、自殺するほど追い詰められてしまう、あの案件を。
「巨匠……泣いてます?」
「いえ、そこまででは」
ただ、少し思い出すと、悲しくなってしまうだけ。
ラグドゥネーム工房長は、今でも憧れの錬金術師である事は事実ですので。
ともかくとして、タラタちゃんも試作品を完成させたということで、私達はお互いの試作機を組み合わせて、ピエームちゃんにセットするために病室へと向かった。
さぁ、これで上手く行ってくれよ! そう思いながら。




