第203話 サクラアさんのための妖杖作り配信
「みなさん、おはうおっち! 久しぶり過ぎて声が枯れてないか心配している、あるけみぃで~す!」
(※)『おはうおっち!』『おはうおっち!』『あるけみぃ、おひさぁ~』『【速報】あるけみぃ 久しぶりの登場』『最近はゴーレムばっかりだったからね』『おはうおっち!』『見るのは久しぶりだ』
はい、という訳で久しぶりの配信をしたいと思います!
今回の配信内容は、カゲミツくんご執心のサクラアさんのために、新たな妖刀を作って行こうという配信になる。
サクラアさんは、戦闘民族のアマゾネス。根っからの戦闘民族の血筋である彼女は、妖刀という"所有者を狂わせて戦闘狂にさせる武器"に惹かれてしまっているのだと思われる。
そうでもなければ、その日出会ったばかりのゴーレムにあそこまで心惹かれないって。求婚したりしないって。
「今回作るのは、魔法使いが泣いて喜ぶ、そういう類の杖です」
(※)『泣いて喜ぶ杖?!』『人格搭載入り?!』『いや、たぶんそういうのじゃねぇだろ』
はい、その通りです。誰ですか、そんなヤバい杖を想像しちゃってるのは。そんな泣いたり、喜んだりする杖を作るくらいなら、普通にゴーレムとして作りますよ。その方が簡単だし。
----という訳で、早速杖作りスタートっ!!
「(って言っても、別にそんなに大したモノでもないんだけれども)」
そもそも妖刀というのは、前世では数々の因縁や呪いによって生み出された偶然的な代物みたいに語られているが、この世界ではそうではない。
なにせ、ドラゴンが空を飛び、魔法が普通にあるファンタジーな世界だもの。探せば、それに適した素材はこの世界には存在しているって事だ。
----偽獣鉄。
鉄という名前ではあるが、実際には鉄ではない素材である。魔物の血液や糞尿といった体液が、特殊な環境条件によって結晶化したモノで、金属の鉄のように硬いのが特徴である。
この偽獣鉄を使って作った武器が、妖刀【厄狐丸】である。偽獣鉄を使って作った武器は、人を狂わせる魅力を放つ武器になるのである。
『【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて【助けて----』
「これが厄介なんですよね、偽獣鉄は」
この偽獣鉄を溶かすと、このような音が響いて聞こえてくる。昔は人の怨念とも言われてたけど、実際は鉄が溶けた時の音がたまたま偶然このようになるというだけだ。
理屈は良く分からない。そうだからとしか、言いようがないのだから仕方ないだろう。
武器を作る際は集中しているのに、このような音が聞こえて集中を乱してくるから、とある地域では呪いをもたらす金属として伝わっているのである。
私としては、これは単なる音として済ませてるから、別に何とも思ってないんだけどね。
ちなみに、配信内でこんな音を流す訳にはいかないので、別の音声として流すように、ガンマちゃんに頼んである。
『【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ【にゃあ----』
『※本来は別の音声が流れていますが、私の方で変更させております※』
(※)『凄い勢いで、猫の鳴き声が響いて来る~』『本当はどうなってるんだろう』『にゃあにゃあ、楽しそう!』『いや、本当は別の音声が流れてるって書いてあるぞ』『多分、本当はヤバイ音声なんだろうなぁ……』
まぁ、実際は私も同じ音声が流れてるのだ。魔道具のヘッドフォンの力で、猫の鳴き声のように聞こえるようにしているのである。
だったら音を聞こえないようにしたらどうなんだという話もあるかもしれないが、武器作りに置いて金属の溶けた音の変化、音の強弱を聞き分けるってのは重要な事なのだ。だからこそ、【助けて】という面倒な音を、【にゃあ】という音に変えているのだから。
----という訳で、出来ました!
「これが妖杖【アルバトロス】だ!」
じゃじゃーんっと、私は偽獣鉄を使って、見事、妖刀の作成方法を利用した杖の製作を完了したのであった。
これさえ渡せば、サクラアさんの興味がこちらに行って、カゲミツくんへの求婚騒ぎも一旦は落ち着くはずだ。
(※)『これ、杖?』『どう見ても、本だよなぁ~』『先端に本がついた棒にしか見えない』『これ、魔法使いが殺到する?』
【-----んじゃあ使って見れば良いのではあ?】
(※)『なんか喋った?!』『泣いて喜ぶ杖説が、本当だった?!』『嘘だろ』『マジで泣いて喜びそうな杖だ!』
配信が騒がしくなる中……
「あれぇ……?」
私は、意図していない杖の発声機能に、頭を悩ませるのであった。
「(カゲミツくんも意図していない機能があったし、もしかして【アルファ・ゴーレムサポートシステム】ではなく、この偽獣鉄が原因なんだろうか?)」
【アルファ・ゴーレムサポートシステム】のメンテナンスを止めて、この鉄の解析をしようと心に誓う私であった。




