第205話 再びサクラアさんに会いに来たぞ配信
----サクラアさんとの会談から、1週間後。つまりは、サクラアさんに再び会って、お返しをする日。
「これからよろしくね♡ アルバトロスちゃん♡」
【んもう、こちらこそよろしくだあぜ。んご主人さあま!】
……はい、全くの杞憂でした。
やはり私が予見していた通り、サクラアさんはカゲミツくんではなく、妖刀の放つ妖気に反応していたらしく、彼女のために作った妖杖【アルバトロス】を見て、彼女はぞっこんの様子であった。
「……しかし、ボス。同じ妖刀というカテゴリなら、私の方を選ぶ可能性もあったのではないでしょうか?」
「いや、それはないね。同じ妖刀なら、確実に【アルバトロス】の方を選ぶだろうなと思っていたよ」
サクラアさんはアマゾネスの血を引いている。だからこそ、武人を引き付けてしまう妖しい魅力がある、妖刀の妖気に心奪われ、カゲミツくんにぞっこんで求婚するという事態になったのだろう。
しかし、サクラアさんはアマゾネスではあるが、魔法学校に通っていた魔法使いでもある。
「妖気を放つ武器が2つあれば、彼女はより自分が好ましいと思う方の武器にぞっこんになると思った訳だ」
「なるほど。刀と杖……その2つなら、魔法使いなら杖を選ぶのが普通でしょう。流石はボス、そこまでお考えだったとは」
まぁ、後はちゃんと握れる武器と、心臓として埋め込まれているから握れない武器。どちらの方が良いかと考えれば、こうなるのは自然と言っても良い。
……まぁ、デビュタント前に、武器にここまでご執心になってしまった彼女を、どうやってやるかは私の問題ではない。その辺はコ・ラホ家とドラスト商会に丸投げしておくとしよう。
「素敵なお返しをどうもありがとうございます、ススリアさん」
たっぷり、1時間。
アルバトロスという武器で堪能したサクラアさんは、ぺこりと頭を下げて、感謝の意を表してくれた。
それはそれで良いのだが……私としては、口元から涎が流れ出てるのを拭いて欲しい。
その涎、アルバトロスを持っている最中に出てた、喜びのあまり出て来た奴でしょ?
あと、未だにカゲミツくんに対して、恋する乙女的な視線で、狙うのも止めて欲しい。もうカゲミツくん震えてるし、あなたにはアルバトロスを既に渡したでしょ。
「いえいえ、これも変形式人形を見せていただいたお返しですので」
まぁ、仮にも貴族子女でもある彼女を、面と向かって注意する度胸もない私は、そう返答する。
私の今の思いからしてみれば、既に帰りたい。なんなら待っていた1時間の間に帰りたかったくらいである。
私がまだ残っていたのは、サクラアさんが見せたいものがあるからという事だ。なんでもアマゾネスであった彼女の母が、父親のツブア領主を見初めたきっかけとなる代物らしい。
「(そう言えば、その謎も残っていたな)」
アマゾネスは、戦闘民族。彼女達にとって、とある領地の領主様という地位は何の意味もない。
ただ強いかどうかという事だけが、彼女達が見初める、たった1つの要素。
ツブア領主とは顔合わせの時に一度見たが、とてもじゃないが、強そうという印象はなかった。スコティッシュさんからも話を聞いたが、ツブア領主が武力面で強かったという記述はどこにもなかった。
しかし、アマゾネスの血を引くサクラアさんが産まれている以上、彼女の母親であるアマゾネスは、ツブア領主の何かを見て、心を奪われて子供を作ったという事。
その何かというのが少し気になった私は、こうして1時間も無駄に待っていたという訳である。
「これが、母が父を気に入った理由の品です」
そう言って、サクラアさんが見せてくれたのは、箱に入った小さな石である。その石は真ん中が黄色い以外は何の変哲もなさそうな、ただの小石であり、正直、何も言わずに見せられたらなんだこれと言いそうな代物である。
「すいません、サクラアさん。この小石はいったい……?」
「あぁん♡ 呼び捨てで良いのよ♡ カゲミツ♡」
「……ボス、すいません。ゴーレムのはずなのに、悪寒がして来ました」
その後、サクラアさんが教えてくれた答えは、『雷神石』と呼ばれる私も知らない鉱石であった。
雷の性質を有したこのコ・ラホ領でしか取れない希少鉱石であり、この雷神石を加工すると、雷を放てるだけではなく、周囲のモノを一時的に動かすことが出来るのだそうだ。
サクラアさんの母親のアマゾネスは、そんな不思議な強力な武器を持つツブア領主を見て、強いと思って襲い掛かって、子供を出産したのだそうだ。
「なるほど、そんな性質が」
私は、箱に入っていた小さな石、雷神石を触りながら、ふむふむと考え始める。
「----いけるかもしれない」
私はそう呟くと、早速サクラアさんと交渉に入る。
交渉内容は、この雷神石が大量に欲しいという事。それこそ10t単位の、大口注文レベルで。
父親であるツブア領主に聞いてみないと分からないというので、サクラアさんと共に雷神石の大量発注をお願いした。
ツブア領主は快く引き受けてくれた。しかも、あまり価値がない鉱石として市場ではそこまで安くはないからと、かなりお値段も抑えるどころか、割引までしてくれたのである。
いやぁ~! こんな素晴らしい鉱石を、安く仕入れることが出来て、満足♪ 満足♪
「して、ボス。この石をどうするつもりで」
「ふふふっ、カゲミツくん! 私はこの石を使って----」
----ピエームちゃんを、救い出そうと思います!




